異世界恋愛短編集

葵 すみれ

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「あなたの謝罪にそんな価値があるとでも?」~婚約破棄された令嬢はやり直さない

06.求婚

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「そういえば、どうしてあなたがクラルティ男爵に? あれから一体どうなったの?」

 ややあって落ち着いたフォセットはリシャールに尋ねる。
 彼はかつてフォセットの従者だったが、ジェイドから目の敵にされていた。
 そしてあるとき、とうとうジェイドは侯爵家の跡継ぎという立場を使って、リシャールを力ずくで追い出したのだ。

「私は追い出された後、力をつけるのだと下町で様々な仕事をこなしてきました。そうしたあるとき、クラルティ男爵に声をかけられたのです」

 リシャールは淡々と語る。

「クラルティ男爵は私に、暇つぶしだと言って様々な仕事を教えてくれました。その中で私は事業家としての才覚を現し、徐々に成功を収めていきました。その結果を認められ、クラルティ男爵の養子として迎えられたのです」

「そうだったのね……大変だったでしょうに……」

 悲しくなりながら、フォセットは目を伏せる。
 そんなフォセットに、リシャールは微笑む。

「確かに苦労したこともありましたが、お嬢さまのためを思えばつらくはありませんでした」

「リシャール……」

 一度は収まった涙が、再び溢れてしまいそうになる。
 リシャールは真剣な眼差しで告げる。

「私はお嬢さまに初めてお会いしたときからお慕いしておりました。しかし、身分差があるとずっと諦めていました」

 リシャールはフォセットの手を取り、その手の甲に口づけをする。

「ですが今は違います。あなたの隣に立つために、私はこうして爵位を得たのです」

 そう言って彼は微笑む。その微笑みは幼い頃の面影を残したまま、精悍さと逞しさが増していた。

「改めて申し上げます、お嬢さま。私はあなたを愛しています。どうか私の妻になっていただけませんか?」

 リシャールは真剣な表情で問いかける。
 フォセットは感極まってぽろぽろと涙を流す。もう、こらえきれなかった。

「私……ずっとあなたに謝りたかったの……」

「謝る……?」

 リシャールは不思議そうに首を傾げる。
 涙を流しながら、フォセットは頷く。

「あなたが追い出されたとき、守り切れなかったこと……どうしてもあなたに謝りたかった」

「お嬢さま……」

 リシャールはつらそうに顔を歪め、そっとフォセットを抱きしめる。そして優しく髪を撫でた。

「……どうか謝らないでください、お嬢さま」

「でも……」

「あの時、追い出されたからこそ、私はこうしてお嬢さまの隣に立つことができるのです。そして、あなたを守るだけの力を手に入れました」

 リシャールは愛おしげにフォセットを見つめる。
 その眼差しに、フォセットは思わず頬を赤らめる。

「ありがとう、リシャール」

 フォセットはリシャールの胸に顔をうずめ、背中に手を回す。
 彼はフォセットの身体を包み込むように抱きしめた。

「さあ、お嬢さま。答えをお聞かせください」

「……喜んで」

 フォセットは顔を上げ、涙ぐみながらも笑顔で答える。
 その答えを聞いた途端、リシャールの顔にも笑みが浮かんだ。

「お嬢さま……いえ、フォセット。愛しています」

 リシャールはそう囁き、そっとフォセットに口づけをする。
 一瞬驚いたものの、フォセットはすぐに目を閉じてリシャールの唇を受け入れた。

「私もよ、リシャール……」

 唇が離れた後、フォセットは幸せを噛みしめるように囁いた。
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