踊れば楽し。

紫月花おり

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第一章

第34話 戦闘(ケンカ)上等!!?

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 こいつらの覚悟は分かった。
 俺も覚悟を決めた。
 そこに、迷いはない──。

「さて、ここからが問題だ。──今後どうするか」

 そう天音が切り出すと、幻夜は改めて俺を見つめ直す。

「まず宗一郎には紅牙としての……少なくとも最小限の記憶は取り戻してもらいたいところだね」

 宝の在処は紅牙しか知らない。
 それがそもそもの原因なのは俺にだって分かっている。
 だからといって…今の俺に……どうすれば記憶を取り戻せるかなんて──分からない。

「思い出してもらったところでどうするか……ってのは紅牙…宗一郎の意思だけど」

 苦笑混じりに言う篝に、彼方も同様に苦笑をうかべて頷いた。
 だが、幻夜の表情は厳しい。

「そもそも、何で急にそんな危険なモノに手を出したのか、それもたった一人…独断で起こしたこと──何か理由わけがあったとしか思えない」

 その言葉に天音も溜め息混じりに頷くと、 

「オレらにも何も言わずにやったことだ。オレらはその理由が知りたい……ってのもあるんだがな」

 ──それはもしかしたら、最大の屈辱だったのかもしれない…仲間こいつらにとっては。
 だからこそ待っていてくれた…それでも、今でも仲間であると教えてくれた──? 

「まぁ…もう動き出してしまったことに変わりはない。僕たちはもう一度仲間として紅牙…宗一郎についていくつもりでいるんだよ」

「幻夜……?」

「これからどんなことになるか分からない。どんな危険が待っているか分からない……でも、今度こそ死なせない」

「……彼方…」

「オレたちは皆そう思っているよ」

 “だから信じて…思い出して…… 仲間オレたちのことを”

「まぁ、そういうわけだから……宗一郎、頑張って思い出してね」

 その真っ直ぐで、強い意志を宿した瞳から視線を逸らせないまま、見つめ返すしかない俺。
 それに彼方はにっこりと微笑み返した。

「三妖の均衡は崩れかかっている。もう何時大きな戦いに発展してもおかしくない。それを左右するのが紅牙と鬼哭の存在なんだ……分かってくれたかい?」

 幻夜からダメ押しとばかりにそう言われ、俺は少々の躊躇いはあったものの…頷くしかなかった。

 この日はこのまま、この場で野宿──。
 見張りに一人が着き、あとは仮眠という形式は変わらず……そんな中で俺はまたもや眠りづらい気分で横になっていた。

 もちろん、連日の疲れも手伝って…眠りに落ちるのも今までより早そうだ。 
 だが、重い話を聞いた直後なだけあっていろいろ頭の中を整理するのに時間がかかっていた。

 とにかく、俺の意志はもちろんだが……最早義務でもある、紅牙の記憶を取り戻さないことには前へ進めないのは分かっている。
 ただ…世界がどうなるかということより、仲間あいつらのためにも早く思い出したい。 

 運命だろうが宿命だろうが、ここまで巻き込まれたからには全て立ち向かってやろう──!
 俺はそう心に決めていた。

 徐々に遠退いていく意識……。
 ようやく眠りに着きかけた時、俺の耳に届いたのは彼方と天音の会話だった。

「……どうせオレたちのことは気付かれてるんだろうし、もうオレが動いてもいいかなぁ?」

「……そりゃあ、確認じゃねぇだろ?」

「あはは…分かった?」

 相変わらず話の内容に対して軽いノリで言う彼方に、天音の盛大な溜め息が聞こえた。 

「まぁ、上の連中は黙ってねぇだろうなぁ……」

「最初から本気で忠誠なんて誓った覚えはないけどね、オレは」

「分かってるよ。だがそうは言っても……あの時は仕方がなかったし、お前の父親だって重臣、何より……軍には…総大将には、違うだろ?」

 確かさっき、一族の意向に従っていたって言っていたし、無理矢理にでも忠誠を誓わせられていたとしてもおかしくない。
 加えて、彼方の父親は重臣……てことは天狗の上層部の一人ということか。またしても初耳な情報だ。
 それでも、二人が微妙な状況と立場であることは再確認できた。
 そして、二人の立場を決定的に変えてしまった…“あの時”というのは、17年前の事件で間違いない──。

 天音の言葉に、少しだけ間をおいて聞こえた彼方の答えは……

「……そうだね」

 その声音は、低く…戸惑いや迷いが混じっているようにも感じられた。

 特に他の二人からの言葉は聞こえない。
 二人の間に流れる重い沈黙──それを破ったのは、天音。

「……で? 実際どうするつもりなんだ、副大将殿?」

 改めて言った天音の問いは、役職…立場上の答えを求めたもの──それを含めた上での彼方自身の“答え”。

「父上はどうでもいいけど…総大将である獅威しいのためにオレが軍にいるのは事実だね」

 父親はどうでもいい、というのも彼方らしい気がしたが、父すらもどうでもいいというのに……そんなに総大将・獅威の存在…絆は彼方にとって大きいものなのか?

 ──ズキン…ッ

 胸の奥…魂に感じた……微かな痛み。 
 それは、罪悪感にも似ていた。

 俺じゃない…紅牙の感覚……?

「オレもまぁ…そんなとこだな……かわいい部下もいるし?」

 敢えて明るく言った天音のやんちゃな…だが仕方なさそうな笑顔が瞼にうかぶ。

 上の連中より、身近な上司・部下への想いの方が強い──それは、こいつららしいとも思えた。
 短い会話で垣間見えた俺の知らない“絆”に、いっそ何も考えないように……いや、感じないように硬く目を閉じ、無理矢理眠りにつくしかなかった。

 ──その時、俺が見たモノは、まるでフラッシュバックするように一コマ一コマが目まぐるしく、しかし印象的に映り変わる場面。
 俺が出会ってからのこいつらの……仲間たちの姿。
 そして、最後に映ったのは…俺が彼方に初めて会ったあの日の、悲しげな…あの笑顔──…

「──ッ!?」

 反射的に目が覚めたのは朝も明けきらない中で、しかも俺は彼方に抱え上げられている状態だった。

「あ、目が覚めた?」

 いつもの調子で言う彼方だが、周囲は緊迫ムード……?

 俺は下ろしてもらい、辺りを見回しながら、 

「…な……何があったんだ…?」

 いや、その前に…誰だッ? そいつは!??

 すでに俺たち…正確には、篝と天音と臨戦態勢に入っている、その先に立つのは──うっすらと明るくなりかけている空を背景に、緑…黄緑色にも見える長い髪に、はっきりと二本の角がある若い男だった。つまり…… 

「……鬼??」

 だがやはり、鬼とはいえゴツイイメージではなく、どちらかといえば細身でキレイ系かもしれない。
 それでもこの状況から考えられるのは…敵で間違いない。

 どうやら、この敵の出現で寝ていた俺を抱き上げて避難してくれていたらしい……。
 起こしてくれれば自分で逃げたのに、妙な気遣いのおかげで生まれて初めてのお姫様だっこを経験するはめになった…。
 まぁ、危険を回避してくれたのはありがたいので良しとするとして、今はこの状況と目の前の敵に集中しよう……恥ずかしい気持ちになっている場合ではないし!

 俺の目の前には敵であろう鬼と、そいつと対峙する天音と篝。
 そして、その後ろで俺を護るようにそばには彼方と幻夜。

 今更確認するまでもない俺の言葉に、

「うん、ボクと同族だよ。アイツは……確か、浅葱あさぎだったかなぁ?」

 そいつ…浅葱と対峙したまま、記憶を辿るように言った篝に、俺の横にいた幻夜も軽く頷くと、

「一応実力者の一人…と聞いてるよ。噂に聞く彼の性格は自信家で野心家……まぁ、あんまり頭が良い印象はないね」

 その言葉に同意するように篝も頷いた。 

「ボクもあんまり眼中になかったし、興味もなかったなぁ……面識もほぼ皆無だし?」

 そうはっきり言うなよ…。
 本人を目の前にしてのこの酷い言いようは、当然怒りを買うだけだろうに……同族の篝のみならず、幻夜にまで全否定されるのも少々かわいそうな気がした。

「──だが、これだけあからさまにケンカ売られたら買わねぇわけにはいかねぇだろ?」

「うん、それはもちろん」

 最前線に立つ天音の答えが分かりきっている問いに、篝は頷いたものの、

「でも……天音…本当に良いの?」

 それは、天狗である天音が参戦することの意味──それを確認するように言った篝の言葉に、天音は不敵な笑みをうかべ、 

「ケンカ売ってきたのはアッチ、売られたのはコッチ。別に普段だってケンカなら有り得る事態だろ?」

「まぁ、それはそうだけど……」

 これはただの他族間の争いじゃすまされない──ここにがいる限り。
 紅牙の仲間として戦うことになるのだから……三妖の争いの火種にもなりかねない?

「仲間ってのは事実だから仕方ねぇだろ──それに、我らが副大将殿も了解済だし、解禁だろ?」

 ニヤリとした天音に、その視線の先…天狗軍副大将・彼方は小さく溜め息をつくと、

「別に了解した覚えはないよ……もういいよね、て言っただけで」

「副大将殿がそうするなら、部下の俺がやってもOKだろ?」

 おそらく天音はこいつらの中でも好戦的な方だろう──天狗軍でも自他ともに認める特攻隊長らしいし。
 それを我慢してたなら尚更、彼方の参戦解禁宣言を待っていたはず……

「まぁ……かまわないけど」

 彼方の言いようは、本当に“構わない”=“関心がない”くらいの様子だったが、言葉の意味としては了解ということ。
 それを確認した天音は、俄然ヤル気で好戦的な笑みをうかべたまま篝へ向かい、

「まぁ、アッチの狙いは宗一郎と篝みたいだしな。一応メインは譲ってやるよ」

 あからさまにウキウキした様子の天音に、

「それはどうも」

 溜め息混じり言った篝だが、何だか楽しそうに見えた──。
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