マリーゴールド

Auguste

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第63幕 幕引き

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銃で撃たれるってこんな感じなのか。
耳を掠っただけでもすごく痛い。
あの瞬間、俺は力を振り絞って沙和子を押し倒した。
その時に弾が俺の耳を掠ったのだ。
触らなくてもわかる。
耳の一部がなくなったようだった。

「ごめんねお兄ちゃん。」
「大丈夫?」
「すごい血が流れてる……。」
沙和子が心配そうに見つめる。

俺は沙和子の腕を抑えながら
「大丈夫なわけないだろ!」
「すごく痛いに決まってる!」
「でも………。」


「それより心の方がもっと痛い。」
「なんでこんなことを……。」

「それはさっき話した通りだよ。」
「お兄ちゃんを守りたかった……。」
「お父さんもお母さんも……。」
「だって………。」
「私達家族なんだもの。」

「もっと別の方法があったはずだ!」
「それに今まで通りに過ごすこともできただろ?」

「そんなんじゃダメだよ……。」
「だってこのままだとお兄ちゃんはずっと不幸なまま……。」
「お兄ちゃんを苦しめてる奴らは甘い蜜を吸いながら幸せに過ごす……。」
「誰からも裁かれずにやりたい放題。」
「それって不平等じゃない?」
「人を不幸にした人が幸せになるなんて……。」

「それは………。」
俺は言い返せなかった。
事実そう思ったことがあるからだ。
人間は法に守られてる。
でも法に触れてなければ、人の心を傷つけようが壊そうが裁かれることはない。
誰かの不幸が誰かの幸福になる。
この世界はそう出来てるのだ。
でも………。

「でも……。」
「俺は家族にこんなことしてほしくなかった…。」
「こんなことなら俺なんて……。」
「生まれてこなければよかった………。」

「そんなこと言わないで……。」
「2人が悲しむよ。」
「私も悲しい……。」

「お前は!」
「俺を守るために生まれたって言ってたけど…………。」
「それで本当に幸せだったのか?」

「うん!」
「すごく幸せ!」
「お兄ちゃんの妹に生まれて良かったって思ってる。」
「お兄ちゃんが幸せなら私も幸せ!」

「そうか……。」
「でもな……。」

「お前は幸せでも俺にとっては最悪なんだよ!」
「どん底に落ちた気分だ!」
「こんな気持ちになるんだったら最初から……」
「いなかった方がよかった……。」

「………。」
「そっか!」
「それがお兄ちゃんが望んでる幸せな結末なんだね!」

「何を言って……。」
沙和子がまた発砲をした。
俺が抑えていた手は振動で離れてしまった。

そして沙和子はこめかみに銃を当てながら満面の笑みで
「バイバイ!お兄ちゃん!」
「これで幕引きだね!」

銃声が響き渡った。
沙和子の頭から血が流れている。
撃った逆の方からは脳みそらしきものが飛び出していた。

「そんな………。」
「嘘だろ……。」
「おい!沙和子!」
俺は沙和子の肩を揺らした。
ぐったりしてる。

「さわ……。」
俺は信じられなくなった。
俺の目の前で……。
俺が感情的になった一言がさわを……。



俺は昔みたいにさわの頭を撫でた。
褒める時も泣いているときもどんなときも……。
さわは撫でられると喜んだんだ。
「さわ……。」
「俺はさわがいなくていいなんて本当は思ってないよ……。」

「大丈夫。大丈夫だからね、さわ。お兄ちゃんもう大丈夫だから………。」
「だから……。」
「目を………開けてくれよ。」
俺は徐々に体温が低くなっていくさわの頭をずっと撫で続けた。
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