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13.かつて家族だった者たち

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「あれは?」

 セシールは門に視線を向けた。誰が騒いでいるのだろう。

「……ヴァンクール辺境伯令息を出せ!」

「ここの辺境伯令息のせいで、私たちがこんな目に遭わされているのよ!」

「そうよ! 私たちを助ける義務があるでしょう!」

 セシールとベルトランは顔を見合わせた。
 どうやら来客のようだ。
 しかし、その態度はあまり良いものとは思えない。何か問題が起きたようだ。

「俺が行ってくる」

 そう言って、ベルトランはそのまま門へと向かう。
 セシールも慌ててその後を追った。
 門の前では、汚い身なりをした三人組が立っていた。
 でっぷりと太った少女を支えるように、両隣には痩せ細った中年の男女がいる。

「……っ」

 彼らの姿を見たセシールは、息をのむ。
 変わり果てた姿になっているが、かつてセシールの家族だった者たちだったからだ。

「……何の用だ?」

 ベルトランは静かな口調で言う。その表情は冷たく、一切の感情を表していないように見えた。

「あ……! あんた、ヴァンクール辺境伯令息ね! あんたが王女殿下と結婚しなかったせいで、私たちがこんなひどい目にあっているのよ! 責任を取りなさいよ!」

 太った少女が、甲高い声で叫ぶ。

「そうだ! お前が王女殿下と結婚していれば、我が家が落ちぶれることもなかったんだ!」

「そうよ! お前のせいで私たちは不幸になったのよ!」

 中年夫婦も続けて、怒りに満ちた声で叫ぶ。

「意味がわからない。俺が王女と結婚しなかったことが、なぜお前たちの不幸に繋がる?」

 首を傾げながら、ベルトランは冷静に問いかける。

「あんたが王女殿下と結婚していれば、私は王女付き侍女として良縁を得られるはずだったのよ!それなのに、私は……こんなことに……っ!」

 太った少女は涙を流しながら叫ぶ。

「……さっぱりわからないな。お前が良縁を得られるかどうかなど、俺には関係がないだろう」

 ベルトランはそう言ってため息をつく。心底呆れているようだった。

「王女殿下が結婚すれば、私は円満に侍女を辞めて結婚することができたのよ! それなのに、あんたのせいで王女殿下が病を得て、私たちも責任を取らされそうになって逃げてきたのよ!」

「だから、それが俺に何の関係が?」

「そりゃあ、王女殿下の病は、あの豚の呪いかもしれないわ。でもね! あんたが王女殿下と結婚しなかったから、こんなことになってしまったのよ! だから、あんたには責任を取る義務があるの!」

 太った少女はそう叫び続ける。その瞳には狂気しか宿っていなかった。

「……あの豚の呪い、だと?」

 ベルトランの声が一段低くなる。怒りを孕んだ声だった。
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