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11、厄介なスキル(アンドレ視点)

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「はぁ……」

 訓練場を出ていったリョータとリラの後ろ姿を見送ると、思わずため息が溢れてしまう。魅了スキルのパッシブでレベル十など、作り話にしてももう少しマシな設定を考えろと言われるほどにあり得ないスキルだ。

「ナタリア、リョータは何者だと思う?」
「そうですね……とりあえず、悪意のようなものは感じられませんでした」
「そうだな。本当にこの世界のことが何も分かってないようだった」

 異世界など、本当にあるのだろうか。信じられない、全く信じられないが……リョータの服装や持っていたマイクという不思議な杖のようなもの。あれらは少なくともこの国にはないものだった。

 それに最初に報告に来てくれた冒険者の話では、リョータは深淵の森から出てきたという。深淵の森を奥深くまで進むと高くそびえ立つ山脈があり、それを超えた先には他国があるが、さすがに山脈を越えて深淵の森を抜けてきたなんてことは考えられない。

 他国からの刺客ならば西の隣国からだろうが、西からなら深淵の森になど行かなくともここルリーユの街には辿り着ける。山の向こうの国からここに来るのだとしても、西の隣国ルートを選ぶだろう。
 そもそも他国からの刺客がこんなに目立つ行動をとるはずがない。

 ――ダメだ、これはいくら考えても結論は出ないな。

 リョータが言っていた、異世界から突然この世界に来たとかいう突拍子もない話が、一番整合性が取れるというのはなんとも微妙だ。信じたくはないが、信じるしかない。

「ギルド上層部や国には何と報告をすれば良いのか……本当に厄介ごとを持ち込んでくれたな」
「とりあえず鑑定石のデータは残してありますので、そのデータを出力して添付すべきでしょう。後は……ギルドマスターが王都へ呼ばれることになるかと」
「やはりそうか。わしはあそこは好かんのだがな」

 どんな反応をされることになるのか。危険だから即刻排除しろというような命令が下ることはないだろうが、少なくともリョータに監視がつくのは確実だ。

 魅了のレベル十など、一国を落とすことも容易い力だ。先程わしが魅了で操られた時は、魅了をかけられるということを分かっていて、さらに操られないよう腹に力を入れていたにも関わらず、全く抵抗できずに言葉一つで操られてしまった。
 パッシブスキルの効果がある範囲外に出たところで魅了は切れたが、それはリョータがわしを魅了しようと考えていなかったからだ。多分意図的にリョータが魅了をかけようとすれば、声が届く範囲、もしかしたらもっと広い範囲にまで魅了をかけて操ることができるかもしれない。

 本当に怖いスキルだ……しかしリラがいることが救いだな。リョータはスキルは強いが他に戦闘能力はないようだったし、魅了の効かないリラがリョータに近づいてスキル封じをかけることができれば、リョータはほぼ無力になる。

 国もリラがいなかったら、もしかしたら排除の方向に動いていたかもしれないが、リラの存在がいてコントロールできるのなら様子見を選ぶだろう。
 リョータが敵にならずに味方として、魔物に対してあのスキルを使ってくれるのならば、国にとってかなり有益だからな。

「ギルドマスターはリョータさんを案外気に入っていますね」
「そうだな……悪いやつではないと思ったぞ。突然スキルを得て困惑している礼儀正しい青年にしか見えなかったからな、悪い結果にはなってほしくないと思っとる」
「好きだ~って叫んでましたしね」
「なっ、それを言うのは反則だ! あれは魅了スキルのせいだからな!」

 あの記憶だけは消し去りたい。覚悟はしていたものの、長い人生で上位に入るほど精神的に辛い体験だった。

「かしこまりました」

 ナタリアは慇懃に頭を下げたけれど、本当に分かってるのかは微妙だ。これからあと何回かはこのネタで揶揄われる覚悟をしておこう。はぁ……なんでわしの周りには濃い性格のやつばかりが集まるんだか。

「そういえばギルドマスター、リラさんに対するパーティーへの勧誘は全てお断りの連絡を入れなければいけませんよ」
「そうだな。確かいくつもの高ランクパーティーから勧誘が来てたか?」

 普通はパーティーへの勧誘などは個人間でやるものだが、リラはかなり有能なスキルを持っていてソロだったので、その情報は国中に拡散されて、ぜひパーティーに入ってほしいとギルド経由で高ランクパーティーから勧誘が来ているのだ。
 リラもパーティーに入った方が安全だし、決心がつくまではと保留にしてたんだが……まさかあんな得体の知れないやつとパーティーを組むことになるとは。まあ悪いやつではないから良いんだが。

「はい。Aランクパーティーが三つ、Bランクパーティーが九つ、Cランクパーティーが五つ保留にしてあります」
「そんなにあるのか……全部に返事をしなければいけないな。――ナタリア、リラにとってはこれらのパーティーに入るよりも、リョータとパーティーを組む方が良かったと思うか? わし達が厄介ごとを押し付けた形になってないだろうか」

 リョータはリラのスキル封じがないと街で生活できない状況だったので、強制という形にならなかったかと今更ながら不安になってそう聞くと、ナタリアは首を横に振った。

「大丈夫です。気にする必要はありませんよ。リラさんは可愛らしい見た目に反してとても強かです。ほぼ初対面の相手への同情心から仲間になってあげるような性格ではありませんし、本当に自分にとって有益な仲間になると考えたのだと思います」
「確かに……そうだったな」

 リラを仲間にしたくて色んなパーティーがさまざまな策を講じていたが、同情を誘うものも笑顔でバッサリと切り捨てていた記憶がある。

「リラは大丈夫だな」
「はい。お二人が上手くパーティーとしてやっていけると良いですね」
「そうだな。しばらくは見守ろう」
「そうしましょう。ではギルドマスター、部屋に戻って仕事の続きをしましょうか」

 そうしてわしはナタリアに連れられてギルド長室へ戻り、そこからは勧誘へ断りの連絡を入れるという仕事に追われて一日が過ぎていった。
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