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 エリカ=ホルバインはため息をついて、来た道を戻った。

(回り道するしかないわね。全く・・・)

 踵を返した事で、長い髪が顔にかかる。エリカはこめかみから髪に手を入れ、そのまま後ろへと前髪をすかし、後ろ髪まで指を通して髪を整える。淡い水色の髪を視界の端に入れながら、沸き上がった不満をそのまま速足に変えて歩いた。

(せめて人が来ない場所にしなさいよ)

 呆れと嫌悪を滲ませて、エリカは長いローブの裾をはためかせながら足を進める。

 ここは王城の敷地内であり、騎士と魔導師が良く通る道だ。
 騎士団と魔導師団は王城から見て同じ方角にある。王城に用事がある場合、騎士も魔導師も同じ東門から入り、王宮の前に巡らされている道を通るのが最短距離だ。
 エリカもその最短の道を歩いていたが、少し先に見える、道の脇に設えてある東屋から声が聞こえた。それは聞き慣れた声が女を口説く言葉だった。

(いい加減にして欲しいわ)

 エリカがあのまま直進しては、東屋の中が見える。口説いているあの男の姿を見るとか、一体なんの罰なのか。万が一目が合ったらそれこそ最悪だ。
 想像しただけでエリカはうんざりした。そうであれば遠回りした方がマシだ。

 エリカとあの男、アレックス=コートネイは国立学園からの付き合いだ。

 エリカが一昨年卒業した、貴族が通う国立学園。そこは跡継ぎや文官等を対象とした法律文学科、騎士になるための剣術科、魔術を専門とする魔導科の3つに分かれている。
 エリカは魔導科を首席で卒業し、今は魔導師団に所属している。そしてアレックスはエリカと同学年であり、剣術科を首席で卒業した後、騎士団に所属している。

 学園では剣術科と魔導科は魔物討伐の共同授業があった。前衛の騎士と後衛の魔導師のコンビネーションの練習も兼ねていたので、腕と状況判断力の高い者同士で組まされた。エリカのペアは大抵アレックスだったのだ。

 アレックスの父は騎士団長だ。高身長で筋肉質であり、近くに立たれると威圧感が凄い。しかしアレックスは美人と有名だった母に似ている。それ故高身長ではあるが、程よく筋肉が付き、細すぎず厳つ過ぎず、顔も美形。つまり美丈夫だ。そんな彼はもちろん女の子からも人気がある。そしてアレックスは己の容姿を有効活用しているようだ。アレックスがナンパしている所はエリカも何度か見かけている。

 エリカは軟派な男が大嫌いだった。歯の浮くようなセリフを聞けば虫唾が走り、無意識に顔が歪む。元々真面目な男性が好みであったが、学園に居る間に軟派嫌いが加速した。断っても断っても諦めない男。勝手に隣に座り、授業中なのに言い寄ってくる男。無視すると肩を掴んでくる男。言い返すとエリカを貶める発言をする男。勘違いで言い寄ってくる男。中にはまともな男もいたが、それすらもうっとおしく感じてしまう程だった。結局、良い思い出なんて全くない。

 エリカは美麗の氷伯爵と言われる父譲りの顔立ちをしている。それ故美人だと周りからも言われるし、自分でもそうなのだろうと認識している。しかし外見だけを褒めて言い寄ってくる男たちを見続けると、自分の価値は外見しかないのかと思ってしまう。そうして更に軟派な男が嫌いになった。

「そろそろ誰か一人に落ち着いて欲しいものだわ」
「それはもしかして俺の話か?」

 小さく呟いて再びため息を付くと、すぐ真後ろから声が聞こえた。驚いてビクリと肩を揺らすが、エリカは立ち止まってジロリと後ろを睨んだ。

「そうよ。というか何で付いてきたの。口説いてた子はもういいの?」
「口説いてない。声を掛けられたから少し付き合ってただけだ」
「・・・どっちでもいいわ」

 エリカは興味なさそうに言うと、前を向いて足を進める。

「お前の気配がしたから来たのに、何で付いてきた、はないだろ」
「なんで私がいると来るのよ。他行きなさい」
「美人を眺めるのは眼福だって言ってるだろ。それに俺も王城に用事があるんだよ」
「・・・」

 隣を歩き始めたアレックスを、エリカは再び睨みつけた。しかしアレックスは楽しそうにエリカの反応を眺めている。

「こっちは遠回りよ」
「お前がいるからいいんだ」
「何よそれ」

 はぁ、と隠すことなく大きくため息を付くと前を向く。これでは遠回りした意味がない。

 アレックスはエリカが軟派男を毛嫌いしているのを知っている。学園時代には何度か助けてもらった事もある。なので、今までに彼から迫られたことは無い。思わせぶりに見つめてくることもないし、気持ち悪いスキンシップもしてこない。今のように逆にハッキリと言ってくるので、その点は変な気遣いをしなくて良い相手だ。エリカがハッキリ物を言ってもアレックスはイチイチ怒らない。そういう意味ではエリカにとって居心地の良い相手ではあった。

「あんたは王城に何の用なの」
「第2王子ミッチェル殿下に呼ばれた」
「・・・またあんたとなの」

 エリカは眉を寄せてアレックスへ顔を向ける。一方アレックスはどことなく機嫌が良さそうな顔をしている。

「ま、お前があの道を歩いてきた時点でそうだとは思ったけどな。今回もよろしくお願いしますよ、氷の女帝殿」
「・・・それやめてよ」
「なんで。ぴったりだろ」
「お父様と違って私の得意魔術は風よ」
「氷も得意だっただろ?というかお前、苦手な属性あんのかよ」
「・・・」

 ない、と言ったらこの男は今後も『氷の女帝』と呼ぶだろう。
 エリカは学生時代に気付いたら周りからそう呼ばれていた。どうやら淡い水色の髪と、鋭さを感じる雰囲気が由来らしい。『氷』の異名は尊敬する父と同じであることから嫌ではない。しかしアレックスはエリカを揶揄う為に時折そう呼ぶ。それが腹立たしくて嫌だと言ってもやめない。今も一応抗議はするが、この男には効果は無いだろう。
 先程のイライラも相まって、エリカはアレックスを再びジロリと睨むと速足で歩いた。

「速足で歩いた所で無駄だぞ。俺の方が足が長いからな」
「うるさいわね」

 アレックスはエリカより頭ひとつ分背が高い。その分足が長いのは確かだが、イチイチそれを言う必要は無いだろう。エリカは馬鹿らしくてそれ以上真面目に返事をするのをやめた。速足になったのはアレックスを置いて行くためではなく、イライラした状態で二人っきりのこの状態をさっさと脱する為だ。
 エリカの悪態も気にせず余裕顔で横を歩くアレックスを、エリカは見ない様にして急いだ。


 ***


 事前に上司に聞いていた通り、第二王子ミッチェルの呼び出しは王都から北東にある魔生の森への派遣命令だった。これまでにも何度か魔生の森へ派遣されたし、エリカの能力が高く評価されているのだから悪い気はしない。しかし毎回アレックスと組まされるので、不満に思っていたエリカはミッチェルに抗議した。すると「お前らの相性がいいから」とミッチェルに一刀両断されてしまった。エリカ自身もそこは否定できなかった。




 エリカは辺りを見渡す。ここは魔生の森の最寄りの防衛基地だ。朝馬に乗って王都を出れば、夕方には着く距離にある。

 魔生の森はその言葉通り、漂う瘴気から魔獣が生まれる森である。瘴気とはなんなのか、何故王都近くにこんな危険な森があるのか、その原因はいまだ解明されていない。100年前に林の中に瘴気の渦が発見されたが、その瘴気から魔獣が産まれ、人を襲った。危険だからと林の手入れが行き届かなくなり、そのまま木々が増えて森になった。
 今も研究者がこの防衛基地に留まって原因究明を続けている。

 防衛基地には魔獣対策に騎士と魔導師が駐在している。魔生の森から出てくる魔物は、基本的に彼らに任せておけば問題は無い。しかし時折強い魔獣が出現し、怪我や体調不良で欠員が出る。交代要員が来るまでの穴埋めに、こうして王都から臨時派遣されるのだ。

(今回は1週間って言ってたわね)

 交代要員が手続きと準備を終えてここに到着するまでの間、エリカとアレックスは防衛基地に滞在する事になる。何度も来ているので、もはや見慣れた景色だ。白い壁の四角い武骨な家が並び、ぐるりと高い塀に囲まれている。そこから魔性の森側にやや離れた場所にもう一つ高い塀がある。その塀の内側、防衛基地側にはいくつか物見塔があり、今もそこで騎士達が森を監視している。

「やあエリカ嬢!久しぶりだね。元気そうで何より」

 物見塔を眺めていると声を掛けられた。エリカが声がした方を見ると、この基地に駐在している研究員のチェスター=ウィバリーが手を挙げながら近寄って来た。

「ウィバリー様。ご無沙汰しております。お元気そうですね」

 エリカの5歳上で、現在25歳。子爵家次男で妹を魔獣に殺されている。家の跡継ぎには兄がいるので、妹の敵討ちと自身の興味から研究しているそうだ。

「今回の臨時派遣員も君か。という事は」

 そう言ってチェスターは辺りを見渡す。エリカも辺りを見回すが、アレックスの姿は見当たらなかったので、チェスターへ顔を戻した。

「お察しの通り、アレックスです。たまには違う方とペアを組んでみたいのですが・・・」

 例えばあの方とか、とエリカが騎士を数人思い出していると、チェスターは小さく笑った。

「君らは騎士団と魔導師団それぞれのエースだし、それでいて相性も良いからね。騎士と魔導師を3人ずつ派遣するより、君達二人を派遣した方が色々と都合がいいだろう」
「・・・分かっています」

 エリカは目を伏せてため息をつくと、気分を切り替えてチェスターへ視線を向ける。

「それで、最近は何か変わった事はありませんでしたか?」
「いつも通りだね。研究の方もいつも通り。先日のワイバーン戦で3人の負傷者と1人の心神喪失があったくらい」
「そうですか」

 ワイバーンは空を飛ぶ爬虫類型モンスター。空中から人に向けて口から火を吐き、焼き殺してから食らう魔獣であり、なかなかに手強い。反撃しようにも、すぐに空高く逃げられるので厄介な相手だ。
 今回の負傷者の1人は火傷、1人は足の骨を折り、もう一人は腕が潰れて再起不能となった。そして彼らの怪我を治療した魔導師1人が、怪我の酷さに精神的ショックを受けて心神喪失、というわけだ。

「ま、今回は腕を潰された子がね・・・。あれはショッキングな怪我だったから、心神喪失も仕方ない。あまり責めないでね」
「分かっています。というかその方は先輩ですし、かなりの実力者です。私には責めたりなんて出来ませんよ」

 チェスターはふふっと穏やかに笑うとエリカに近寄る。エリカはどうしたのだろうかとチェスターを窺った。

「君は何度もここに来てるから彼らを理解出来る。でも王都から出たことのない魔導師は沢山いる。現場を知らない者達のさえずりから守ってやってくれ」
「それはもちろんです」

 小さな声で言うチェスターに、エリカも囁いて応える。 

 エリカはここに来て交代で王都に帰っていった先輩を思い出す。彼は優秀だからこそ危険な魔生の森の防衛基地を担当していたのだ。王都に戻ったら謂れのない陰口が蔓延しない様に、エリカの口から伝えなくては。

「はいはい近い」

 ここにいる間にちゃんと情報を集めないと、と考え込んでいたエリカに、突然声がかかる。同時にエリカの肩がグイっと押された。チェスターもエリカとは反対側に押され、その間にアレックスが割り込んだ。

「お前も一応貴族令嬢だろうが。男との距離感はちゃんとしとけ」
「・・・」

 一応って何よ、と文句を言いたくなったが、どうせ流されるだけだ。エリカはジロリと睨むだけに留めた。

「コートネイ様もお久しぶりですね。相変わらずなようで」

 ふふっと笑って挨拶をするチェスターに、アレックスは珍しくムスッとした顔をする。

「ウィバリー様も変わらずで。エリカに何か御用でしたか?」
「久しぶりにお会いしたので、その挨拶ですよ」

 チェスターはアレックスの失礼な態度に、少し困ったような笑みを浮かべて応えた。

「休憩がてら散歩していたんです。でもそろそろ戻らないとですね。では」

 言いながら踵を返すと、チェスターは手を挙げて研究所の方へ歩いて行った。
 その背中を見送っていると、アレックスはエリカの肩に置いたまま顔を近寄せた。

「で?何話してた」
「近い。注意した本人が何してんのよ」
「俺らは良いんだよ。で?」
「良くないわよ。未来のコートネイ侯爵様?貴方様こそ女性との距離を適切に保ってくださいな」

 令嬢らしい言葉遣いでストレートに言うと、エリカはパッと肩の手を振り払う。顔が付きそうなほど寄ってきていたアレックスからサッと離れた。

 アレックスは払われた手を見た後、チッと舌打ちをした。後頭部に手をやって襟足辺りを撫でる。黒い髪が下の方だけワサワサと動いているのが見えた。

(全く、子供なんだから)

 アレックスは他の令嬢にはちゃんとするのに、エリカにだけは素の言動で接してくる。エリカを女として意識すらしていないのだろう。

(それに、何でいつもウィバリー様のことを目の敵にするのかしら)

 エリカがチェスターと話していると、それに気付いたアレックスは不機嫌になって『何を話していたのか』と聞いて来る。よく分からないが大した話でもないので、毎回エリカも正直に伝える。だからだろうか。これがここでの通常運転になっている。今回もエリカは正直に伝えた。

「最近の事と、今回の負傷者の話をしていただけよ」
「ああ」

 納得したのか真顔になってアレックスは頷いた。 

「俺も聞いてきた。今は問題ないそうだが、念の為見回りに行くぞ」
「はいはい」

 アレックスはここに来ると、最初に現状の把握の為に近辺の見回りを行う。今回もそうだろうと、エリカは外で待っていたのだ。
 エリカは肩を竦めると、先を歩くアレックスの後に続いた。


 ***


 剣を振るうアレックスの後ろからブラックハウンドが飛び掛かる。エリカはすぐに風魔術でブラックハウンドを切り刻んだ。傷口から黒いかすみを吹き出しながら、ブラックハウンドは体を崩壊させ、そのまま黒いもやとなって消えていく。

「アレックス!後ろ気を付けなさいよ!」
「放っておいてもお前がやるだろ」
「あんたいっつもそれね!」

 アレックスにイラついて声を荒げてしまう。エリカは剣で攻撃をいなしながら、魔術で群がるブラックハウンドを攻撃していく。
 エリカだって暇ではないのだ。ただ探索術でブラックハウンドの動きを把握しているので、どの個体がどう動くか予測している。そしてアレックスとは何度もこうして戦闘を共にしているので、彼の動きも予測しやすい。逆に言うとエリカの行動もアレックスはよく分かっている。エリカが対処できると分かっている分は、無視してエリカに任せる癖がある。

(ペアを組む相手が私じゃなかったら対応出来ないわよ、もう!)

「自分で対応出来るんだから、ちゃんとしなさいよ」
「俺に群がってる数を見てから言え」
「前衛なんだからあんたに沢山群がるのは当然でしょ」

 ブラックハウンドは名前の通り黒い犬だ。群れで行動し、周りを囲って逃げ場を無くしてから攻撃をしてくる。戦闘慣れしていない魔導師ならパニックを起こすだろう。しかしエリカはレイピアで防ぎながら魔術で対処できるし、そもそも慣れている。今も落ち着いて周りのブラックハウンドを魔術で蹴散らしていく。あと20体程だろうか。

「おい!気ぃ抜くな!」

 エリカの横から飛び掛かってきたブラックハウンドを、今度はアレックスが切り捨てる。しかしエリカは動揺せず、すぐに魔術を放って周りに居た3匹を消滅させた。

「抜いてないわよ。あんたが切った奴もまとめて今ので倒す予定だったの」
「嘘つけ!詠唱が間に合ってなかっただろ!」
「間に合ってたでしょ。あんたが来なかったら剣で防いですぐ術を放ってたわ」
「ああ!?どう考えても今の剣が間に合わなかっただろ」
「間に合ってたって。うるさいわね。あんたと話してると詠唱出来ないでしょうが」

 話しながらエリカの周りのブラックハウンドを切りまくるアレックスに、眉を寄せたエリカは苦情を言って詠唱に入る。

「・・・くそっ」

 小さく毒づくと、アレックスも周りに集中した。二人で次々と襲い掛かってくるブラックハウンドを倒し、残り3体になるとエリカは攻撃を止めてアレックスに任せた。念のためレイピアは抜いたまま、詠唱を止めてアレックスを眺める。

「これで最後」

 そうしてアレックスが最後の一体を薙ぎ払うと、剣を鞘に収めた。同じくエリカもレイピアを腰に収める。

「・・・うんざりする光景だな」
「・・・」

 アレックスの言葉に、エリカも辺りを見渡す。辺りにはキラリと黒く光る小さいものが大量に落ちている。魔獣の心臓と言われている魔核だ。これらは回収しないと再び魔獣となる可能性がある。しかしその一方、瘴気を抜けば魔石となり、魔道具の部品として使用される。

 拾う気が一切なさそうなアレックスをエリカはジトっと見てから、風魔術で落ちている魔核を宙に浮かして集めた。バッグから専用の袋を取り出して口を大きく開けると、魔術を操りその中に入れていく。

「何度見ても便利だな」
「少しは拾う素振りくらいしなさいよ」
「いつも騎士団員だけの時は拾ってんだよ。今日はお前が居るんだから楽させろ」
「私が楽できないじゃない」
「後で足でも揉んでやろうか」

 怪我などの緊急時でなければ、普通貴族の女性は夫や婚約者以外の男に足を触らせない。それを分かっていて真顔で言うのだから、エリカはアレックスを嫌そうな目で見やった。

「馬鹿じゃないの、この変態」
「男は皆変態なんだよ」

 エリカが魔核が入った袋を腰に下げていると、アレックスは隣にぴったりと立った。腕がくっつきそうな距離に一瞬ドキリとしたが、これはいつものおふざけだろう。エリカは眉を寄せてサッと離れた。

「ちょっと。なんでそんなに近よってくるの。もう少し離れてくれる?」
「なんで」
「なんでって何よ」

 エリカは離れながら、見回り再開の為に歩き始める。しかしアレックスは再びぴったりとエリカにくっついてくる。エリカは距離を置こうと横にそれながら歩くが、アレックスはそれでもエリカに近寄ってくる。しばらくその状態が続いたので、最後はアレックスのマントの上から背中を叩いてやった。

「いてーな」
「そんなわけないでしょ。その鎧は飾り?」
「心が痛い」
「馬鹿言ってないで、ちゃんと周りを警戒しなさいよ」
「してるって」

 ようやく近寄ってくるのをやめたので、エリカは呆れた目でアレックスを見た後、はあ、と大きなため息を付いた。

(全く・・・この男は)

 他の令嬢には紳士な態度で甘い言葉を贈るクセに、エリカにはいつもこんな態度だ。呆れると同時に、エリカの胸がズキリと痛んだ。

(私もイチイチ気にしない)

 エリカは辺りを警戒しつつ、景色を眺める事で意識をそらし、痛んだ胸を宥める。

 この国では18歳で学園を卒業した後、お相手を探す事になっている。政略結婚が普通だった昔、本人の意思も大事にするべきだという議論が起こり、今は18を過ぎてから、という決まりが出来た。その為貴族の大半の子息子女は18歳から25歳の間で結婚する。
 エリカは現在20歳。結婚を考えるべき年齢だ。父からは好きな相手が居れば取り計らうとは言われている。しかしその相手は現状こんな雑な対応しかしてこない。エリカは貴族令嬢として見られていないのだ。
 エリカにだって貴族令嬢としてのプライドがある。こんな風に雑に扱われては意地だって張ってしまう。そうして素直になれないまま、しかし恋心を捨てきれずに今に至っている。

(不毛ね)

 アレックスが婚約してくれれば諦められるだろう。初恋は実らないものだと分かっている。だからどこかの可愛らしい令嬢と早く一緒になってくれないだろうかと、エリカは切に願っていた。

 エリカは空を見上げた。他の令嬢との対応の差を感じる度に胸が痛み、悲しくなる。アレックスの一挙手一投足に振り回され、無意識に期待しては傷付く自分が嫌になってしまう。

 エリカは空を見上げたまま、静かに胸の痛みを宥め続けた。


***


 明日は王都からの交代要員が到着する予定日だ。

(今回は明日の朝の見回りで終わりかな)

 エリカは防衛基地に来ると、朝夕の見回りを欠かさず毎日行っている。アレックスも毎回必ず共に来るので、魔物が襲って来ても問題なく対処出来ていた。

 交代要員達は昼頃に到着予定だと聞いている。もしかしたら夕方の見回りをして、その翌日の早朝に出発になるかもしれない。

(この男との朝夕の散歩ももうすぐ終わりね)

 隣を歩くアレックスをチラリと見やる。相変わらずの美丈夫だ。背が高く、騎士らしい程よくガッシリとした体形。そして短くしている黒髪は周りに清潔感を与え、藍色の瞳はどこか甘さを感じさせる。鼻筋も通り、唇も程よい厚み。それら全てが多くの令嬢を虜にしている。

 視線を前方へと戻し、森の方角へ警戒しながら足を進める。

 意地やプライドなど、余計なものは取っ払って自分の心と素直に向き合えば、この二人の時間が終わってしまうのは寂しいし残念だと思う。普通に話すのは楽しいし、気が合うからこそパートナーとして上手くやっていけるのだ。
 しかしその反面、アレックスの自分への対応が雑だと感じる度に悲しいし胸が痛む。アレックスがふざけて距離を詰めてくる時は胸がドキドキするし、アレックスからの信頼や互いの距離感に嬉さを感じる。しかし喜びを素直に表現したら、きっとアレックスは揶揄ってくるだろう。アレックスはそういう男だ。
 結局、エリカの心は振り回されて疲れ切ってしまう。後になって『あの反応はいけなかったかもしれない』と考えて悶々としてしまう。触れ合う時間が長ければ長い程それが増えるのだ。早く魔導師宿舎に帰って落ち着きたいのも本音だった。

 アレックスを好きでいる限り、この葛藤は終わらない。彼と距離を置けば落ち着くのかもしれないが、何か問題がある度に魔導師団のエースであるエリカと騎士団のエースであるアレックスはパートナーを組まされて派遣される。結果距離を置くこともできず、エリカの恋心は冷めてくれない。エリカはどうにもならない現状と自分の心にため息を付いた。

「・・・お前って、俺といる時よくため息つくよな」
「・・・・・・そうね」
「そうねって、なんだよ」

 自覚がないのか、と呆れた目でエリカは見やる。
 エリカの恋心を取っ払って考えても、アレックスの言動は令嬢に対するものではない。本当にエリカを令嬢として見ていないのだと認識させられ、その度にため息がこぼれてしまう。

「話したところでアンタには分からないでしょうから、聞いても無駄よ」
「・・・」

 眉を寄せて見てくるアレックスを無視して、エリカは前を向く。指摘されたばかりだが、もう一度ため息を付きたくなった。

 しかしエリカはパッと顔を上げて魔生の森へ視線を向けた。何かが索敵術にかかったのだ。

「アレックス!」

 アレックスはすぐに察して剣を引き抜いた。少し待つと森の方からガサガサと何かが近寄ってくる音がする。すぐに草むらからホーンラビットが1匹飛び出してきた。

「待って!まだ来る!」

 エリカが警告すると、ホーンラビットに駆け寄ろうと足を踏み出したアレックスが立ち止まった。

 ホーンラビットは初心者向けの弱い魔獣だ。しかし体長は1m程ある。額からは鋭い角が伸びていて、一般人には手に負えない魔獣だ。アレックスからみれば簡単な魔獣だからこそ、すぐに動こうとした。しかしエリカの索敵術では、後ろからもう一体走ってきている。

 ホーンラビットがエリカ達の場所まで到達するには、まだ距離がある。後から来る魔物が森を抜けてくる方が先だろう。動くのはそれからでも遅くはない。幸いホーンラビットはエリカ達の方へ駆けてきている。ここまで来たら対処すればいい。

(ホーンラビットを追いかけて来たのかな)

 魔獣同士でも食物連鎖があるというのはエリカも聞いたことがある。
 相手の魔核を体内に取り込んで、自分の魔核と融合し、自分の強さを上げていくようだ。何故そんな事をするのかはまだ明確には分かっていないが、魔獣同士の生存競争を勝ち抜く為だろうと言われている。

 こちらに走ってくるホーンラビットを警戒しながら森を睨み続ける。すぐにガサガサと音がした。そしてバサリと音を立てて森から飛び出してきたのはグリフォンだった。

「ウソ!?」
「二人しかいない時にグリフォンか!」

 エリカは驚いて声を上げた。グリフォンは滅多に現れない上級魔獣だ。10人程度のチームで事に当たるのが普通だが、アレックスが言う通り、ここには二人しかいない。

 グリフォンは森の中を駆け抜け、森を抜けた瞬間に背中の翼で空を飛び、ホーンラビットを追いかける。森とエリカ達の中間辺りにいるホーンラビットを狙い、滑空して前足で捕まえた。それだけでホーンラビットは体を崩して魔核だけとなった。グリフォンはすぐに魔核をくちばしで拾うと、そのまま飲みこむ。そして今度はエリカ達へと顔を向けた。

「やっぱりそのままお帰り頂けないわよね」
「そもそも森から出た時点で討伐対象だ。仕方ない。最初から全力だ」
「分かってる」

 アレックスは剣を構え、エリカは呪文を唱える。防御強化をアレックスと自分に掛けると、次は障壁の呪文を唱え始めた。

「来たな。行くぞ」

 翼を広げてこちらへ駆けてくるグリフォンを見て、アレックスも駆けて行った。エリカはアレックスとグリフォンが衝突するであろう場所から、グリフォン側に少しずれた地点で障壁を出す。見えない壁に勢い良くぶつかったグリフォンは、驚いてすぐに後退した。そこにすかさずアレックスが切り込む。最初の一撃で前足を掠めると、グリフォンは怒りの声を上げた。

 アレックスがグリフォンの攻撃を避けながら剣を振るうそのタイミングに合わせ、エリカも術を放っていく。足元を凍らせたり、炎で威嚇したり、飛び立つのを風で阻止したり。その結果出来た隙をアレックスは見落とすことなく、確実に攻めていく。

(基地から監視が見ているから、すぐに増援が来てくれる。それまで二人で対処するしかないわね)

 エリカは油断なく、次々と呪文を唱えていく。エリカの魔術だけでグリフォンを倒せなくもないが、その場合上級魔術でないと無理だ。呪文も長く、魔力も相当量持って行かれる。今はアレックスが居るのだし、増援が来るまでの時間稼ぎが出来ればいい。なのでエリカは下級から中級の呪文を連発してアレックスを補佐していく。

 エリカの索敵術に後ろから敵意のない何かが引っ掛かった。振り返るとエリカが予想していた通り、基地から騎士と魔導師達がこちらに向かって駆けて来ている。もう少しだ。そうホッとした瞬間。

 エリカの索敵術にもう一体何かが引っ掛かった。それは森を抜けて凄い勢いでこちらに向かって来ている。しかし草原には何もいない。エリカは上を向いて目視確認すると、すぐにアレックスに伝えた。

「アレックス!上にもう一体グリフォン!」
「嘘だろ!つがいか!」
「皆がこっちに来てる!あと少し持てばいいから!」

 そう言ってエリカは唱えていた術を、空を飛んできているグリフォンへ放つ。さすがにアレックス一人で2体の相手は出来ない。エリカは後から来たグリフォンの注意を自分に向けると、アレックスの戦闘の邪魔にならない様に、援軍が来ている方向へ駆けだした。

「こっちに来なさい!私が相手するわ!」
「エリカ!」
「大丈夫!」

 エリカは駆けながら下級の風魔法を唱えて走るスピードを速めると、上級魔術を唱え始める。そしてグリフォンに追いつかれる前に、得意の風魔法を何とか早口で唱え終えた。エリカは立ち止まると後ろを向いて手を上へ向ける。

「食らいなさい!刀嵐ブレイドストーム!」

 真空の刀が次々とグリフォンへと舞って行く。刀の軌道は円を描き、何度もグリフォンへ向かっては傷を作っていく。表皮の硬いグリフォンでも、立て続けに食らう真空の刃に叫び声を上げて地面に落ちた。傷口からは黒いかすみが漏れ出ている。もう一発上級魔術を放てば倒せそうだ。しかしグリフォンはエリカの目の前だ。走って逃げても、上級魔術の長い呪文を唱える時間がつくれない。

 エリカは続けて中級の氷魔術の呪文を唱える。

氷縛フロストフェタース!」

 立ち上がってこちらに駆けてこようとするグリフォンに、エリカは氷で足を縫い留めた。グリフォンは苛立ったように叫び声をあげる。これで援軍がこの場に到着するまで何とか持つだろう。エリカは再び呪文を唱え始める。

 一人になったアレックスは大丈夫だろうか。エリカがアレックスの方へ目を向けると、大きな怪我をした様子もなく、変わらず対峙している。それを見てエリカがホッとした瞬間、グリフォンが飛び立とうと翼を広げた。こちらの番を助けようとしているのだろう。あちらのグリフォンはアレックスに注意を向けながらも、エリカを睨みつけている。
 エリカは唱えていた障壁の呪文を、アレックスが対峙しているグリフォンの上に放つ。勢いよく飛び立ったグリフォンは再び障壁にぶつかって地面に落ちた。

(あっちは大丈夫)

 そう判断してエリカは目の前のグリフォンへ注意を向ける。するとグリフォンは既に後ろ足の氷を砕いていた。

(ウソ!思っていたより早い!早く次の呪文!)

 エリカは慌てて呪文を唱えつつ、援軍の方角へ走る。すぐに唱え終わる下級の術をぶつけるが、表皮の硬いグリフォンには打撲程度にしかならなかったようだ。そうしているうちに前足の氷も砕き、エリカの方へ向かってきた。

(落ち着け!大丈夫!)

 全力疾走しているのと恐怖と不安、緊張感で心臓がバクバク言っている。無意識に荒くなっていた呼吸を意識的にゆっくりとした呼吸に切り替え、すぐに呪文を唱え始める。しかしグリフォンはエリカの予想以上のスピードで駆けてくる。相当怒っているようだ。

(間に合う!?違う!間に合わせるのよ!)

 苦しい呼吸の中、無理やり早口で呪文を唱え終わると、駆け寄ってくるグリフォンの前に障壁を出す。ガン!とぶつかった音を響かせながらも、グリフォンは怯まずに障壁を避けてエリカへ迫ってくる。

(ウソ!?)

「エリカ!!」
「ホルバイン嬢!!」

 アレックスと援軍の騎士の叫びが聞こえる。しかし彼らは間に合わない。エリカは腰から剣を引き抜いた。

(私の剣じゃかなわない。でも少しでも攻撃を避けないと!)

 援軍の方へ駆けながら、エリカは剣で振り下ろされるグリフォンの前足の爪の軌道を変えようとする。しかしグリフォンの力強い前足はエリカの腕力では僅かに軌道がズレただけだった。剣は地面へと落とされ、グリフォンの前足の爪がエリカの目前に迫る。すると最初にエリカが自身にもかけていた防御術が反応した。エリカの30cm先の薄い膜を、グリフォンは前足でググッと押す。エリカは咄嗟に後退しようとしたが、その瞬間防御術が破られ、エリカの右の太腿の外側が切り裂かれた。

「ああ!!」

 痛みと衝撃に悲鳴を上げながら、エリカは唱えていた呪文を放つ。

氷縛フロストフェタース!!」

 再びグリフォンの足が地面に縫い留められる。しかし距離が近すぎてエリカの足も凍りついた。

「くっ」

 防御術を破られているので、直接冷気がエリカを襲う。しかしこれで何とか間に合った。

 エリカは後ろに倒れながら、自分を追い越してグリフォンへ攻撃を繰り出す騎士の背中を見る。そしてアレックスが無事であることを確認すると同時に、エリカの意識は飛んでいった。
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