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01.婚約破棄するぞ

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「お前なんかに、何ができるというんだ。うるさいようなら、婚約破棄するぞ」

 ミレーヌの婚約者である伯爵令息アベルは、整った顔を酷薄に歪めてそう吐き捨てた。
 王立学園の教室の一室には他に誰もおらず、アベルの声だけが響き渡る。
 この言葉を聞いたのは何度目だろうか。ミレーヌは、もはや数える気も起きない。
 彼はミレーヌが少しでも己の意に反するようなら、婚約破棄を持ち出して脅してくるのだ。
 家が格下の子爵家であり、彼の家から支援を受けている身分では、言い返すこともままならない。ミレーヌはじっと耐え、俯く。

「そもそも、お前程度の魔力では、うちで使ってやっている平民どもと変わらない。馬鹿なことは考えず、良い妻になる努力だけしていればいいんだ。もう、うんざりだ。僕は帰る」

 ため息と共に言い捨てると、アベルは教室から出ていった。
 残されたミレーヌは、諦めたような吐息を漏らすと、宙を見上げる。

 今回の発端は、ミレーヌが選択科目に基礎魔術を選びたいと言ったことだった。
 ミレーヌは本当は魔術を学びたく、王立学園に入学する際も魔術科を選びたかったのだ。
 しかし、アベルはミレーヌが淑女科に進むことを望んだ。彼の意向には逆らえず、ミレーヌは魔術の道を諦めた。また、並外れた才能があるわけではなく、どうにか魔術師になれるほどの魔力しか保有していないのも確かだ。
 それでも、せめて選択科目でわずかなりとも学ぶことができればと思ったが、彼は許してくれなかった。

「……この先も、一生こうなのかしら……」

 ミレーヌはぼそりと呟く。
 両親も伯爵家には逆らえず、婚約者に従えと言っている。また、アベルは両親の前ではにこやかに振る舞うのだ。本性を見せようとしないずる賢さがある。
 このまま彼に従い、彼の言いなりになって一生を終えるのだろうか。
 そこに幸福は見出せず、かといって抜け出すこともできず、ミレーヌは閉塞感に包まれていた。
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