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第2章 世界的な異変
13、王家からの呼び出し
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公爵家からの依頼を無事にこなした私たちは、またいつもの忙しくも穏やかな日常を過ごしていた。
『レイラ。僕も手伝うよ!』
「ありがとう。じゃあこの布を広げてくれる? 買ってきたパンを並べたいから」
『はーい』
今はお昼ご飯の準備をフェリスと共にしているところだ。
ヴァレリアさんにフェリスの存在がバレた時にはどうしようかと思ったけど、フェリスが前よりも伸び伸びと楽しそうに過ごしているので、今となっては良かったのかもとさえ思っている。
「おっ、フェリスはそこにいるのか?」
ちょうど仕事に一区切りがついたのか、ヴァレリアさんが私たちの下にやってきて、フェリスが小さな体で頑張って広げている布を見つめた。
「布が浮いてるな……何度見ても慣れない」
「フェリスが頑張ってますよ。ヴァレリアさん、どの串焼きが良いか選んでください。パンはどれも同じバゲットです」
「そうだな。私はこの肉串と、こっちの野菜串にしよう」
ヴァレリアさんが選んだのは、動物の内臓を綺麗に洗って香辛料に漬けて焼いた肉串と、香りが強い野菜を強めの塩胡椒で焼いた野菜串だ。
どちらもお酒のおつまみになるようなもので、ヴァレリアさんの好みが一瞬で把握できる選択に思わず苦笑を浮かべてしまう。
「ヴァレリアさんって、冒険者のおじさんたちと話が合いそうですよね」
「……飲み屋に行くと同じことを言われる」
「やっぱりそうなんですね」
「レイラ、フェリスはどれを食べるんだ?」
「その鶏肉を食べるみたいです」
「じゃあ串から外しておこう」
ヴァレリアさんはフェリス用のお皿を取り出すと、そこに外した鶏肉を載せてハサミで小さく切っていった。そして小さなフォークをお皿に添える。
「フェリス、できたぞ」
『ヴァレリア、ありがとう!』
フェリスはヴァレリアさんの気遣いが嬉しいようで、満面の笑みで頬にギュッと抱きついた。
「うわっ、急に触られると驚くな……」
「フェリスがありがとうって言ってます」
「そうか」
ヴァレリアさんの答えはそっけなかったけど、顔は緩んでいて嬉しそうだ。最近はフェリスとヴァレリアさんが仲良くなっていて嬉しいな……
「では食べましょうか」
それから三人でお昼ご飯を楽しんで、ヴァレリアさんが調薬を始めたところで、私はお店の片付けの前に郵便受けを確認するため外に出た。
中を覗くといくつかの手紙が入っていて、どれも調薬の依頼みたいだ。
「これは男爵家から、こっちは冒険者から、これは……」
え、こ、これって――。
「ヴァ、ヴァレリアさん!!」
依頼主に驚いて叫びながらお店の中に戻ると、ヴァレリアさんが眉間に皺を寄せて調薬部屋から顔を出した。
「何だレイラ、うるさいぞ」
「これ! 見てください!」
ヴァレリアさんの目の前に依頼主が分かるように手紙を突き出すと、それを見たヴァレリアさんは眉間の皺を深くして手紙を受け取る。
そして内容を確認すると、大きく息を吐き出した。
「……ついに、王家から依頼が来たか」
「どんな内容ですか?」
「騎士団への薬の納品らしい。最近は魔物が活性化していて、怪我人が増えてるんだそうだ」
魔物の活性化。そんなことが起きてたんだ……だから最近は冒険者からの依頼が多かったのかな。
「三日後に王宮へ来いと書かれてる。この前公爵家に行った時の服装でいいだろう。準備をしておけよ」
「分かりました。王宮で気をつけなければいけないことはありますか?」
「いや、レイラなら大丈夫だ。それよりもこの依頼を受けたらしばらく忙しくなるだろう。他の依頼を片付けておきたい。優先度順に選別してくれるか?」
「もちろんです」
それから私は依頼の選別と配達に精を出し、ヴァレリアさんは寝る間も惜しんで調薬部屋に篭った。
忙しい二日間を過ごして約束の日の朝。私とヴァレリアさんは爽やかな気持ちで朝の準備をしていた。
昨夜にフェリスが治癒魔法を使ってくれたので、この二日間の疲労が綺麗に消え去ったどころか、通常よりも調子が良いのだ。
「精霊とは、本当に凄いんだな」
「フェリスの治癒魔法は凄いですよね。私は今までもたまに掛けてもらっていたのですが、完全に虜です」
『レイラにならいつでもかけてあげるからね』
「ありがとう。助かるよ」
フェリスの頭を優しく撫でると、気持ちよさそうに瞳を細めて私に身を預けてくれる。この全幅の信頼が嬉しいよね。
「フェリスはそこにいるんだな? 昨夜はありがとう」
『ヴァレリアも疲れた時にはかけてあげるよ。……まあ、レイラと仲が良い限りだけどね!』
「ふふっ」
付け足した言葉に思わず笑ってしまうと、ヴァレリアさんが不思議そうに首を傾げた。
「ヴァレリアさんにも、疲れたら治癒魔法をかけてくれるそうです。でも私と仲が良い限りだって」
フェリスの言葉の内容を伝えると、ヴァレリアさんは微妙な表情で頷いた。
「話に聞いてる限り、フェリスは本当にレイラが大好きだな」
『そんなの当然でしょ。レイラは僕の大親友なんだから』
「フェリス~。私もフェリスのこと大好きだからね」
それからもそんなやりとりをしつつ準備を整え、王宮に向かう馬車に乗り込んだ。
『レイラ。僕も手伝うよ!』
「ありがとう。じゃあこの布を広げてくれる? 買ってきたパンを並べたいから」
『はーい』
今はお昼ご飯の準備をフェリスと共にしているところだ。
ヴァレリアさんにフェリスの存在がバレた時にはどうしようかと思ったけど、フェリスが前よりも伸び伸びと楽しそうに過ごしているので、今となっては良かったのかもとさえ思っている。
「おっ、フェリスはそこにいるのか?」
ちょうど仕事に一区切りがついたのか、ヴァレリアさんが私たちの下にやってきて、フェリスが小さな体で頑張って広げている布を見つめた。
「布が浮いてるな……何度見ても慣れない」
「フェリスが頑張ってますよ。ヴァレリアさん、どの串焼きが良いか選んでください。パンはどれも同じバゲットです」
「そうだな。私はこの肉串と、こっちの野菜串にしよう」
ヴァレリアさんが選んだのは、動物の内臓を綺麗に洗って香辛料に漬けて焼いた肉串と、香りが強い野菜を強めの塩胡椒で焼いた野菜串だ。
どちらもお酒のおつまみになるようなもので、ヴァレリアさんの好みが一瞬で把握できる選択に思わず苦笑を浮かべてしまう。
「ヴァレリアさんって、冒険者のおじさんたちと話が合いそうですよね」
「……飲み屋に行くと同じことを言われる」
「やっぱりそうなんですね」
「レイラ、フェリスはどれを食べるんだ?」
「その鶏肉を食べるみたいです」
「じゃあ串から外しておこう」
ヴァレリアさんはフェリス用のお皿を取り出すと、そこに外した鶏肉を載せてハサミで小さく切っていった。そして小さなフォークをお皿に添える。
「フェリス、できたぞ」
『ヴァレリア、ありがとう!』
フェリスはヴァレリアさんの気遣いが嬉しいようで、満面の笑みで頬にギュッと抱きついた。
「うわっ、急に触られると驚くな……」
「フェリスがありがとうって言ってます」
「そうか」
ヴァレリアさんの答えはそっけなかったけど、顔は緩んでいて嬉しそうだ。最近はフェリスとヴァレリアさんが仲良くなっていて嬉しいな……
「では食べましょうか」
それから三人でお昼ご飯を楽しんで、ヴァレリアさんが調薬を始めたところで、私はお店の片付けの前に郵便受けを確認するため外に出た。
中を覗くといくつかの手紙が入っていて、どれも調薬の依頼みたいだ。
「これは男爵家から、こっちは冒険者から、これは……」
え、こ、これって――。
「ヴァ、ヴァレリアさん!!」
依頼主に驚いて叫びながらお店の中に戻ると、ヴァレリアさんが眉間に皺を寄せて調薬部屋から顔を出した。
「何だレイラ、うるさいぞ」
「これ! 見てください!」
ヴァレリアさんの目の前に依頼主が分かるように手紙を突き出すと、それを見たヴァレリアさんは眉間の皺を深くして手紙を受け取る。
そして内容を確認すると、大きく息を吐き出した。
「……ついに、王家から依頼が来たか」
「どんな内容ですか?」
「騎士団への薬の納品らしい。最近は魔物が活性化していて、怪我人が増えてるんだそうだ」
魔物の活性化。そんなことが起きてたんだ……だから最近は冒険者からの依頼が多かったのかな。
「三日後に王宮へ来いと書かれてる。この前公爵家に行った時の服装でいいだろう。準備をしておけよ」
「分かりました。王宮で気をつけなければいけないことはありますか?」
「いや、レイラなら大丈夫だ。それよりもこの依頼を受けたらしばらく忙しくなるだろう。他の依頼を片付けておきたい。優先度順に選別してくれるか?」
「もちろんです」
それから私は依頼の選別と配達に精を出し、ヴァレリアさんは寝る間も惜しんで調薬部屋に篭った。
忙しい二日間を過ごして約束の日の朝。私とヴァレリアさんは爽やかな気持ちで朝の準備をしていた。
昨夜にフェリスが治癒魔法を使ってくれたので、この二日間の疲労が綺麗に消え去ったどころか、通常よりも調子が良いのだ。
「精霊とは、本当に凄いんだな」
「フェリスの治癒魔法は凄いですよね。私は今までもたまに掛けてもらっていたのですが、完全に虜です」
『レイラにならいつでもかけてあげるからね』
「ありがとう。助かるよ」
フェリスの頭を優しく撫でると、気持ちよさそうに瞳を細めて私に身を預けてくれる。この全幅の信頼が嬉しいよね。
「フェリスはそこにいるんだな? 昨夜はありがとう」
『ヴァレリアも疲れた時にはかけてあげるよ。……まあ、レイラと仲が良い限りだけどね!』
「ふふっ」
付け足した言葉に思わず笑ってしまうと、ヴァレリアさんが不思議そうに首を傾げた。
「ヴァレリアさんにも、疲れたら治癒魔法をかけてくれるそうです。でも私と仲が良い限りだって」
フェリスの言葉の内容を伝えると、ヴァレリアさんは微妙な表情で頷いた。
「話に聞いてる限り、フェリスは本当にレイラが大好きだな」
『そんなの当然でしょ。レイラは僕の大親友なんだから』
「フェリス~。私もフェリスのこと大好きだからね」
それからもそんなやりとりをしつつ準備を整え、王宮に向かう馬車に乗り込んだ。
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