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最終章 精霊界

39、精霊王

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 そこからは特に問題はなく、精霊王様がいるという場所の近くに辿り着いた。目の前にある信じられないほどの大木、その中に精霊王様はいるらしい。

 ちなみに大木は近くにいる今では端が見えないほどに大きく、上を見上げてもてっぺんを見ることはできない。

『この中よ。行きましょう』
「大木の中ってどうやって入るの?」
『入り口があるわ。中は広い空間なのよ』

 可愛らしい入り口に案内されて少しだけ腰を屈めながら中に入ると、中は予想以上に広い空間だった。

 天井は見えないほどに高く、綺麗に彫られた木の階段やテーブル、椅子、ベッドにソファーなどたくさんの素朴な家具がある。
 私では到底届かない場所にもたくさんの家具が設置されていて、空を飛べる精霊ならではの内装だ。

「ここには誰もいないね」
『精霊王様は上の展望部屋にいるのが好きなのよ』
『そこまでは飛んで行くんだけど~、レイラはまた球体に乗っていく?』
『ここでは速度を出さないから球体じゃなくても良いでしょう。レイラ、このソファーに座りなさい』

 アンシュのその言葉に従って木枠に白土が敷かれたソファーに腰掛けると、その椅子がふわりと宙に浮かんだ。

「うわっ……び、びっくりした」
『今まではもっと速い速度で飛んでたじゃない。じゃあ行くわよ』

 それからソファーに座りながら内装を眺めつつ上へ上へと向かうと、数分で目的の場所に到着したようだ。ソファーが地面にことりと僅かな音を発して固定され、アンシュに立ち上がって良いと許可をもらう。

 ゆっくりと立ち上がって周囲を見回すと、左側に見たことのない精霊がいた。白髪に白髭の、老人のような出立ちの精霊だ。

『精霊王様~久しぶり~』
『会いに来たわよ』
『遊びに来たぜ!』
『ふぉっふぉっふぉっ、久しぶりじゃな。珍しい者を連れているようじゃが』

 やっぱりこの人が精霊王様なんだ……なんだか凄く雰囲気がある。緊張して手に滲んだ汗を服で拭い、意を決して口を開いた。

「こ、こんにちは。レイラと申します」
『わしは精霊王じゃ。精霊樹までよく来たな』

 精霊王様は私の挨拶に、思っていたより何倍も穏やかに声をかけてくれた。とりあえず、ここに来たことは怒られないみたいだ。

 その事実に安堵して、先ほどよりも少しだけ体の力を抜く。

「あの、突然来てしまってすみません」
『別に構わんよ。愛し子の末裔だしな』

 やっぱりそこが重要なポイントなんだね……問題は愛し子の末裔ではない、普通の人間が大多数を占める下界を救ってもらえるのかどうかだ。

「あの……今回ここに連れてきてもらったのは、精霊王様に大切なお話があるからなんです。その……下界を救っていただけないでしょうか! このままだと下界は崩壊してしまいます!」

 一番伝えたいことを発してガバッと頭を下げると、精霊王様は何も返答をくれなかった。その事実に再度緊張しつつ、ゆっくりと頭を上げる。

 すると精霊王様は……困った表情を浮かべていた。

「難しい、のでしょうか」
『人間には裏切られ続けてきたからのぉ。もう人間には手を貸さないと決めたのじゃ』
「そんな……で、でも。それで下界が崩壊してしまうのは、精霊界にも悪影響があるんじゃ」
『別にないのぉ。下界が崩壊すれば、また数千年後には新たな下界が生まれるじゃろう。そうすれば、そこに生まれた生命体と力を合わせれば良い』

 下界が崩壊しても、精霊たちに悪影響はないんだ……完全に下界が下位の存在なんだね。それだと助けを求めるのは、凄く難しいかもしれない。

 でも、絶対に諦めたくない。あと数年で世界が滅ぶなんて絶対に嫌だ。

「そこを何とか、救っていただけないでしょうか。人間と助け合わなくても良いです。下界の崩壊を止めてくださるだけで……」
『うーん、それもなぁ』

 精霊王様の反応は乏しい。どうしよう、このままだと下界は崩壊の道を突き進むしかない。

「……もう人間に、未練はないのですか? 昔は仲良くしていたのなら、人間が悪いことをしたとしても楽しい思い出はあったはずです! 人間だって全員が悪いわけじゃなくて、良い人たちもたくさんいるんです。精霊だって同じじゃないですか! 私の友達にフェリスという精霊がいます。フェリスは精霊界で虐められて下界に落とされたと聞きました。どちらにも悪い人も良い人もいて……だからその、一緒に上手くいく方法を考えませんか!」

 途中から気持ちが昂って、強い口調で思っていることを伝えてしまった。息が切れて心臓がバクバクと早く動いているけど、後悔はない。

『……下界に落とされた、精霊がいるのか?』
「はい。フェリスという名前です。精霊王様はご存知なかったのですか?」
『そんなことは、知らなかった……まさか虐めて下界に落とすなど』

 その言葉を発してから、精霊王様は初めて厳しい表情を浮かべた。この人は徹底的に争いが嫌なのかな。
 確かにそれだと、人間を見限るのも分かるかもしれない。でも最近は他の国は知らないけど、私が住む国では戦争なんて起きていないはずだ。

 それからは精霊王様が黙り込んでしまって、場には沈黙が流れた。その沈黙を破ったのはアンシュだ。

『精霊王様、下界は崩壊してしまうの?』
『人間はいなくなるのか?』
『百味山の食べ物も?』

 そしてそれに続いて、ロデアとランセも口を開く。

『そうじゃな……このままだとそうなるな』
『そんなの寂しいわ。だってレイラと遊ぶのは楽しかったもの』
『人間は弱いから守ってあげないといけないんだぜ!』
『美味しいものの作り方を教えてもらったよ~』

 皆のその言葉に、精霊王様は困り顔だ。

『でもな、人間たちは我らの力を争いにばかり使うのじゃよ』
『……でも、レイラはそんなことをしないわよ』
『レイラにそんなことできないよな! というか俺らの方が強いんだから、そんなの争いに使いたいって言われたらダメって言えばいいんじゃね?』
『そうだよね~。人間は弱いんだもんね~』

 確かによく考えたらそうだよね。じゃあ、何で精霊の力が争いにばかり使われることになっだだろう。

 ――もしかしたら、精霊たちの中にも争いに力を使いたい人たちがいたんじゃないのかな。
 たとえば、フェリスをいじめて下界に落としたような精霊とか。
 
 その事実に精霊王様も気づいたのか、難しい表情で大きなため息を吐いた。

『はぁ……もしかしたらわしは、色々と誤解していたのかもしれんな。身内である精霊を信頼しすぎていたようだ。お前たちとレイラの関係を見ていると――懐かしい光景を思い出す』

 目を細めた精霊王様の視線の先には、遠い昔に人間と精霊が協力していた様子が思い出されているのかもしれない。

『もう一度、協力してみるのも良いのかもしれんな……今度こそ我らの力の使い方をしっかりと定め、精霊側も監視をするような形で』
「本当ですか!!」
『人間はいなくならない?』
『レイラもいなくならない?』

 アンシュとランセが聞いたその言葉に、精霊王様は苦笑を浮かべつつ頷いた。

『そうじゃな。いなくならぬように動くとしよう』
『やったー! 精霊王様ありがとう~』
『さすが精霊王様ね』
『話が分かるぜ!』

 それからは精霊王様がなんだかよく分からない魔法? のようなものを使い、役職を持っている精霊たちが精霊樹に集められた。
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