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第二章 旅立ち
豪華列車の旅【1】
しおりを挟む俺達は、豪華客船のような四階建ての列車ではなく、二階建てで四車両繋がっている中の二車両目に宿泊室を確保できた。
どうやら、今日の列車のチケット販売終了直前にどうにかチケットを運良く購入できたみたいで。
取れた宿泊室は広めの二人部屋で、そこにもう一つベッドを入れて三人で宿泊することになったんだ。
俺達は列車の乗車時間を待って、時間がくるとさっそく荷物を置きに乗車し、部屋へと向かった。
こういう大きな乗り物自体見るのが初めてなヨルは、わくわくを隠そうともせずに輝く笑顔で列車を一目見てからというもの終始、列車の外から中までせわしなく辺りを見回すので少し危なっかしい。
せめて、人にぶつかったりこけたりしないようにと注意はしたが、やはりわくわくは勝ってしまうものだ。
「おっと」
「わっ! すまない!」
とうとう、列車内を歩く他の乗車客とヨルはぶつかってしまった。
「ヨル! ほらみろ、よそ見をするからだぞ。すみません、こちらの不注意で」
少しぶつかっただけだが、念のため俺もヨルと一緒に謝ってみた。
「あぁ、構わない。ちょっとぶつかっただけだ」
ぶつかった相手が良かったみたいだ。
相手は小柄なヨルよりも大柄でゼンと同じくらいの背丈だし、ちょっと見た目が華やかなというか派手な男だったので、揉め事になるかと警戒してしまったが。
そんな警戒はどうやら不必要だったようで、快い返事が貰えた。
「子守りは大変だなお兄さん。今晩、俺と飲まない?」
と思っていたら、ぶつかった派手男は俺とヨルを素通りして、いきなりゼンに言い寄っていた。
しかも、馴れ馴れしくゼンの肩に手を添えて、耳元で囁ける近さに顔を寄せて。
「え!?」
そうだ。
忘れていた。
この世界は男だけの世界。
前の世界とは違って、ここは恋愛対象が男同士なのが普通なのだ。
むしろ男しかいないので男同士でしか恋愛ができない、というわけだと思うのだが。
こちらに来てからというもの、前の世界みたいに俺は男相手にモテたこともないし、リッシュ領ではパルフェット様がパルフェット様だっただけに男だけの世界であることを忘れてたり、この世界の通常に俺はまだ慣れていないという事に今気づいた。
ていうか、こいつが馴れ馴れしいだけか!?
この世界でこういうナンパは初めてだからわからん!
しかも、前の世界でしょっちゅうそういう目にあってきた自分自身に起きたわけではなく、俺の後見人であるゼンがナンパされているというこの状況!
放置されることに慣れていない俺はどうしたらいい!?
とりあえず、ヨルに見せてはいけない気がしたのでヨルの視界を両手で遮った。
ヨルが不思議そうにしているけど、今は放置。
だいぶ俺は混乱しているらしい。
待てよ。この派手男。ゼンに子守りって言ったか? もしかして、その子守りの中に俺は含まれているんじゃないだろうな。
俺の年齢は十九歳だが、この世界での成人年齢は十八なのだろう?
俺は立派な成人だ!
そんな事を考えていたコンマ二秒。
その間にも俺の思考を置いて、時というものは進んでいくもので。
「すまないが、遠慮させてもらう」
「なんだよ、つれないこと言うなよ。お兄さんみたいな美人そうそう会えるもんじゃない。ぜひ、お近づきになりたいな」
派手男は『それとも』と言葉を続けながら俺達の方へと振り返った。
「このおチビさん達のどっちかが、恋人だったりするわけ?」
その言葉と共に、値踏みするように上から下へと俺達に視線を這わせる派手男。
おい。そんな目でこっち見るなら目つぶしするぞ。
今俺の両手が空いてなくて良かったな。
俺は視線だけでガルルと威嚇をしてみたつもりだが、いまだゼンに触れて異常に近い距離にいる派手男は毛ほどにも思っていないようで。
「どっちも可愛いけど、華奢で折れそうだぞ。――――――――」
派手男の最後の方の言葉は、ゼンの耳だけにしか届かなかったから分からないけれど、それが逆になんかムカツクとだけ心の中で言っておく。
「すまないが、俺はお前に興味が湧かない。俺達は長旅で疲れているから失礼させてもらう」
ゼンはそう言ってとすっぱりと派手男の手から離れて、俺達の元へとやってくると、俺の肩を掴んでヨルと一緒にくるりと反転させ当初の目的の部屋へと歩いていく。
「おにーさーん! その気になったら俺、一番前の車両のオープンフロアで飲んでるだろうから声かけてねー」
派手男もそう言って、俺達とは反対方向へと進んでいった。
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