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9、救出
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『アイス』
「うわっ、なんだこれ!?」
「おいっ、あっちから誰か来るぞ! 侵入者だ侵入者!」
まずはニックの氷魔法で騎士達の足を凍らせて動きを止め、四人は混乱している敵の下へ突っ込んでいった。騎士達を殺す必要はないので、基本的には峰打ちや軽い攻撃で意識を刈り取るだけだ。
しかし相手はエドガー達を全力で殺しに来るのだから、少し力が入って重傷を負わせてしまうのは仕方がない。この四人は積極的には人を殺したくないと思っているが、相手が殺しに来る場合はやむを得ないと考えている。
そうして騎士達の間をアーシェラの下に駆けていたのだが、騒ぎを聞きつけた援軍が来てしまい先に進むペースが遅くなってきた。
「ここの騎士達は私とグレンが引き受ける! ニックとエドガーはアーシェラを頼む!」
アーネストはそう叫びながら、また一人の騎士の鳩尾を蹴り飛ばす。そう、アーネストはレイピアの達人でもあるのだが、体術も相当な強さなのだ。
「分かった! ニック行くぞ!」
「はーい!」
そうして四人は二手に分かれた。ここで騎士達を引き留めるのがアーネストとグレン、ニックとエドガーはアーシェラを助けに行くようだ。
「ニック、アーシェラの部屋はここを真っ直ぐ行った右側の部屋なんだよな?」
「そう! グレンが言うには三つ目の豪華な部屋だってよ」
「じゃあそこまで一気に行くぞ! おりゃあ!」
エドガーは叫びながら大剣で騎士達をまとめて振り払う。いつ見ても馬鹿力だ。
『アイスランス』
ニックは氷魔法で槍を作り出しそれを騎士達に放っている。やはり普通の騎士では二人の相手にならないようだ。アーネストとグレンが引き付けているとはいえかなりの人数がいるのに、話しながら片手間のように騎士達の意識を刈り取っていく。
二人が走り去った後には、道の端に重なった騎士達が積み上がっている。
「多分あそこだよ~!」
「結構あっけなかったな。さっさと助け出して帰るか!」
「うん!」
そうして話しながらアーシェラがいるだろう部屋の扉に手をかけようとしたその時、エドガーの頭を狙って鋭い突きが繰り出された。
「……っ!! あっぶねぇ」
「エドガー君、大丈夫!?」
「ああ、問題ねぇ」
エドガーは咄嗟に大剣でその突きを防いだ。間一髪だった。エドガーでなければ今頃頭が爆散していただろう。
「お前、この国のSランク冒険者だな」
「Sランク冒険者? ああ、ミスリルクラスのことか。お前達の国ではSランクって言うんだったな」
冒険者とはこの世界全体で共通の名称ではなく、魔物を倒して生計を立てる者のことをエドガー達の国では冒険者と呼んでいる。この隣国では守護者と呼ばれていて、そのトップはミスリルクラスだ。
エドガーと槍使いはしばらく剣と槍を合わせていたが、お互い後ろに飛び退り少し距離を取った。
「お前達、名前は?」
エドガーがそう聞くと、槍使いとその隣にいた大楯使いが口を開く。
「俺はブレントだ。この国で一番強いのは俺だぜ?」
「俺はスタンだ」
ブレントは少しチャラい雰囲気があるが、スタンはブレントとは対照的に無口で真面目といった様子だ。実際にこの二人はその見た目通りの性格である。
ブレントはミスリルクラスの守護者として国からもらっている給金で、毎晩酒を飲み女を買いと遊びまわっている。対照的にスタンは金にはほとんど手をつけず、毎日鍛錬ばかりしている。
ただこの二人は幼馴染で、ここまで対照的でも存外仲がいい。ブレントはチャラくて遊びまわっているように見えて、いや実際そうなのだが、しかし情に厚いところもある。またやるべきことをサボるやつではない。そういう部分もあるからこそ、スタンもブレントとずっと付き合っているのだろう。
「俺はエドガー」
「僕はニックだよ。僕達はアーシェラを助け出しに来ただけなんだけど、見逃してくれたりしないかな?」
「俺達も仕事だからな。恨むなら王を恨んでくれっ!」
ブレントはそう言うと一気にニックのところまで距離を詰め、槍を突き出した。しかしニックはそれをバリアで防ぐ。
「お前のバリア硬えな。普通の魔法使いのバリアなら簡単に破れるのによ」
「あんたの突きも凄いよ。僕のバリアにヒビを入れたのは三人目だよ」
「そりゃあ光栄だな」
ブレントの槍がバリアに突き刺さっている隙を見逃すほどエドガーは優しくない。ブレントがニックの方に突きを放ったその瞬間から、エドガーはブレントに向かって大剣を振り下ろしていた。
ニックのことを全く心配していないところが、お互いの信頼の証である。
しかしそれでやられるブレントじゃない。ブレントとエドガーの間に大楯を持っているとは思えないほどのスピードでスタンがやってきて、エドガーの振り下ろした大剣を難なく受け止めた。こちらの二人も連携は完璧のようだ。
「お前達やるな。ははっ、楽しくなってきたぜ!」
今度はブレントがバリアから槍を引き抜き、エドガーに向けて振り払った。しかしエドガーはそれも大剣で難なく受け止める。そしてブレントの槍をエドガーが受け止めてる隙に、ニックがブレントに向かって魔法を放つ。
『アイススピア』
しかしそれもスタンの大楯に防がれた。
ここまで僅か数秒だ。常人には何が起きているのかも分からないレベルだろう。
そこまで戦ったところで両者は少し距離を取った。お互いに強者だからこそ今の一連の流れで相手の力量が分かり、どう攻めればいいのか悩んだのだ。
両者の実力はほぼ同じ、このまま戦っていれば先に体力が尽きた方の負けだろう。
「エドガー、このまま戦ってると長引くよ。僕が足止めするからエドガーはアーシェラを」
「分かった」
エドガーとニックはすぐに作戦を切り替えた。この二人を倒すのではなく、なんとか攻撃を躱しながらアーシェラを連れて逃げる作戦だ。渡り廊下まで戻ればアーネストとグレイもいる。さすがに四対二ならばエドガー達に分があるだろう。
『クリエイトマッド』
ニックがトリガーワードを口にすると、ブレントとスタンの足下が突然沼地に変わった。その魔法は外ならば比較的容易に発動できるのだが、このように建物の中で発動できる者はほとんどいない。
だからこそ二人に不意打ちでかけられたのだ。
この魔法をニックが発動したその瞬間に、エドガーは走り出しアーシェラの部屋に駆け込んだ。ブレントとスタンはそれを阻止しようとしたが、沼地が出現した驚きと泥に足を取られて動き出しが遅れ、エドガーが部屋に入るのを許してしまった。
『ロックウォール』
さらにニックは二人を足止めするために、岩の壁で二人の周囲を囲み閉じ込めた。すぐに破られてしまう壁だが、それでも数秒の時間稼ぎにはなる。
そうしてニックが足止めをしている間に、エドガーはついにアーシェラを見つけ出した。アーシェラは寝室のベッドの上に、足を鎖に繋がれた状態で力なく座り込んでいる。
「アーシェラ!」
「っ!!」
エドガーのその声にアーシェラが顔を上げると、そこにはエドガーがいる。アーシェラはエドガーの顔を見て、さっきまでの無表情から一転、途端に泣きそうな表情になった。
「アーシェラ、助けに来た。すぐに出なきゃいけないから話はまた後でになる。鎖壊すぜ」
エドガーはそう言ってアーシェラの足を繋いでいる鎖を大剣で切り、アーシェラに手を差し伸べた。
「一緒に行こう」
「……はい。エドガー様、ありがとうございます」
アーシェラはエドガーの手を取りそのまま泣き崩れてしまう。突然連れ去られて部屋に軟禁されていたという事実は、まだ年若い女性には酷だったのだろう。
聖女とは生まれた時から聖女であることもあるが、十歳ほどで突然力に目覚めることもある。アーシェラはその後者のタイプであったので、聖女として過ごして数年経った今は十代後半だ。
「剣を持ちたいから背中に背負うけどいいか? それから落ちないように身体を紐で固定したい。辛いとは思うが我慢してくれ」
「はい。助けていただけるのであればなんでも我慢します」
アーシェラが頷くと、エドガーはニカっとアーシェラに笑いかけた。
「絶対助けてやるからな。背中に乗ってくれ」
「はい!」
エドガーの笑顔に釣られて少し元気を取り戻したアーシェラの頬は、ほのかに赤く染まっていた。
「うわっ、なんだこれ!?」
「おいっ、あっちから誰か来るぞ! 侵入者だ侵入者!」
まずはニックの氷魔法で騎士達の足を凍らせて動きを止め、四人は混乱している敵の下へ突っ込んでいった。騎士達を殺す必要はないので、基本的には峰打ちや軽い攻撃で意識を刈り取るだけだ。
しかし相手はエドガー達を全力で殺しに来るのだから、少し力が入って重傷を負わせてしまうのは仕方がない。この四人は積極的には人を殺したくないと思っているが、相手が殺しに来る場合はやむを得ないと考えている。
そうして騎士達の間をアーシェラの下に駆けていたのだが、騒ぎを聞きつけた援軍が来てしまい先に進むペースが遅くなってきた。
「ここの騎士達は私とグレンが引き受ける! ニックとエドガーはアーシェラを頼む!」
アーネストはそう叫びながら、また一人の騎士の鳩尾を蹴り飛ばす。そう、アーネストはレイピアの達人でもあるのだが、体術も相当な強さなのだ。
「分かった! ニック行くぞ!」
「はーい!」
そうして四人は二手に分かれた。ここで騎士達を引き留めるのがアーネストとグレン、ニックとエドガーはアーシェラを助けに行くようだ。
「ニック、アーシェラの部屋はここを真っ直ぐ行った右側の部屋なんだよな?」
「そう! グレンが言うには三つ目の豪華な部屋だってよ」
「じゃあそこまで一気に行くぞ! おりゃあ!」
エドガーは叫びながら大剣で騎士達をまとめて振り払う。いつ見ても馬鹿力だ。
『アイスランス』
ニックは氷魔法で槍を作り出しそれを騎士達に放っている。やはり普通の騎士では二人の相手にならないようだ。アーネストとグレンが引き付けているとはいえかなりの人数がいるのに、話しながら片手間のように騎士達の意識を刈り取っていく。
二人が走り去った後には、道の端に重なった騎士達が積み上がっている。
「多分あそこだよ~!」
「結構あっけなかったな。さっさと助け出して帰るか!」
「うん!」
そうして話しながらアーシェラがいるだろう部屋の扉に手をかけようとしたその時、エドガーの頭を狙って鋭い突きが繰り出された。
「……っ!! あっぶねぇ」
「エドガー君、大丈夫!?」
「ああ、問題ねぇ」
エドガーは咄嗟に大剣でその突きを防いだ。間一髪だった。エドガーでなければ今頃頭が爆散していただろう。
「お前、この国のSランク冒険者だな」
「Sランク冒険者? ああ、ミスリルクラスのことか。お前達の国ではSランクって言うんだったな」
冒険者とはこの世界全体で共通の名称ではなく、魔物を倒して生計を立てる者のことをエドガー達の国では冒険者と呼んでいる。この隣国では守護者と呼ばれていて、そのトップはミスリルクラスだ。
エドガーと槍使いはしばらく剣と槍を合わせていたが、お互い後ろに飛び退り少し距離を取った。
「お前達、名前は?」
エドガーがそう聞くと、槍使いとその隣にいた大楯使いが口を開く。
「俺はブレントだ。この国で一番強いのは俺だぜ?」
「俺はスタンだ」
ブレントは少しチャラい雰囲気があるが、スタンはブレントとは対照的に無口で真面目といった様子だ。実際にこの二人はその見た目通りの性格である。
ブレントはミスリルクラスの守護者として国からもらっている給金で、毎晩酒を飲み女を買いと遊びまわっている。対照的にスタンは金にはほとんど手をつけず、毎日鍛錬ばかりしている。
ただこの二人は幼馴染で、ここまで対照的でも存外仲がいい。ブレントはチャラくて遊びまわっているように見えて、いや実際そうなのだが、しかし情に厚いところもある。またやるべきことをサボるやつではない。そういう部分もあるからこそ、スタンもブレントとずっと付き合っているのだろう。
「俺はエドガー」
「僕はニックだよ。僕達はアーシェラを助け出しに来ただけなんだけど、見逃してくれたりしないかな?」
「俺達も仕事だからな。恨むなら王を恨んでくれっ!」
ブレントはそう言うと一気にニックのところまで距離を詰め、槍を突き出した。しかしニックはそれをバリアで防ぐ。
「お前のバリア硬えな。普通の魔法使いのバリアなら簡単に破れるのによ」
「あんたの突きも凄いよ。僕のバリアにヒビを入れたのは三人目だよ」
「そりゃあ光栄だな」
ブレントの槍がバリアに突き刺さっている隙を見逃すほどエドガーは優しくない。ブレントがニックの方に突きを放ったその瞬間から、エドガーはブレントに向かって大剣を振り下ろしていた。
ニックのことを全く心配していないところが、お互いの信頼の証である。
しかしそれでやられるブレントじゃない。ブレントとエドガーの間に大楯を持っているとは思えないほどのスピードでスタンがやってきて、エドガーの振り下ろした大剣を難なく受け止めた。こちらの二人も連携は完璧のようだ。
「お前達やるな。ははっ、楽しくなってきたぜ!」
今度はブレントがバリアから槍を引き抜き、エドガーに向けて振り払った。しかしエドガーはそれも大剣で難なく受け止める。そしてブレントの槍をエドガーが受け止めてる隙に、ニックがブレントに向かって魔法を放つ。
『アイススピア』
しかしそれもスタンの大楯に防がれた。
ここまで僅か数秒だ。常人には何が起きているのかも分からないレベルだろう。
そこまで戦ったところで両者は少し距離を取った。お互いに強者だからこそ今の一連の流れで相手の力量が分かり、どう攻めればいいのか悩んだのだ。
両者の実力はほぼ同じ、このまま戦っていれば先に体力が尽きた方の負けだろう。
「エドガー、このまま戦ってると長引くよ。僕が足止めするからエドガーはアーシェラを」
「分かった」
エドガーとニックはすぐに作戦を切り替えた。この二人を倒すのではなく、なんとか攻撃を躱しながらアーシェラを連れて逃げる作戦だ。渡り廊下まで戻ればアーネストとグレイもいる。さすがに四対二ならばエドガー達に分があるだろう。
『クリエイトマッド』
ニックがトリガーワードを口にすると、ブレントとスタンの足下が突然沼地に変わった。その魔法は外ならば比較的容易に発動できるのだが、このように建物の中で発動できる者はほとんどいない。
だからこそ二人に不意打ちでかけられたのだ。
この魔法をニックが発動したその瞬間に、エドガーは走り出しアーシェラの部屋に駆け込んだ。ブレントとスタンはそれを阻止しようとしたが、沼地が出現した驚きと泥に足を取られて動き出しが遅れ、エドガーが部屋に入るのを許してしまった。
『ロックウォール』
さらにニックは二人を足止めするために、岩の壁で二人の周囲を囲み閉じ込めた。すぐに破られてしまう壁だが、それでも数秒の時間稼ぎにはなる。
そうしてニックが足止めをしている間に、エドガーはついにアーシェラを見つけ出した。アーシェラは寝室のベッドの上に、足を鎖に繋がれた状態で力なく座り込んでいる。
「アーシェラ!」
「っ!!」
エドガーのその声にアーシェラが顔を上げると、そこにはエドガーがいる。アーシェラはエドガーの顔を見て、さっきまでの無表情から一転、途端に泣きそうな表情になった。
「アーシェラ、助けに来た。すぐに出なきゃいけないから話はまた後でになる。鎖壊すぜ」
エドガーはそう言ってアーシェラの足を繋いでいる鎖を大剣で切り、アーシェラに手を差し伸べた。
「一緒に行こう」
「……はい。エドガー様、ありがとうございます」
アーシェラはエドガーの手を取りそのまま泣き崩れてしまう。突然連れ去られて部屋に軟禁されていたという事実は、まだ年若い女性には酷だったのだろう。
聖女とは生まれた時から聖女であることもあるが、十歳ほどで突然力に目覚めることもある。アーシェラはその後者のタイプであったので、聖女として過ごして数年経った今は十代後半だ。
「剣を持ちたいから背中に背負うけどいいか? それから落ちないように身体を紐で固定したい。辛いとは思うが我慢してくれ」
「はい。助けていただけるのであればなんでも我慢します」
アーシェラが頷くと、エドガーはニカっとアーシェラに笑いかけた。
「絶対助けてやるからな。背中に乗ってくれ」
「はい!」
エドガーの笑顔に釣られて少し元気を取り戻したアーシェラの頬は、ほのかに赤く染まっていた。
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