精霊たちの献身

梅乃屋

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本編

19:意欲を燃やすな

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「お帰り、ミリナ。無事でよかったわ」


 ミリナ救出作戦も難なく成功し、ミリナを無事に保護したレオと勇敢なエレメンジャー。

 私が迎えると、ミリナはたちまち顔中から水分が溢れ出し酷い顔で泣きじゃくった。やはり怖かったのだろう。
 あれだけ傲慢さを振り撒いていたミリナがなりふり構わず乱れる姿は、さすがに同情した。

 暫く私は彼女が落ち着くまで体を撫で、そしてとりあえずお風呂を勧めた。
 日本人ならまずは暖かい風呂と食事だろう。

 今日はもう遅いので、とりあえず一晩ゆっくり休んでもらい、明日またじっくりと話をする事になった。
 レオもミリナを保護した事を王都へ伝えるため部屋に戻ったが、監禁の事はまだ黙っているつもりらしい。

 何しろ国際問題だ。
 ここで事実を伝えれば忽ち戦争になりかねない。
 セルダ領だって無関係ではなく、寧ろ辺境地であるため一番に被害を被るのはウチだ。

 明日はお父様も交えて話し合いが必要だと考え、私も眠りについた。


 そして翌朝。
 お父様も交えての会議だったが意外だったのは、ミリナがディオニシオ殿下を庇った事だった。

 彼女を唆しアラゴン王国へ連れ、さらに監禁という酷い仕打ちを犯した張本人なのだが、ミリナは自分にも非があるとディオニシオを擁護した。

 本人曰く、
「足枷以外は優しかった」と。

 そして他の王子に捕まれば酷い扱いを受けていたかも知れないと、足枷はそれから守るためにつけていたのだと言う。あれだけ泣きじゃくっていたのに。
 確かにアラゴン王国はまぁまぁ気性の荒い方が多く、継承権争いなど血生臭い噂が飛び交う国だった。
 あの国は生まれ順に関係なく王位を狙えるだけに、少々過激なのだと思われる。

 ミリナがそう言うのならと、レオもお父様も報告をどうするか話し合う。

 結局、対外的な報告としてはミリナが無断でアラゴン王国へ行き、十分観光を楽しんだのでその後ウチのセルダ領へ送ってもらったという筋書きになった。
 それと、精霊は見えるけど彼らに嫌われてしまった事実を伝え、ディオニシオは悩んでいる彼女を元気付けるために国へ誘ったのだと。

 ……大丈夫なの?
 これでアウラヴィータ側は納得するのか?

 と、思ったけど、今までのミリナの行動ならやりかねないと判断し、押し通す事になった。勿論陛下たちには全て話すとレオは言っていた。
 因みに、私が精霊と会話できる事はミリナとレオには固く口止めさせてもらった。





「そもそも何故ミリナは精霊に嫌われたんだ?」

 話し合いが終わり、私とレオ、そしてミリナの三人で午後のお茶を囲っていた。
 レオはずっと疑問に思っていたのだろう事を尋ねた。

 ミリナはバツが悪そうに口籠もり、私をチラチラと窺う。
 切っ掛けは確かに私への攻撃命令だったけど、原因は今までのミリナの態度や、何よりお供物だろう。

「まぁ、コミュニケーション不足なのでは?ミリナはお菓子のお供えをしなかったのでしょう?」
 私が助け船を出すと、ミリナは目を見開き驚く。

「えっ?お菓子?精霊ってお菓子食べるの?」

 なんて言うもんだから、私は肩に乗っているイエローへお茶請けのクッキーを与えると、嬉しそうにモシャモシャ食べた。
 その姿にミリナは口を抑え、プルプルと震えていた。

 分かるよぉ~。すごく可愛いものね♡

 隣でレオもその姿に撃沈しているようで、ミリナがいるためか必死に素を抑えて悶えていた。

「そう言えばエヴァ。ミリナを助けた精霊達が……その、演劇のような口上をしていたのだが…。あれは……もしかしてエヴァが教えたのか?」

 演劇のような口上?

「あぁ!まさかミリナの救出時に決め台詞をやってくれたの?! すごい!さすが私のエレメンジャー♡」

 驚いた!私のいない所でそんな大サービスをしてくれたなんて!
 なんて素敵な子達だろう!益々愛らしい!
 嬉しすぎて私は触れないイエローにチュッチュとエアーキスを送った。

 イエローは恥ずかしそうに体を揺らし喜ぶ。
 すると他のメンバーも自分達も頑張ったと言わんばかり私のキスを強請ってきたので全員にキスを贈った。

 すると、ミリナの視線が痛いほど突き刺さっている事に気付く。

「ねぇエヴァ……あんたやっぱり(転生者)でしょう?」
 レオの手前、転生者と言う言葉を飲み込んでくれた気遣いには感謝だが、私ははっきりとは肯定せず公女スマイルで返した。

「ふふ。どうかしら?」
「何言ってんのよ!大体何なの〝エレメンジャー〟って!ネーミングセンス疑うわよ」
「良いじゃない。ミステリアスで」
「はぁぁぁ何処がミステリアスなのよ。しかも精霊にあんなの仕込むなんて意味わかんないわ」

 項垂れるミリナにレオも首を傾げながら「エヴァ〝えれめんじゃー〟ってどういう意味?」とコッソリ聞いてきた。

 この世界の言語ではなく、そのまま日本語で名付けたエレメンジャー。レオには意味が分からなかったのだろう。多分精霊達もわかっていない。
 とにかく精霊達が私の見ていない所でやってくれた事に感動し、私は彼らにもう一度やってもらうようお強請りすると、テーブルの上で決め台詞とポージングをしてくれた。
 それはこの邸にいた他の精霊たちも見ていたらしく、決まった時には大きな拍手喝采が湧き起こった。

 はぁぁぁ可愛い♡

 そのあと私は、別バージョンも考案しなければと意欲を燃やした。


 ◆


 それから無事にミリナを王宮へ送り届け、色々と手続きをした後私はいつもの離宮へ戻った。

 ミリナは正直に陛下達へ精霊を怒らせたことを伝えたらしいが、特に災害などが起こっていないことから重要視されていないようだった。
 何しろ精霊が見えるだけでも稀有な存在だから。

 ミリナは今までのことを反省し、本格的に聖職者の道へ進むことを決意したそうだ。随分と極端だとは思ったが、本人はいたって本気らしい。

 私は休暇中に溜め込まれた書類と戦う日々が続く。
 時折レオが疲れた顔でやって来て、私の足をスリスリしてグレゴリオに連れ戻されるというルーティン。

「離せグレゴリオ!まだエヴァが足りない!」
「はいはい。婚儀を終えればいつでも一緒にいられますから」
「ぬぅぅっ!今はどうすれば良いんだ!」

 すぅ、とグレゴリオの表情がなくなる。

「我慢すれば宜しい」

 あ。
 コワイ。

 暗殺者の様な殺気に襲われ、流石のレオも大人しく彼に従った。

 そう言えば。
 私たちが不仲だった時期も着々と婚儀の準備は整えられており、もうすぐ私達は夫婦となり、私は王太子妃となる。

 ずっと夢だった『レオのお嫁さん』になれる。

 ペンを走らせる手を止め、一息ついた。


 窓から臨く見慣れた庭を見渡し、ここでの生活もあと少しで終わると思うと感慨深くなった。
 婚儀を終えれば私は王宮にある王太子妃の間へ移る。

 そうなれば、毎日レオと顔を合わし………ムフフ♡


 あ、ちょっと待って。

 彼が絶倫だったことを思い出し、私はブルリと体を震わせた。

 保つかな、私の体………。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 ご精読ありがとうございます♡
 次回、本編最終話となりますので、どうぞよろしくお願いします(*´꒳`*)


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