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第一章 始まり
HOME SWEET HOME【2】
しおりを挟むそして、夜。
「さぁ! リン君いってらっしゃい! のささやかだけど身内だけで晩餐会を始めよう!」
パルフェット様がそう言って開かれた晩餐会は、全然ささやかなレベルではなく。
パルフェット様やセリューさんが頑張ってくれたのであろう、かなりのご馳走が机の上には並んでいた。
「「わーい!!」
「こら! お前達! 行儀よく食べるんだぞ!」
双子は開始の合図と共に、勢いよく食べ始め、それを注意するベルトラン君。
飲み物を配っていくセリューさんに、食前酒をたしなむドゥース様。
ここまではいつもと同じ風景なのだが、そこには一人、足りない人物がいて。
「あの、パルフェット様。プティ君は……?」
「それがね、お腹が痛いって部屋に籠っちゃってるの。私が直せば、すぐ良くなるのに……。せっかくの晩餐会なのに、ごめんね、リン君」
「いえ! お腹が痛いのは仕方がないので! ちょっと寂しいですけど、後でプティ君の部屋に会いに行ってみます」
「ごめんね。そうしてあげてくれる?」
そう。
プティ君だけが、晩餐会に参加していなかったんだ。
どうやら体調不良のようだし、明日の朝一には旅に出てしまうので、もしかしたら、朝まで会えない可能性も考えれば、今夜部屋に会いに行きたい。
大丈夫かな。プティ君……。
食事も進み、デザートまで食べ終わったころ、何やらそわそわし始めた双子を見たパルフェット様が、パンパン! と柏手を打った。
それを合図に何やら双子お兄ちゃんズだけでなく、ベルトラン君まで席を外してどこかへ向かい、パルフェット様やドゥース様、セリューさんまで何やらこそこそとし始めた。
な、なんだ? なんか始まるの?
どうやら何が何だか分からなくなっているのは俺だけのようで、ゼンもなんでか知らないけど、俺の後ろの見えないところでこそこそしてる。
皆して、どうしたんだ??
キョロキョロと周りを見渡して、事態を把握しようとしていたら。
「じゃーん!!」
その大きな声は、パルフェット様。
何やら、一着の服を持って来て見せてくれている。
「…………どうしたんですか? その服……」
「これは、リン君へのプレゼント! この領地の名産の牛の毛を使った特注の旅装束! 私と、ドゥースから!」
「えぇ!!」
ちなみに、これはリン君達が刈ってくれた毛で作ったの。と今にも歌い出しそうな声音でそう言うパルフェット様。
旅装束は、ゼンがくれるものだと思っていたから、まさかパルフェット様とドゥース様から貰えるだなんて思っていなかった。
しかも、俺達が刈った牛の毛が、こんなに立派な服になるなんて!
よくパルフェット様の話を聞くと、この布一枚で、普通の刃物や簡単な攻撃魔法くらいなら防げちゃうという超優れもの!!
「で、でも、これ、かなり値が張るんじゃ!?」
「そんなの気にしないの!」
「そうだよ。リンタロウ殿。リンタロウ殿が受け取ってくれないと、これは燃やして捨ててしまうよ?」
「なんてこと言うんですか! ドゥース様! ありがたく頂戴します!!」
俺はドゥース様の言葉に慌てて、パルフェット様が持っていた服を受け取る。
まさかのパルフェット様じゃなくて、ドゥース様にちょっとした脅しを言われるなんて思ってなかったけど、この妻にしてこの夫ありってこと?
あと、受け取った物をよく見ると、服だけじゃなくて、ベルトやナイフを収めるケースなど、様々な小物も一緒に渡してくださったみたいだ。
こんなに立派で素敵なの、たくさん…………。
「俺からは、これだ」
今度はそう言ってゼンが一つのバッグを差し出してきた。
「あれ…………、これ、なくしたと思ってた俺のバッグ!」
こちらへ来た時に湖に落ちた瞬間から、湖の底に落としてしまったと思っていた俺のバッグ。
革製で、使い勝手が良くて、重宝してたお気に入りのバッグ。
「どうして、これ…………」
「リンタロウ、このバッグなくした事残念がってたから。お気に入りだったんだろうと思って湖から取り出して、マジックバッグに作り変えてもらったんだ」
残念ながら、中身は全て水で使えなくなっていたけど。そう言って渡してもらった、俺のバッグ。
このバッグは、実は前の世界で、世話係のばあやと護衛兼運転手がお金を出し合って大学入学祝いに買ってくれた物だった。
なんだかんだ、前の世界で俺が生きてこれたのはあの二人がいてくれたからで。お喋りなばあやとそれと反対で無口な護衛兼運転手の榊さん。
あの二人は、どうしてか、俺の事変な目で見なかったし、普通に過ごせたから嫌いじゃなかったんだ。
そんな二人から、最初で最後に貰った贈り物。
とても大事にしたい贈り物だったから…………。
「……………………ゼン。ありがとう。今度こそ、大事にする」
それを底が深い湖からわざわざ拾い上げて、もう一度使えるようにしてくれただけで、とても、とても嬉しい一品だった。
あちらから持ってこれた、唯一の大事なバッグ。
「喜んでくれて、嬉しいよ」
俺の手の上へと、優しく乗せられたバッグ。この手触りは、確かに俺のバッグの手触り。
俺は、頂いた旅装束と一緒にそのバッグを胸の中へと抱き込み、何よりも大事にすると、そう決めた。
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