4 / 18
◇戻りたいけど戻れないし3◆
しおりを挟む
その頃、ユーヴェリーは嵐のように去って行ったエルトリーゼに困惑していた。
「ど、どうなさったのかしら……?」
ユーヴェリーは不思議そうに扉を見つめていた。
エルトリーゼは公爵令嬢だが、傲慢でもなくむしろユーヴェリーにも優しくしてくれていたのだが、今日はなんだか様子が変だった。
立場を思えば無礼なのだろうが、エルトリーゼを妹のように思っているユーヴェリーにとっては心配になる行動だ。
「調子が悪いと言っていたし、気にすることはないんじゃないかな?」
アヴェルスが言うと、ユーヴェリーは納得こそしていないものの頷いた。
エルトリーゼにも知られたくないことや事情というものはあるだろう。
「そうね、詮索はよくないわよね」
「そうだよ、彼女にも知られたくないことくらいあるだろう。ところで、今日はどうしたの? ユーヴェリー」
優しい彼の言葉に、ユーヴェリーは花が咲くように微笑んだ。
「さっきも言ったけれど、あなたがやっと婚約をしたと聞いて、お祝いに来たのよ。もう、陛下もずうっと心配なさっていたのだからね。エルトリーゼ様を大切にしてあげてね?」
「……ああ、もちろん」
アヴェルスは内心で舌打ちをした、あんな子供っぽくて性格の悪そうな女の何を大切にしろと言うのか。
「そうそう、わたくしも婚約することになったの」
「――え」
「嫁き遅れだってさんざん言われていたから、やっと肩の荷がおりたわ!」
嬉しそうなユーヴェリーに、反応が遅れたアヴェルス。
疑問に思った彼女が先に口を開いた。
「アヴェルス? どうしたの?」
「――……あぁ、いや、ごめん、なんでもないよ。おめでとうユーヴェリー……幸せに」
彼がそう言うと、ユーヴェリーは百合の花のようにたおやかに微笑んで言う。
「ええ、あなたとエルトリーゼ様もよい夫婦になれるように祈っているわ」
◇◇◇
ユーヴェリーが帰ったあと、アヴェルスは私室のソファにぐったりと座りこんだ。
「最悪」
本当に、この一言に尽きる。
何度も父にはユーヴェリーを選ばせてほしいと懇願したが、なぜか頑なに断られた。
そして、相手は両親が決めると言われ……連れて来られたのがあのエルトリーゼだったのだ。
昔から、妙に胡散臭いところのある女だと思っていた。
幼い頃は年齢にそぐわない振る舞いというか、今で言うのなら奇妙に男の扱いに慣れていそうなところとか。愛人が居ると言われても驚かない。
一方ユーヴェリーは優しく愛に溢れた女性だ。エルトリーゼと違ってスレたところもない。
それなのに……。
(そういえば、あいつ、どこへ向かったんだろう)
アヴェルスは空中に魔法で半透明のページを開いた。
さっき、エルトリーゼはなにかよろしくないことを考えているように感じた。何か悪巧みをしている可能性がある。
「王立図書館……?」
彼女に贈られた指輪には、おそらく本人も気づいているだろうが居場所を追跡する機能がある。
ただ、エルトリーゼはわざわざアヴェルスが自分の居場所など気にするとは思っていないだろう。実際には、こうして確認されているわけだが。
(どうしてわざわざあんな場所に……? 本が好きだとか、そういう情報は特になかったはずだ。それに、本が好きなら自宅に山ほどあるだろうし……)
王立図書館にはどちらかというと小難しい本が並んでいる。
少なくとも女性が好みそうな小説などの類は置かれていない。あるのは魔術書などだ。
「怪しい……」
アヴェルスは紫色の瞳を眇めて席を立った。
(あの女、何か隠し事をしているのは間違いないんだ。胡散臭いし、少し様子を見てくるか)
周囲の男どもはあの胡散臭い女が可愛いとか愛らしいとか言うが、アヴェルスにはとてもそうは見えない。
あの振る舞いかたといい、何かあるのは間違いない。
「ど、どうなさったのかしら……?」
ユーヴェリーは不思議そうに扉を見つめていた。
エルトリーゼは公爵令嬢だが、傲慢でもなくむしろユーヴェリーにも優しくしてくれていたのだが、今日はなんだか様子が変だった。
立場を思えば無礼なのだろうが、エルトリーゼを妹のように思っているユーヴェリーにとっては心配になる行動だ。
「調子が悪いと言っていたし、気にすることはないんじゃないかな?」
アヴェルスが言うと、ユーヴェリーは納得こそしていないものの頷いた。
エルトリーゼにも知られたくないことや事情というものはあるだろう。
「そうね、詮索はよくないわよね」
「そうだよ、彼女にも知られたくないことくらいあるだろう。ところで、今日はどうしたの? ユーヴェリー」
優しい彼の言葉に、ユーヴェリーは花が咲くように微笑んだ。
「さっきも言ったけれど、あなたがやっと婚約をしたと聞いて、お祝いに来たのよ。もう、陛下もずうっと心配なさっていたのだからね。エルトリーゼ様を大切にしてあげてね?」
「……ああ、もちろん」
アヴェルスは内心で舌打ちをした、あんな子供っぽくて性格の悪そうな女の何を大切にしろと言うのか。
「そうそう、わたくしも婚約することになったの」
「――え」
「嫁き遅れだってさんざん言われていたから、やっと肩の荷がおりたわ!」
嬉しそうなユーヴェリーに、反応が遅れたアヴェルス。
疑問に思った彼女が先に口を開いた。
「アヴェルス? どうしたの?」
「――……あぁ、いや、ごめん、なんでもないよ。おめでとうユーヴェリー……幸せに」
彼がそう言うと、ユーヴェリーは百合の花のようにたおやかに微笑んで言う。
「ええ、あなたとエルトリーゼ様もよい夫婦になれるように祈っているわ」
◇◇◇
ユーヴェリーが帰ったあと、アヴェルスは私室のソファにぐったりと座りこんだ。
「最悪」
本当に、この一言に尽きる。
何度も父にはユーヴェリーを選ばせてほしいと懇願したが、なぜか頑なに断られた。
そして、相手は両親が決めると言われ……連れて来られたのがあのエルトリーゼだったのだ。
昔から、妙に胡散臭いところのある女だと思っていた。
幼い頃は年齢にそぐわない振る舞いというか、今で言うのなら奇妙に男の扱いに慣れていそうなところとか。愛人が居ると言われても驚かない。
一方ユーヴェリーは優しく愛に溢れた女性だ。エルトリーゼと違ってスレたところもない。
それなのに……。
(そういえば、あいつ、どこへ向かったんだろう)
アヴェルスは空中に魔法で半透明のページを開いた。
さっき、エルトリーゼはなにかよろしくないことを考えているように感じた。何か悪巧みをしている可能性がある。
「王立図書館……?」
彼女に贈られた指輪には、おそらく本人も気づいているだろうが居場所を追跡する機能がある。
ただ、エルトリーゼはわざわざアヴェルスが自分の居場所など気にするとは思っていないだろう。実際には、こうして確認されているわけだが。
(どうしてわざわざあんな場所に……? 本が好きだとか、そういう情報は特になかったはずだ。それに、本が好きなら自宅に山ほどあるだろうし……)
王立図書館にはどちらかというと小難しい本が並んでいる。
少なくとも女性が好みそうな小説などの類は置かれていない。あるのは魔術書などだ。
「怪しい……」
アヴェルスは紫色の瞳を眇めて席を立った。
(あの女、何か隠し事をしているのは間違いないんだ。胡散臭いし、少し様子を見てくるか)
周囲の男どもはあの胡散臭い女が可愛いとか愛らしいとか言うが、アヴェルスにはとてもそうは見えない。
あの振る舞いかたといい、何かあるのは間違いない。
10
お気に入りに追加
2,206
あなたにおすすめの小説
「好き」の距離
饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。
伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。
以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。
異世界でのんびり暮らしたい!?
日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる