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第一章 始まり
これまでの俺 【1】
しおりを挟む自慢ではない。
昔から勉強や運動、それ以外にも音楽や家事など人より頭一つ二つといわず、三つ四つくらい抜きんでていた。
どうしてかはいまいち自分自身でも理解できていないが、勉強は授業を受ける前に教科書をみれば大体理解できたし、運動なども誰よりも動くことができたので学生の頃は運動部の奴らによく勧誘されたものだ。
音楽は楽器も教えてもらえば大体演奏できたし、家事なども幼い頃からほぼ一人暮らしのようなものだったからできた。
見た目も悪くないどころか美形の部類だろう。
背もそこそこ高く、涼やかなアイスブルーの瞳とアッシュブラウンの柔らかい髪。
ここまで言うと、本当にただの自慢にしか聞こえないが事実であるので訂正はしない。
だが、一見神様の恩恵まみれに見えるであろう俺は、人に恵まれることに関しては世界一底辺であると言える。
「ねえねえ、キョウちゃんお願いだよー」
「嫌だと言っている。いい加減に付きまとうのはやめてくれ」
あと俺の名前はキョウではない。
京 凛太郎。
これが俺の名前。
中学の頃、誰が言い始めたかは知らないがどこからともなく出てきたその呼び名。
大学生になってまで周りで俺のことをそう呼ぶ奴が多い。
むしろそれしか呼ばれてないかもしれない。
いつからかそう呼ばれ始めたその呼び名は、俺は死ぬほど大っ嫌いで。
何故なら、その呼び名は決して愛称とは言えないからだ。
「いいでしょー? ちょっとだけだから!」
「何度言われても飲み会には参加しない。いい加減迷惑だ」
「……っち、お高くとまってんじゃねーぞ」
友人でも何でもない男が、そう捨て台詞を吐き捨てて何処かへ去っていく。
大学に入ってから初めてではなく、何度もこういう類の誘い言葉を声掛けられてきたが、毎回断っている。
誘ってくる奴は完全に俺の顔か身体が目当てか、俺を利用して女を集めたいだけだからだ。
昔から、俺は人に恵まれなかった。
まずは両親。
両親ともに日本人で黒髪黒目なのに、俺はそんな両親と違う色を持って生まれてきてしまった。
明るいアッシュブラウンの髪にアイスブルーの瞳。
まず最初に、父は母の浮気を疑ったという。
両親が大喧嘩の末、俺の遺伝子調査をしたところ俺は完全に両親の子供であった。
どうやら母方の祖母、つまりは俺の曾祖母が外人で綺麗なブロンドとブルーの瞳をしていたそうで、俺は隔世遺伝らしい。
これで一件落着かと思われたが、そうはいかず。
その大喧嘩がきっかけで、両親の仲に溝ができてしまったのだ。
両親は俺が生まれるまでは、それこそ大きな喧嘩も小さな喧嘩もしたことがないくらい仲が良かったらしいのだが。その大喧嘩の際の態度や話し方がお互い許しきれないものがあったらしく、それ以降は小さなことでもいざこざが絶えなくなってしまうほどで。
それに加えて、俺が成長するにつれて周りとは違う異常な成長をしていったことが、両親の仲にできてしまった溝を深くした。
父は、喧嘩が絶えなくなってしまった母に愛想を尽かし。
自分にも、母にも似つかない周りと異なる成長をする俺が気味が悪くなったのもあるのかもしれない。
遺伝子検査ではっきりと俺が自分の子供だと解ったはずなのに、やはり自分の子ではないのではないのかと不信感を抱いたことにより、俺が三歳になる頃には家を出ていった。
まあ、というのは建前でよそで愛人ができたから出ていったと聞いている。
母は、最初は俺のことを可愛がってくれたと思う。
しかし、俺が周りとどんどん異なっていくことに、父と同じで気味が悪くなっていった母は俺のことを嫌厭した。
そうして、俺が小学校二年目になる頃には、母も俺を育てることを放棄したのだ。
母にも、今は別の男がいるらしい。
そうなれば、離婚でもなんでもすればいいと、普通であればだいたいの人間がそう思うだろう。
だが、父と母は俗にいう政略結婚というやつで、両親や親戚連中は世間体を気にしてそれをよしとはしなかった。
俺は小学二年生にして、世話役のばあやや送り迎えをしてくれる運転手を除いて、一人でだだっ広い家に暮すことになったのだ。
両親は、というより特に父が世間体を気にして、俺が今年で十九歳になるこれまでの生活費や大学までの学費など、金銭面で必要なことは与えてくれた。そこはたとえ身近で育ててくれていないとはいえ、感謝すべき点だと普通なら思うだろうが。
俺からしてみたら父の顔はほぼ覚えていないし、母の顔も朧気なので、俺は両親がいないものと思っていて感謝の気持ちなんてものはあまり湧いてこない。
とても、薄情で親不孝な子供に育った自覚はある。
でも、生まれてから今までの環境が俺をそうさせてしまった。
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