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最終章 精霊界

32、出発準備

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『僕は下界に落とされた時にその道を通れないようにされたから、そこから帰るのは無理なんだ。それに……今回この話をしたことで、僕は精霊界の決まりを破っちゃったから、これからどうなるか――』
「え、それどういうこと!?」

 ――そういえば、ヴァレリアさんにフェリスのことを打ち明けた時、フェリスが他の精霊が下界に来ない理由が話せないと言っていた気がする。

 精霊界の決まりを破ることになるからって……

「なんで、なんで話しちゃったの!!」

 フェリスを両手に載せて泣きそうになりながら叫ぶと、フェリスもクシャッと顔を歪めた。

『僕はこの世界が、レイラが暮らす世界が大好きだから。このまま崩壊していくのを黙って見ていられなかったんだ……解決策もレイラを危険に晒しちゃうものだけど、解決しなかったらこの世界はあと数年だし……』
「あと、数年? それって本当?」
『多分……崩壊は目に見える現象として現れ始めたら、もう末期なんだ』

 まさかそんなにリミットが迫っているとは思わなかった。急がなきゃ、急いで精霊の泉に行かなきゃ。

 直接精霊と話すことができれば、フェリスが話しちゃった罰をなくしてもらうこともできるかな。
 そもそもその決まりは精霊たちが下界を見放したことから生まれたのなら、また精霊が下界に来るようになれば決まり自体がなくなるかもしれない。

 世界のためにもフェリスのためにも、とにかく精霊の泉だ。

「ヴァレリアさん、私は何を言われても行きます。私にしかできないことですから」

 真剣な眼差しを向けてそう宣言すると、ヴァレリアさんはしばらく黙り込んでから、ゆっくりと頷いてくれた。

「……分かった。でも、くれぐれも、くれぐれも命を第一にしてくれ」
「もちろんです。生きてないと精霊たちを説得することもできませんから。フェリス、精霊の泉の場所を教えてくれる?」
『……うん、教える。でも僕も泉の近くまでは一緒に行くよ。レイラ一人じゃ魔物にやられちゃうからね』

 そう言ったフェリスは、少し笑ってくれた。それに安心して私の顔にも笑みが浮かぶ。

「確かにフェリスがいなかったら泉に辿り着けないね。フェリス、一緒に来てくれる?」
『もちろん』

 それから私たちはフェリスから精霊の泉の場所を聞いて、道中の予定を立てた。
 精霊の泉があるのはこの国の中ではあるけど、辺境にある山の頂上なんだそうだ。その山の近くの街まではいつもなら乗合馬車が出てるけど……今は期待できないので、レンタル馬車を借りることになった。

 ヴァレリアさんが馬に乗って私を送ってくれると言ってくれたんだけど、ヴァレリアさんには怪我人のためにこの街に残って欲しいと私が頼んだ。ヴァレリアさんの薬があることで助かる人が、絶対にいるはずだから。

「レイラ、お金を積んだら比較的落ち着いてる馬で馬車を出してくれるそうだ」

 馬車がレンタルできるか確認に行ってくれていたヴァレリアさんが戻ってきて、嬉しい知らせを伝えてくれた。

「良かったです! いつ出発できますか?」
「一時間ほどで準備を終えて出発してくれるらしい。食事はレイラの分は自分で用意すると伝えておいたので、とりあえず屋台で何か保存が効くものを買っていくと良い。まあ、道中で街に泊まるのでそこでも買えるだろう。金だけはたくさん持っていくべきだな」
「分かりました。全財産を持っていきます」

 大きめの鞄に怪我をした時用の薬やお金、それから着替えなどを詰め込んで準備は完了だ。

 私はヴァレリアさんに連れられて、馬車のレンタル屋に向かった。途中で食料を買い込むことも忘れてない。

「待たせたな。この子が今回の乗客だ」
「分かったぜ。嬢ちゃん、よろしくな。遠くの街に家族がいるなんて心配だよなぁ」
「はい。こんな時に馬車を出してもらってすみません。よろしくお願いします」

 御者を務めてくれるらしい男性は、優しそうな男の人だった。怖そうな人だったらどうしようと思ってたから少し安心する。

「じゃあ任せたぞ。絶対に、安全に届けてくれ」
「もちろんだ。任せておけ」

 それからヴァレリアさんに見送られて馬車に乗ると、御者の男性の声の後にすぐ馬車が動き出した。

「ヴァレリアさん、行ってきます!」
「ああ、頑張れよ! 頼んだぞ!」
 
 ヴァレリアさんの姿が小さくなって完全に見えなくなるまで手を振り続け、私は一人で王都を出た。

「嬢ちゃん、急いだほうがいいんだよな?」
「はい。馬が怪我をしない程度にお願いします」
「おうっ、任せとけ!」
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