上 下
25 / 42
第2章 世界的な異変

25、騎士の回復

しおりを挟む
 ヴァレリアさんは全ての薬を丁寧に鞄に詰めると、服を着替えて王宮に相応しい格好に変身した。こうして綺麗な格好をすると、貴族子女と言われても違和感はないかもしれない。

「レイラ、準備は良いか?」
「はい。私はいつでも行けます」
「では行こう。始発の乗合馬車はもう出てるな」
「今の時間だと、ちょうど二本目に乗れるぐらいですね」

 薬屋の鍵を閉めて途中の屋台でバゲットサンドを買いながら大通りに向かうと、予想通りタイミングよく馬車がやってくるのが見えた。
 馬車乗り場に立っていると目の前に馬車が止まり、お金を払って二人で乗り込む。

「ふぅ、やっと一息つけますね」
「そうだな。まずはこれを食べよう」

 良い香りがしているバケットサンドにかぶりつくと、パリパリという良い音がして、もちもちのパンと味が濃いめの美味しい具材が口の中で一体となった。

「うぅ~ん、美味しい!」
「空腹にこれは最高だな」

 バゲッドサンドはすぐお腹に収まって大満足で馬車に揺られていると、お腹が少しこなれてきた頃に王宮の近くへと到着した。

 馬車を降りて王宮の門に向かうと、門番の兵士の方々は私たちの顔を覚えてくれたのか、すぐルインさんに連絡をしてくれる。

「こちらで少しお待ちください。待ち時間で鞄の中を改めさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない。しかし繊細な薬が入っているから慎重に頼む」
「かしこまりました」

 兵士の人たちが緊張の面持ちで鞄の中を確認していると、まだ朝早いにも関わらずビシッと決まっているルインさんがこちらに歩いてくるのが目に入った。

 ルインさんって何時から何時まで働いてるんだろう。

「ヴァレリアさん、レイラさん、お待たせいたしました。依頼の薬が完成したのでしょうか?」
「はい。患者さんの容体はいかがですか」
「ノエルさんの話を聞く限りですと、芳しくないようです。一般的な呪いの治療薬はできる限りかき集めて使っているのですが……」
「ではすぐに向かわなければいけませんね」

 それからすぐに鞄の中身の検査が終わり、私たちは騎士団の詰所に向かった。詰所内の治癒室に入ると、ノエルさんをはじめとした治癒員の皆さんが、目の下にくっきりとした隈を作りながら忙しく動き回っている。

「ヴァレリアさん! レイラさん!」

 私たちが姿を現すと、ノエルさんがこちらに気づいて必死だった表情を少しだけ緩めた。

「ノエルさん、お待たせいたしました。まだ全員無事ですか?」
「はい。しかし何人か危ない人がいます。治療薬は……」
「完成しました。こちらを使ってください。熱めのお湯と共に飲んでいただくと、効き始めるのが早いです」
「ありがとうございます……!」

 それからは早かった。ノエルさんと治癒員の皆さんが完璧に連携をして、騎士さんたち全員に次々と薬を飲ませていく。

 薬の処方は僅か数分で全員に行われた。

「これで、もう大丈夫なのでしょうか」
「そのはずです。しかし呪いが治っても衰弱した体は元に戻りませんので、まだしばらくはケアが必要だと思います。特に心配なのは、冷えすぎてしまった手足が壊死していないかですね」
「確かにそれは心配ですね……そこは私が責任を持って完治するまで経過を観察します」

 そう言って頼もしく頷いてくれたノエルさんに、ヴァレリアさんは頬を緩めて頷いた。

「よろしくお願いします。では私たちは……」
「ヴァレリアさん!!」

 軽く下げた頭を上げた瞬間にヴァレリアさんがふらついたのが視界に映り、咄嗟に支えようと手を伸ばした。

 しかし私の力では支えるに足りず、ヴァレリアさんの下敷きになる――と覚悟した瞬間、私の体が誰かに包まれ支えられた。

「レイラさん、大丈夫ですか?」
「あっ……ノエルさん、ありがとうございます」

 ノエルさんの腕は意外にもしっかりとしていて安心感がある。細身に見えてもやっぱり男性なんだね。

「ヴァレリアさんも大丈夫ですか? お二人とも、かなりお疲れの様子ですよ。ここで少し休んでいかれてください」
「……ではお言葉に甘えて、少しベッドを借りても良いでしょうか」
「もちろんです。レイラさんもぜひ」
「はい。ありがとうございます。……あの、ノエルさんたちもしっかりと休まれてくださいね。目の下の隈が大変なことになっています。孤児院の管理長みたいです」

 目の下の隈が酷くて見た目は今にも倒れそうなのに、意外にも元気いっぱいな管理長が孤児院にいたのだ。あの幸薄そうな顔を思い出してしまう。

「ふふっ、それは酷いですね。私も休まなければ」
「あっ、やっぱりノエルさんもご存知ですか?」
「はい。あの管理長は三つの孤児院の管理を任されていたらしいですよ」
「そうだったのですね。……今のノエルさんはあの管理長よりも酷いぐらいなので、ぜひ寝てください」
「ありがとうございます。ただレイラさんも似たようなものですよ。まずはレイラさんを休憩室にご案内しますね」

 それからすぐに休憩室を貸してもらった私たちは、ベッドに横になった瞬間、気絶するように眠りに落ちた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。  そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。  その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。  そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。  アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。  これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。  以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。

◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》

カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!? 単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが…… 構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー! ※1話5分程度。 ※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。 〜以下、あらすじ〜  市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。  しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。  車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。  助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。  特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。  『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。  外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。  中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……  不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!    筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい! ※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。 ※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。 戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。 で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。

処理中です...