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No.48

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 俺はメイさんと共に最上階にある王族専用部屋を目指し階段を駆け上がっていた。

 「メイさん、パメラ様は一人でバーゲンの部屋に行ったんですか?」

 「いえ、クラスメイトと入学パーティーをすると仰っていたのでクラスメイトも一緒だと思います」

 それを聞いて少し安心した。

 一人で行ったのなら心配だがクラスメイトがいるならまだ大丈夫だろう。
 パメラ様は強力な魔法も使えるし俺が渡した救援玉もある。
 それでも何があるか分からないので急いだ方がいいだろう。

 階段を速足で登りながら救援玉を胸ポケットから出して確認すると何の反応も無かった。

 階段を登りきると、そのまま従者の立っているバーゲンの部屋まで行った。

 「パメラ様を向かえに来ました。バーゲン様に伝えて下さい」

 溢れる怒りを抑えて扉の前に立つ従者に丁寧に声を掛けた。

 「クラスメイトは皆さん帰られました。バーゲン様はお休みになられていますのでお引き取りを」

 扉の前に立ちはだかり、そう言い放った従者は頭を下げた。 

 「もう一度言います。バーゲン様にお取り付きをお願いします」

 「何度言われてもお取り付きはできません。バーゲン様はお休みになられております」

 その瞬間俺の体から殺気が溢れ出す。

 「バーゲンは寝てる?ふざけるな!パメラ様が帰ってねぇんだよ!いいからさっさと扉を開けろ!」

 「だからバーゲン様は─ぶへっ!」

 俺は話をしている最中の従者の顔面に拳を振るうと、従者は扉に叩きつけられそのまま崩れ落ちた。

 そして風魔法で扉を吹き飛ばすと中に入った。

 バーゲンの部屋の中は空き瓶や食べ残した食べ物が散乱していた。

 「音がしたから出てきてみれば平民じゃないか」

 奥の部屋からタオル地のガウンを羽織ったバーゲンが出てきた。

 「バーゲン、パメラ様は何処にいる!」

 「ふんパメラか、パメラはベッドで寝てるぞ。まぁ口は聞けないがなハッハッハ!」

 笑い出てきた部屋を指差すバーゲンに「てめー!」と声を張り上げ飛び掛かろうとした所でメイさんに手を捕まれた。

 「ラグー様、まずはパメラ様を確認いたしましょう」

 「クソ!」

 俺はそう吐き捨てバーゲンが出てきた部屋に向かった。

 部屋は寝室になっていて、大きなベッドがありベッドの側にはパメラ様が朝着ていた服が脱ぎ捨てられていた。

 「パ、パメラ様?」

 メイさんが目を見開きシーツにくるまって頭だけが見えるパメラ様に近づく。

 メイさんがシーツを捲ると裸のパメラ様が姿を現しメイさんはそのままパメラ様を抱き締めた。

 「パメラ、パメラ様!お気を確かにして下さい!」

 パメラ様は目を大きく見開き、その目からは涙が溢れていた。
 メイさんが何度声を掛けても揺すってもパメラ様が動く様子は無かった。

 「嘘だろ……」

 俺はパメラ様を守れなかった。
 あんなに守ると誓ったのに……

 自分の不甲斐なさに拳を握った。

 「ハッハッハ、パメラは思った通り最高だったぞ!」

 「黙れ!」

 「この媚薬に最後まで抵抗してたが、最後はコロッと落ちたぞ!ラグーラグーと喚くパメラは本当にゾクゾクしたぞ!」

 その瞬間俺はキレた。

 振り返り、開いドアの柱に持たれ掛かるバーゲンに高速で向かって行き顔面目掛け拳を叩き込んだ。

 グシャリと音がしてバーゲンの顔面は陥没した。

 壁に叩きつけられ仰向けに倒れるバーゲンの陥没した顔面に何度も拳を叩き込んだ。

 「クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!」

 そして俺はメイさんに後ろから抱き締められた。

 「ラグー様、バーゲンはもう……」

 メイさんは泣いていた。
 バーゲンの顔はぐちゃぐちゃになって原形は無く床まで破壊されていた。

 「メイさん……俺はパメラ様を守れなかった……」

 血で汚れた手で顔を覆うと涙が溢れ出した。

 「ラグー様……」

 メイさんは俺に抱き付き泣き崩れている。

 俺は戦争が起きないようにバーゲンが殺されないよう動くつもりだった。でもバーゲンは俺が殺した。

 しかし俺に悔いはない。
 大切なパメラ様を傷付けたバーゲンを許す事は出来ない。

 例え俺一人でもガラフ王国と戦ってやる。
 こんなクソ野郎のせいで俺の大切な人達の血を流させない。

 でも…今だけは泣かせてほしい……

 部屋には俺とメイさんの泣き声が響き渡っていた。
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