踊れば楽し。

紫月花おり

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第一章

第22話 知らなきゃ良かった!!?

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 ストーカー蘭丸と篝の対決は、篝のホームラン的な一打で呆気なく決着が着いた。
 ……のだが、その戦闘を見ていた俺から妖気放出(?)という予想外の出来事に一同…特に俺自身が驚き、改めて自分が紅牙であることを思い知らされた気がした──。

 とりあえず、蘭丸も片付き、俺からの妖気も収まって……俺たちは再び囲炉裏を囲んでいた。

 一応、お茶を入れ直してくれたけど……俺と彼方以外は再び酒盛り状態になっている気が…!?
 そんな中、ふいに……

「──まぁ、とりあえずだ」

 天音がそう切り出し、俺に視線を移すと、

「宗一郎、お前に自覚があるかどうかは別として……紅牙だということは確定だ」

 その言葉に篝は頷くと、 

「そうだね。宗一郎が紅牙なのは間違いないけど……あの妖気は確かに紅牙のものだった」

 改めて俺が紅牙であると確認されたようだが……

「だが…蘭丸に気付かれたな……」

 そう言う幻夜の表情は険しい。
 蘭丸自身に宝への興味はなさそう、とは言っていたが……

「やっぱり……マズいのか?」

 俺が不安げに幻夜に聞き返すと、

「蘭丸は…というか、猫又は鬼の傘下に入ってるからね。宗一郎……紅牙が幻妖界こっちにいることが伝わる可能性はある」

 ──確かに、それは面倒なことになりそうだな…というか、俺自身の身の危険が……!?

 余計に不安になり始めた俺に、篝は苦笑をうかべると、

「……まぁ、以前から蘭丸は猫又一族の意向から外れて、単独でボクらを追ってるから……伝わるかどうかは分からないけどね」

 あくまでも個人的にストーキングしてるということか。まぁ、あの様子じゃ、そうか。

「──ていうか、なんで蘭丸は篝を?」

 好意を向けているから、にしても……やりすぎ感がある。
 そんな素朴な疑問を呟いた俺に、篝は心底後悔している様子で黙ってしまい……代わりに彼方が、 

「……篝はね、昔…小さい頃の蘭丸を助けたことがあったみたいでねぇ」

 苦笑混じりに言う、その横で今度は、

「自分を助けた強い者…篝への憧れから──…いろいろ拗らせた結果、なっちまった、てことだな」

 所詮他人事なだけに面白そうにいう天音……を睨みつけつつ、

「……ボクは優しいんだよっ」

 プリプリ怒りながら言う篝……だが、あの戦闘い方は“優しい”とは到底思えなかったけど??
 思わず疑い深げに篝に視線を…向けるのは止めて、彼方に確認するべく視線を移すと……

「……あぁ、篝…戦うの好きだからね」

 困ったように……でも、一応答えてくれた彼方。
 その言葉に篝は、

「──…お酒入ってると、ついが出ちゃうんだよねぇ……」

 ボソッとそう言って、持っていた杯をあおる。

 ……そういえば、酒が入った上でのあの戦闘か!?
 それは戦闘い以上に凄い気が……というか、あれが素なのか!!?

 普段の…美少年的外見を裏切らない可愛らしさと、穏やかさに秘められた篝の素の部分──…もしかして、S気質を垣間見てしまった?
 ま…まぁ、本来の大人の姿でなら……分からないでもない…かもしれないけど。
 にしても、ちょっと篝を見る目が変わってしまいそうだ……ッ

 そこへ、更に天音が、

「基本的に妖は好戦的な連中が多いんだよ。……その中でも特に、鬼の一族は戦闘マニアが多いし、実際強い」

 そう仕方なさそうに付け加えた。 

 戦闘マニアかぁ……
 ん? 鬼に多いって……

「──ってことは、紅牙もか?」

 俺の問いに、全員が力強く頷いた……!?

「そ…そうなんだ……」

 なんだか微妙な気分だ。 
 俺自身は格闘技に興味があるわけでもないし、喧嘩だってろくに…というか、敢えてしない。
 そんな俺が“戦闘マニア”の紅牙と一緒にされてもなぁ……やはり無理がある気がする。

「確かに、紅牙は戦うのが大好きだったよ。でも……それは僕らの本能だからさ」

 幻夜が慰めるように(?)そう言ったが……慰めにはなってない。そこに、

「でも……アイツ、自称“盗賊”だったよな?」

 天音が彼方に確かめるような視線を送る……と、

「うん。でも、あくまで自称で……実際やってたことは戦うことがメインだったし、物も“盗む”んじゃなくて“奪い獲る”だったと思うけど」

 苦笑混じりに答えた彼方。
 ということは、今までの話を総合すると……

 紅牙は妖…鬼の一族で、好戦的な戦闘マニアの一人で、自称盗賊。
 結果的にやってたことは…強奪と殺人!??

 ──あぁぁ…なんてことだぁ……ッ!!? 

「で…でもっ、彼方たちもその仲間だったんだろ……ッ!?」

 動揺を抑えきれないまま口にした俺の質問に、四人は苦笑をうかべ……頷いた。

「まぁ、僕らは…物には興味なかったけどね」

 と幻夜は付け加えたが。

 ──ということは。
 ここにいるのは、確かに仲間…だけど、紅牙の強奪に加担しながら戦っていた?
 そして、全員が戦闘マニアの括りに入っていてもおかしくない……てこと!?

 俺……こいつらと一緒にいて──本当にいいのだろうか…?
 こいつらの普段の穏やかさ(?)は仮で、本当はものすごくコワいんじゃ……?? 
 いや、妖怪だし……それは当然のことなのかもしれないけど。
 大丈夫なのかなぁ……?

 不安から軽い恐怖を感じ始めた俺。
 と、そこに珍しく……彼方が紅牙のことを話始めた。 

「──紅牙はね、強いやつと戦うのが本当に好きだったよ。そういう奴らってのはいろいろ高価なモノを持ってたりするから…戦って勝つことで戦利品として奪ってたんだろうね。……まぁ、オレと出会う前は本当に盗賊っぽいことしてたのかもしれないけどねぇ」
 
 最後は呟くようにそう付け加えた。

 紅牙の話をする彼方はどこか寂しげで、しんみりしたような表情で…… 
 おそらく、その脳裏には紅牙の……紅牙と過ごした記憶が、鮮明に蘇っているに違いない──

 そんな彼方の言葉に、天音は苦笑をかすかにうかべたまま軽く頷くと、

「確かに紅牙は強かったしな。まぁ……幻妖界では結果的に“盗賊”として有名になったわけだけどなぁ」

 なんだか……知りたかったけど、知りたくなかった紅牙の一面。
 戦闘マニアの盗賊かぁ……。
 確かに、問題の“宝”も紅牙が奪ったわけだし、盗賊というのは間違ってはいないのだろうけど。 

「でも、この隠れ家には金目のモノとか無さそうだよな……?」

 俺は改めて、周囲をキョロキョロ見渡してみたが……高価そうな感じのモノは見当たらない。
 あくまでも質素で、必要最小限の品しかないのだから。 

 すると彼方が、

「……奪うところまでが楽しかったんだろうね。奪ったモノは身の回りに置いてなかったし、いろんなとこに隠してたみたいだよ?」

 そして彼方は、自分たちはその場所全てを把握しているわけではない、と付け加えた。 
 ──まぁ、強い奴と戦闘することを目的にしてるなら…そんなにモノに執着してるわけじゃないのかもしれないけど。
 だが、せっかく手に入れた(奪った?)宝物を手元ではなく、いろんな所に隠しているとは……ん?

「……なら、問題の宝も…そのうちのどこかに?」

 問題の核心に近づいたように、その疑問を口にしてみたが……

「問題の宝の在り方は、紅牙しか知らないと言っただろ」

 天音に(溜め息混じりで)あっさりと返されてしまった。
 しかも、 

「紅牙が最後に奪った問題の宝ってのは、オレらも見てないし……少なくとも、オレはソレが実際何なのかも詳しく知らないんだよ」

 困ったように言う彼方。
 こいつらも見てないとなると……

「……紅牙が単独ひとりで奪ったってことか?」

 俺の言葉に四人は頷いた。 

 それでも鬼の宝物ってことだから、同じ鬼の一族である篝ならソレが何なのかくらいは知っているんじゃ……?
 そう思って、篝に視線を向けてみた…が、

「残念だけど、ボクも詳しくは知らないんだ。知ってるのは……その宝ってのが、“ 鬼哭きこく”と呼ばれている秘宝だってことくらいだよ」

 鬼の秘宝“鬼哭”──

 それは鬼だけでなく、妖全体や幻妖界に関係するようなモノらしいが……名前から想像するに、何か怖そうななモノな気がするくらいか?

 すべては紅牙の記憶にかかっている──
 そんな空気が、俺にはとてつもなく重く感じられた。 

 重い沈黙──…
 それを破ったのは彼方だった。

「……とりあえず、今日は休もうよ。で、夜が明けたら…宗一郎が夢で見たって言う場所に行ってみよう」

「え……?」

 その言葉に俺…いや、俺たちは耳を疑った。……だが、 

「見たんでしょ? 紅い荒野」

 確かに──…俺は獏の星酔によって、紅牙の記憶の一部を垣間見た……らしいが、

「……本当に…あるのか?」

 俺の質問に、彼方は頷くと、 

「──あるよ。そこに行けば、また何か思い出せるかもしれないしね……他にもいろいろ案内してあげる」

 その言葉に…俺たちは、改めて彼方を見つめた。
 さっきまで彼方は、紅牙の記憶が自然に戻るのを待つ…待ちたいと言っていたのだから。
 だからこそ、記憶が蘇る手伝いをするようなことを…彼方自ら申し出るなんて……?

「彼方ちゃん……?」

 思わず口をついたのか…篝の問いかけに、彼方は……ただ黙って、その口元に苦笑をうかべるのみだった──…。 
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