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「あなたの謝罪にそんな価値があるとでも?」~婚約破棄された令嬢はやり直さない
05.再会
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だが、ジェイドの拳が振り下ろされる前に、横から伸びてきた手が彼の腕を掴んだ。
「な……!」
ジェイドは驚きに目を見開く。フォセットも目を見張る。
そこにはジェイドの腕を掴んだ青年の姿があった。
黒髪に鳶色の瞳をした、凛々しい顔立ちの青年だ。
青年はフォセットに向かって微笑みかけた。
「お怪我はありませんか?」
「え、ええ」
フォセットは戸惑いながらも頷く。
すると青年は掴んだ腕を捻り上げる。
「いたたた……!」
ジェイドは苦痛の声を上げる。腕を掴んだままの青年が口を開く。
「あなたの言い分は支離滅裂です。これ以上の横暴は、許しません」
青年は静かな声で告げる。そこには有無を言わせない迫力があった。
「なっ……何者だ!? 邪魔をするな!」
ジェイドは何とか逃れようともがくが、青年の力が強いのか抜け出すことができない。
そんなジェイドの腕を離すことなく、青年は言葉を続ける。
「私の名はリシャール。クラルティ男爵となった者です」
「えっ……!?」
フォセットは信じられない思いで、目の前の青年を見つめた。
その名には覚えがある。よく見てみれば、顔立ちにも面影がある。
フォセットの目の前に現れたのは、かつて従者を務めていたリシャールだったのだ。
あの頃はフォセットが十歳、リシャールが十三歳だった。七年の歳月で、彼はすっかり大人の男に成長していた。
許されない想いだと、心の奥底に閉じ込めたはずの恋情が、じわじわと溢れてくる。
「お久しぶりです、お嬢さま」
リシャールは驚きに固まるフォセットに向かって笑いかける。
「……あなた、リシャール……? 本当に……?」
「はい、お嬢さま」
リシャールは頷く。その微笑みも口調も記憶の中の彼と寸分違わない。
胸に熱いものがこみあげてきて、フォセットの目に涙が溢れる。
そんなフォセットの様子を見たジェイドは歯ぎしりをする。
「くそっ、離せ!」
リシャールの手から逃れようと暴れるが、リシャールはびくともしない。
「無駄な抵抗はおやめください」
落ち着いた声で告げられた言葉に、ジェイドは憎々しげに顔を歪める。
「うるさい! クラルティ男爵だと!? たかが男爵ごときが、侯爵家の跡継ぎである僕に逆らうな!」
ジェイドはリシャールを怒鳴りつける。
するとリシャールは冷たい目でジェイドを見下ろす。
「あなたが侯爵家の跡継ぎ? もう廃嫡されて、ただの平民ではないですか」
「な……なんだと!?」
ジェイドは言葉を失う。
その様子に構うこともなく、リシャールは淡々と話す。
「あなたは私のことなど覚えていないでしょうね。あなたは私のことを、蹴飛ばすための置物としか思っていなかったようですから」
「な……だ、誰だ……? 貴様は……!?」
ジェイドの顔に怯えが浮かぶ。
静かにそれを見つめながら、リシャールは目を細める。
「私が誰かなどどうでもよいのですよ。ただ、今度はあなたが蹴飛ばされる置物に過ぎない立場になるというだけの話です」
「なっ……」
リシャールの厳しい視線に、ジェイドは言葉を失う。
彼は笑みを消し、冷ややかな声で告げる。
「これ以上暴れたり喚いたりするようでしたら、力ずくで黙らせますがよろしいですか?」
フォセットはごくりと喉を鳴らす。リシャールは本気だ。そして容赦なく実行するだろう。
そんなリシャールの様子に恐れをなしたのか、ジェイドの顔が真っ青になる。
「わ……わかった! もう何も騒がないし、暴れない!」
ジェイドは泣きそうな顔で叫ぶ。
「そうですか。ではさっさと出て行ってください」
リシャールは掴んでいたジェイドの腕を離した。
ジェイドは床にへたり込んだ後、ほうほうの体で部屋から逃げ出した。
「お嬢様」
静かになった部屋で、リシャールはフォセットに向き直る。そして片膝をついて頭をたれる。
「長らくお待たせいたしました。このリシャール、ただ今戻りましてございます」
「リシャール……!」
フォセットは感極まった声で叫ぶと、リシャールのもとへ駆け寄り、ぎゅっと抱き着いた。
「ああ……本当にあなたなの? 信じられない……」
つい声が震えてしまう。
そんなフォセットを優しく受け止めながら、リシャールは答えた。
「はい、お嬢さま。私です」
「夢を見ているみたい……」
フォセットはリシャールの胸に顔を埋めながら呟く。
するとリシャールはくすりと笑った。
「夢ではありませんよ」
そう言って彼はそっとフォセットの髪を撫でる。
その優しい手つきに、フォセットはさらに涙をこぼしてしまった。
「な……!」
ジェイドは驚きに目を見開く。フォセットも目を見張る。
そこにはジェイドの腕を掴んだ青年の姿があった。
黒髪に鳶色の瞳をした、凛々しい顔立ちの青年だ。
青年はフォセットに向かって微笑みかけた。
「お怪我はありませんか?」
「え、ええ」
フォセットは戸惑いながらも頷く。
すると青年は掴んだ腕を捻り上げる。
「いたたた……!」
ジェイドは苦痛の声を上げる。腕を掴んだままの青年が口を開く。
「あなたの言い分は支離滅裂です。これ以上の横暴は、許しません」
青年は静かな声で告げる。そこには有無を言わせない迫力があった。
「なっ……何者だ!? 邪魔をするな!」
ジェイドは何とか逃れようともがくが、青年の力が強いのか抜け出すことができない。
そんなジェイドの腕を離すことなく、青年は言葉を続ける。
「私の名はリシャール。クラルティ男爵となった者です」
「えっ……!?」
フォセットは信じられない思いで、目の前の青年を見つめた。
その名には覚えがある。よく見てみれば、顔立ちにも面影がある。
フォセットの目の前に現れたのは、かつて従者を務めていたリシャールだったのだ。
あの頃はフォセットが十歳、リシャールが十三歳だった。七年の歳月で、彼はすっかり大人の男に成長していた。
許されない想いだと、心の奥底に閉じ込めたはずの恋情が、じわじわと溢れてくる。
「お久しぶりです、お嬢さま」
リシャールは驚きに固まるフォセットに向かって笑いかける。
「……あなた、リシャール……? 本当に……?」
「はい、お嬢さま」
リシャールは頷く。その微笑みも口調も記憶の中の彼と寸分違わない。
胸に熱いものがこみあげてきて、フォセットの目に涙が溢れる。
そんなフォセットの様子を見たジェイドは歯ぎしりをする。
「くそっ、離せ!」
リシャールの手から逃れようと暴れるが、リシャールはびくともしない。
「無駄な抵抗はおやめください」
落ち着いた声で告げられた言葉に、ジェイドは憎々しげに顔を歪める。
「うるさい! クラルティ男爵だと!? たかが男爵ごときが、侯爵家の跡継ぎである僕に逆らうな!」
ジェイドはリシャールを怒鳴りつける。
するとリシャールは冷たい目でジェイドを見下ろす。
「あなたが侯爵家の跡継ぎ? もう廃嫡されて、ただの平民ではないですか」
「な……なんだと!?」
ジェイドは言葉を失う。
その様子に構うこともなく、リシャールは淡々と話す。
「あなたは私のことなど覚えていないでしょうね。あなたは私のことを、蹴飛ばすための置物としか思っていなかったようですから」
「な……だ、誰だ……? 貴様は……!?」
ジェイドの顔に怯えが浮かぶ。
静かにそれを見つめながら、リシャールは目を細める。
「私が誰かなどどうでもよいのですよ。ただ、今度はあなたが蹴飛ばされる置物に過ぎない立場になるというだけの話です」
「なっ……」
リシャールの厳しい視線に、ジェイドは言葉を失う。
彼は笑みを消し、冷ややかな声で告げる。
「これ以上暴れたり喚いたりするようでしたら、力ずくで黙らせますがよろしいですか?」
フォセットはごくりと喉を鳴らす。リシャールは本気だ。そして容赦なく実行するだろう。
そんなリシャールの様子に恐れをなしたのか、ジェイドの顔が真っ青になる。
「わ……わかった! もう何も騒がないし、暴れない!」
ジェイドは泣きそうな顔で叫ぶ。
「そうですか。ではさっさと出て行ってください」
リシャールは掴んでいたジェイドの腕を離した。
ジェイドは床にへたり込んだ後、ほうほうの体で部屋から逃げ出した。
「お嬢様」
静かになった部屋で、リシャールはフォセットに向き直る。そして片膝をついて頭をたれる。
「長らくお待たせいたしました。このリシャール、ただ今戻りましてございます」
「リシャール……!」
フォセットは感極まった声で叫ぶと、リシャールのもとへ駆け寄り、ぎゅっと抱き着いた。
「ああ……本当にあなたなの? 信じられない……」
つい声が震えてしまう。
そんなフォセットを優しく受け止めながら、リシャールは答えた。
「はい、お嬢さま。私です」
「夢を見ているみたい……」
フォセットはリシャールの胸に顔を埋めながら呟く。
するとリシャールはくすりと笑った。
「夢ではありませんよ」
そう言って彼はそっとフォセットの髪を撫でる。
その優しい手つきに、フォセットはさらに涙をこぼしてしまった。
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