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38.儀式失敗
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レイチェルが庭園に着くと、すでに大勢の人々が集まっていた。
庭園の中央に祭壇が置かれており、宝石や花々で美しく彩られている。
人々は儀式を見守るために集まっていたが、その表情は様々だ。期待に満ちた顔をしている者もいれば、不安そうな様子の者もいた。
国王は祭壇の前に立ち、集まった人々を見回すと口を開く。
「……これより、建国祭の儀式を行う!」
その宣言と共に、会場内は一気にざわめいた。皆の視線が祭壇に集まり、緊張感に包まれる。
「王太子グリフィンよ、祭壇へ」
国王の呼びかけに、グリフィンはゆっくりと進み出た。その隣にはケイティが寄り添っているが、彼女の表情は冴えない。
二人が歩いて行く姿を見つめていたレイチェルは、突然、激しい恐怖に襲われた。
このままでは、結界が崩壊する。そのことを、はっきりと感じ取る。
「待ってください!」
レイチェルは大声で叫び、駆け出す。
「どうした、レイチェル嬢」
国王は訝しげな顔で見つめてくる。しかし、レイチェルは構わずに叫んだ。
「ダメです! 殿下では無理です! カーティスさまに、お願いしてください!」
「何を言っているのだ」
国王は顔をしかめた。だが、レイチェルは怯まずに続ける。
「カーティスさまなら、できます! 本当に結界を修復できるんです! だから……」
そこまで言いかけた時、後ろから腕を掴まれた。振り返るとそこにはウサーマス公爵の姿があった。
「見苦しい真似はやめたまえ。そもそも、きみなどに何がわかるのかね? 王太子であるグリフィン殿下が失敗などするはずがないだろう?」
ウサーマス公爵は嘲笑を浮かべながら、レイチェルを見下ろす。
「さあ、早く下がりたまえ」
ウサーマス公爵はレイチェルの腕を強く引いた。しかし、そう簡単に引き下がるわけにはいかない。
「待ってください! それならばせめて、国王陛下が儀式を行ってください!」
「何を馬鹿なことを……」
ウサーマス公爵は呆れたようにため息をつく。
「その必要はない」
国王の声が響いた。
会場内はしんと静まり返る。人々は皆、国王に注目していた。
「儀式を行うは王太子グリフィンである」
国王は厳かな口調で宣言した。
「どうしてですか! 殿下では、結界は崩壊します! カーティスさまが駄目だというのなら、せめて国王陛下が……!」
レイチェルは必死に訴えるが、国王は首を横に振った。
「これは王太子であるグリフィンの義務だ。次期国王としての資質を示すための儀式である」
取り付く島もない国王の態度に、レイチェルは絶望感に襲われる。
王家の血を引かないグリフィンでは、儀式は失敗する。
せめて国王が行ってくれれば、完全ではないにせよ修復は可能だ。今回はなんとか持ちこたえることができるかもしれない。
それなのに、国王はグリフィンを次期国王にすることで頭がいっぱいのようだ。 このままでは、結界は崩壊し、大勢の人々が犠牲となってしまうだろう。
「それならばせめて、私を儀式に参加させてください!」
レイチェルは叫んだ。
「私は四大公爵家の直系です! 傍系のケイティでは、適性が欠けています! 私にやらせてください!」
レイチェルは必死に訴えるが、国王は厳しい表情で首を横に振る。
「ならぬ。これは王太子としての試練なのだ」
「ですが……!」
さらに言い縋ろうとしたところで、グリフィンがレイチェルを睨みつける。
「ふざけるな! この期に及んでまだ僕とケイティの仲を引き裂こうとしているのか! お前のような浅ましい女が、高貴な僕の隣に立つ資格などない! 早く消えろ!」
グリフィンは怒りの表情を浮かべ、レイチェルに向かって怒鳴りつける。
その目には強い憎悪が込められていた。
「ふざけているのはあなたです! 私はあなたの隣に立つ気など、微塵もありません! 結界の修復のために言っているだけです!」
レイチェルは負けじと言い返すが、グリフィンは聞く耳を持たない。
彼はケイティの腰を抱くと、そのまま歩き出そうとする。
「あ、あの、殿下……儀式だけはお姉さまに……」
「ケイティ、そんな女のことは気にしなくていいんだよ」
戸惑うような表情を浮かべて声をかけるケイティに、グリフィンは優しく微笑む。
「まさかきみまで、おかしなことを言い出すわけではないよね?」
グリフィンは低い声で言うと、ケイティの肩を抱き寄せた。
「あの……殿下……」
ケイティは怯えたように身体を強張らせる。しかし、グリフィンはまったく気にする様子もない。
「さあ、行こうじゃないか」
「……はい」
ケイティは諦めたように頷く。
「殿下! 待ってください!」
レイチェルが必死に訴えるが、グリフィンたちは振り返ることもなく遠ざかっていく。
慌ててグリフィンたちの後を追いかけようとしたが、ウサーマス公爵はレイチェルの腕をつかんだままだ。
「離してください! もう時間がないんです!」
しかし、彼は決して手を離そうとはしなかった。それどころかますます強く握りしめてくる始末だ。まるで絶対に行かせまいとするかのようだった。
「君はまだ懲りないのかね? 大人しくしていろ」
「嫌です! 離してください!」
レイチェルは必死に抵抗するが、腕はびくともしない。
そうしているうちに、グリフィンとケイティは祭壇の前に辿り着いてしまった。
「殿下……私は……」
ケイティは何かを言いかけたが、すぐに口を閉じる。そして、悲しそうな表情を浮かべると俯いたまま黙り込んでしまった。
グリフィンはそんな彼女を励ますように手を握ると、ゆっくりと口を開いた。
「大丈夫だよ、ケイティ。僕は必ず成功する」
グリフィンの力強い言葉に、ケイティは顔を上げるがその表情はまだ晴れない。
「はい……殿下ならきっと……」
「もちろんさ」
グリフィンは自信たっぷりに答えると、祭壇に置かれた杖を手に取る。
そして、それを天に向かって掲げた。
過去の儀式で、レイチェルも見たことがある。杖を天に向かって掲げると、杖の先から魔力の光が放たれて祝福の印を描くのだ。
しかし、グリフィンが手にした杖は、何の変化も示すことはなかった。
「……どうして……」
グリフィンは呆然と呟き、何度も杖を振りかざす。しかし、結果は同じだった。
「殿下!」
ケイティが悲鳴を上げるが、グリフィンの耳には届かないようだ。彼は狂ったように何度も何度も杖を振るい続ける。
だが、杖は何の反応も示さない。
「どうして……僕は……僕は……!」
グリフィンは絶望に満ちた表情で天を仰ぐと、膝から崩れ落ちた。
「殿下!」
ケイティは駆け寄ると、そっとグリフィンの身体を支える。
彼女の目には涙が滲んでいた。
「こんなはずじゃなかった……どうして……」
グリフィンは呆然とした表情で呟くが、やがて力なく項垂れる。
そんな彼の姿を見た人々は、ざわつき始めた。不安そうな表情を浮かべる者もいれば、失望の声を上げる者もいる。中には嘲笑を浮かべる者もいたが、誰も止めようとはしない。皆一様に動揺している様子だった。
しかし、レイチェルはほっとしていた。
王家の血を引かないグリフィンでは、そもそも結界に触れることができなかったのだろう。
これならば、年に一回しかできないという結界の修復も、まだできるはずだ。
補助としてでも改めてカーティスが儀式を行えば、きっと間に合う。
レイチェルが思案していると、不意に甲高い音が響いた。いくつものひび割れるような音が、空に広がっていく。
「なんだ!?」
人々は動揺し、辺りを見回す。
すると、空一面に亀裂が走っているのが見えた。
「これは……」
レイチェルは呆然と呟くと、空を見上げる。
亀裂からは黒い霧のようなものが噴き出していた。それはどんどん広がり、空を黒く染めていく。
「まさか……結界が崩壊するの……?」
レイチェルが呟いた瞬間、空が割れた。
その衝撃にレイチェルはよろめく。人々は悲鳴を上げ、逃げ惑う。
割れた空の隙間からは、黒い霧のようなものが流れ込んできた。それはゆっくりと人のような形を取り始め、異形の存在へと変化していく。
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「カーティスさまなら、できます! 本当に結界を修復できるんです! だから……」
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「さあ、早く下がりたまえ」
ウサーマス公爵はレイチェルの腕を強く引いた。しかし、そう簡単に引き下がるわけにはいかない。
「待ってください! それならばせめて、国王陛下が儀式を行ってください!」
「何を馬鹿なことを……」
ウサーマス公爵は呆れたようにため息をつく。
「その必要はない」
国王の声が響いた。
会場内はしんと静まり返る。人々は皆、国王に注目していた。
「儀式を行うは王太子グリフィンである」
国王は厳かな口調で宣言した。
「どうしてですか! 殿下では、結界は崩壊します! カーティスさまが駄目だというのなら、せめて国王陛下が……!」
レイチェルは必死に訴えるが、国王は首を横に振った。
「これは王太子であるグリフィンの義務だ。次期国王としての資質を示すための儀式である」
取り付く島もない国王の態度に、レイチェルは絶望感に襲われる。
王家の血を引かないグリフィンでは、儀式は失敗する。
せめて国王が行ってくれれば、完全ではないにせよ修復は可能だ。今回はなんとか持ちこたえることができるかもしれない。
それなのに、国王はグリフィンを次期国王にすることで頭がいっぱいのようだ。 このままでは、結界は崩壊し、大勢の人々が犠牲となってしまうだろう。
「それならばせめて、私を儀式に参加させてください!」
レイチェルは叫んだ。
「私は四大公爵家の直系です! 傍系のケイティでは、適性が欠けています! 私にやらせてください!」
レイチェルは必死に訴えるが、国王は厳しい表情で首を横に振る。
「ならぬ。これは王太子としての試練なのだ」
「ですが……!」
さらに言い縋ろうとしたところで、グリフィンがレイチェルを睨みつける。
「ふざけるな! この期に及んでまだ僕とケイティの仲を引き裂こうとしているのか! お前のような浅ましい女が、高貴な僕の隣に立つ資格などない! 早く消えろ!」
グリフィンは怒りの表情を浮かべ、レイチェルに向かって怒鳴りつける。
その目には強い憎悪が込められていた。
「ふざけているのはあなたです! 私はあなたの隣に立つ気など、微塵もありません! 結界の修復のために言っているだけです!」
レイチェルは負けじと言い返すが、グリフィンは聞く耳を持たない。
彼はケイティの腰を抱くと、そのまま歩き出そうとする。
「あ、あの、殿下……儀式だけはお姉さまに……」
「ケイティ、そんな女のことは気にしなくていいんだよ」
戸惑うような表情を浮かべて声をかけるケイティに、グリフィンは優しく微笑む。
「まさかきみまで、おかしなことを言い出すわけではないよね?」
グリフィンは低い声で言うと、ケイティの肩を抱き寄せた。
「あの……殿下……」
ケイティは怯えたように身体を強張らせる。しかし、グリフィンはまったく気にする様子もない。
「さあ、行こうじゃないか」
「……はい」
ケイティは諦めたように頷く。
「殿下! 待ってください!」
レイチェルが必死に訴えるが、グリフィンたちは振り返ることもなく遠ざかっていく。
慌ててグリフィンたちの後を追いかけようとしたが、ウサーマス公爵はレイチェルの腕をつかんだままだ。
「離してください! もう時間がないんです!」
しかし、彼は決して手を離そうとはしなかった。それどころかますます強く握りしめてくる始末だ。まるで絶対に行かせまいとするかのようだった。
「君はまだ懲りないのかね? 大人しくしていろ」
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レイチェルは必死に抵抗するが、腕はびくともしない。
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ケイティは何かを言いかけたが、すぐに口を閉じる。そして、悲しそうな表情を浮かべると俯いたまま黙り込んでしまった。
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「もちろんさ」
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「殿下!」
ケイティが悲鳴を上げるが、グリフィンの耳には届かないようだ。彼は狂ったように何度も何度も杖を振るい続ける。
だが、杖は何の反応も示さない。
「どうして……僕は……僕は……!」
グリフィンは絶望に満ちた表情で天を仰ぐと、膝から崩れ落ちた。
「殿下!」
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彼女の目には涙が滲んでいた。
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グリフィンは呆然とした表情で呟くが、やがて力なく項垂れる。
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しかし、レイチェルはほっとしていた。
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これならば、年に一回しかできないという結界の修復も、まだできるはずだ。
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レイチェルが思案していると、不意に甲高い音が響いた。いくつものひび割れるような音が、空に広がっていく。
「なんだ!?」
人々は動揺し、辺りを見回す。
すると、空一面に亀裂が走っているのが見えた。
「これは……」
レイチェルは呆然と呟くと、空を見上げる。
亀裂からは黒い霧のようなものが噴き出していた。それはどんどん広がり、空を黒く染めていく。
「まさか……結界が崩壊するの……?」
レイチェルが呟いた瞬間、空が割れた。
その衝撃にレイチェルはよろめく。人々は悲鳴を上げ、逃げ惑う。
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