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最終章 精霊界

30、自然災害発生

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「レイラ、午後も配達を頼んで良いか? 緊急の依頼が多くて明日では心配なんだ」
「もちろんです。フェリス、一緒に行ってくれる?」
『もちろん!』

 ここ最近のヴァレリア薬屋は、とにかく忙しい。この一言に尽きる。
 魔物が活性化しているというのはいまだに継続中で、魔物が大量に発生する事態もしばしば起こっているのだ。

 そのため騎士団への薬の納品は前よりも増えているし、冒険者などからの依頼も激増している。

「最近は本当におかしいな……」
「何が起こってるんでしょうね。一般人は危なくて街の外に出られなくなってしまいました」

 私たちがそんな話をしながら仕事を進めていると、視界の端に映るフェリスが物言いたげな表情を浮かべているのが見えた。

 最近のフェリスはよくこの表情を浮かべるのだ。しかし何かを知っているのかと問いかけても、なんでもないと言われてしまう。

「フェリス、今日は帰りに甘い物でも買ってこようか」
『……うん、そうだね』

 心ここに在らずな返答に心配になってしまう。フェリスにはずっと元気で明るくいて欲しいんだけどな……

 それから配達のために荷物を詰めて準備を済ませ、そろそろ出発しよう。そう思ってフェリスを探すために薬屋の中を見回したその時――

 ――突然、視界が大きく揺れた。

「きゃあぁぁっ……っ」

 何これ、何が起きてるの? 地面が揺れてる……?

『レイラ! 大丈夫!?』
「レイラ……!!」

 フェリスが私の下に凄い勢いで飛んできて、ヴァレリアさんも調薬部屋からよろめきながら私の下にやってきた。

「フェリスっ……ヴァレリア、さんっ、」
「無事か?」
「はいっ……これ、なんなんでしょうっ」

 何が起きてるか全く分からず、近くにあったテーブルを掴んでなんとか倒れないように体を支えた。そうしてしばらく耐えていると――次第に揺れは小さくなり、ピタッと止まる。

 店内をぐるりと見回してみると、棚に仕舞われていたものがいくつも床に落ちて散乱してしまっていた。
 これは片付けが大変そうだ……でもその前に、今のは何なのだろうか。

「ヴァレリアさんは何が起きたのか分かりますか?」
「……いや、分からない。分からないが……地面が揺れるというのは古い伝承にあるんだ。世界の力が弱まり、崩壊の前触れだと書かれていた」

 世界が崩壊するなんて……上手く想像できないけど、とにかく怖い。だって、世界の崩壊なんて逃げようがない。

「これからどうすれば……」
「とりあえず、怪我人が街中に溢れているはずだ。個人で動くよりも騎士団と連携した方が良いかもしれない。ありったけの薬を持って騎士団に向かおう」
「分かりました」

 それから私たちは何かを考え込んでいる様子のフェリスも連れて、三人で歩いて王宮に向かった。乗合馬車は馬が興奮してしまって、全く使えなかったのだ。

 街中には怪我人が溢れていて、皆が混乱し騒動も起きていて、かなり酷い状況だった。

「ヴァレリア薬屋のヴァレリアとレイラです。先ほどの騒動で怪我人が街中に溢れており、ありったけの薬を持ってきました。無作法な格好で約束もなく申し訳ありませんが、中に入れてもらえないでしょうか」
「かしこまりました。少々お待ちください」

 門番の男性は私たちの顔を覚えてくれているので、無理だと断られることはなく上へ確認に向かってくれた。
 そして数分で中へ入ることを許可されて、急いで騎士団の詰所に向かう。

「あっ、ノエルさん!」

 詰所の前でノエルさんが騎士の方たちと忙しそうに動き回っていて、私は思わず声をかけた。ちなみにノエルさんとはあれから何度か食事に行き、仲の良い友達になっている。

「レイラさん! ヴァレリアさんも来てくださったのですね!」
「薬を持ってきました。これから騎士団で街中の鎮静ですか?」
「はい。それと共に怪我人の治癒をして回る予定です。ただ薬が全く足りていなく、とても助かります」
「これ、全て使ってください」

 ヴァレリアさんがそう言って鞄を差し出すと、ノエルさんはこんな事態でも中身を確認して、紙に薬の種類と個数を書き込んでいった。

「あとで代金はお支払いします」
「ありがとうございます。落ち着いたらで構いませんので」
「ノエルさんは街に向かわれるのですか?」
「いえ、私はここで待機していることになっています。これから一部の騎士たちが街の外へ確認に向かうので、その者たちが怪我をしたら治さなければなりません」
「そうなのですね……ノエルさん、魔力切れで倒れないようにお気をつけください」

 そう声をかけるとノエルさんは作業の手を止めてしゃがんだ状態のまま私のことを見上げ、この状況にも関わらず穏やかな笑みを浮かべてくれた。

「ありがとうございます。気をつけます」

 やっぱりノエルさんって肝が据わってるな。さすが騎士団でただ一人の治癒師として働いているだけある。

「レイラさんも気をつけてくださいね。こういう時には、乱暴になる者たちもいますから。一人で外を出歩いてはいけませんよ」
「私はもう子供じゃないですよ?」
「それでもレイラさんは可愛らしいですから。気をつけてください」

 ストレートに可愛いと言われて、思わず少し照れてしまった。赤くなってるだろう顔を隠すために俯くけど、ノエルさんはしゃがんでいるので顔を隠せない。

「……照れてますか?」
「うぅ、意地悪ですね。聞かないでください。気をつけますから」
「ははっ、そうしてください」

 そこでノエルさんとの話を終えて、私とヴァレリアさんは邪魔にならないよう端に避けて薬の確認が終わるのを待った。
 治癒員の人たちも確認を始めてくれているので、すぐに終わるだろう。

「ヴァレリアさん、私たちはこれからどうしますか?」
「そうだな……薬がいくらあっても足りないだろうから、戻って調薬をしよう。しかし素材が足りなくなる恐れもあるため、騎士団に素材の確保を頼めないか聞いてみるか」
「確かにお店も閉じてしまう可能性が高いですよね」
「ああ、素材がなければ薬師は役に立たないからな」

 それから少し待っているとノエルさんたちの確認が終わり、私たちは素材の確保を騎士団に頼むことに成功し、空の鞄を持って薬屋に戻った。
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