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幼馴染と花言葉の話
唯一の望みは
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十二歳の誕生日に図鑑を貰った。
特筆すべきは、その贈り主が両親ではなく、幼馴染であったこと。ひと口に幼馴染と言ってはみても、別段、仲が良かったわけではない。
あいつは窓際で本にばかり齧りつき、俺はボールばかりを追いかけて、稀にちょっかいをかけたり話したりする。そんな友達よりは近いけど、親友よりは遠い関係。いや、それよりもっと希薄かもしれない。
「……何これ」
「誕生日プレゼント」
「いや、それは分かるんだけどさ」
言い淀んだのは、渡された図鑑の題名に"花言葉"とあったから。
動物図鑑でも植物図鑑でもなく、ピンポイントで花の図鑑。女の子に渡すのならまだしも、男の俺に渡すようなものではない。
「好きでしょ、花。緑化委員に立候補してたじゃん」
「あー」
……なるほど、そこからきてたのか。
思い出して、少し遠くに視線をやる。人づてに楽だという噂を聞いたから、奪われる前にと、自ら手を挙げたのには違いない。
けれど、これが案外面倒で、朝と放課後の決まった時間、担当区域に水をやらなければならないのだ。
立候補した手前、枯らしてしまうのも忍びないし、真面目にやっていた自覚はある。それゆえに、花が好きだと勘違いされたのだろう。
「気に入らなかった?」
「……っえ!? や、嬉しいよ。俺こう見えて花好きだし!」
「そう、ならよかった」
折角の好意を無下にはできない。
努めて明るく嘘を吐けば、表情の乏しい幼馴染の口角が、ほんの少しだけ上がった気がした。
夏が終わり、秋が来て、季節はどんどん巡っていく。
あっという間に次の誕生日を迎えた日。いつも通り学校に行こうとドアノブを握れば、向こう側で何かが落ちた。
「………保冷バック?」
恐る恐る確かめてみれば、それは銀色の四角い袋──いわゆる保冷バックだった。もちろん不審に思いはしたものの、好奇心には抗えない。
中を覗くと、目についたのは紫の花。何かの紋章のような、そんな不思議な見た目をしていて、思わずまじまじと見つめてしまう。
次いで袋の底にあったのは、最近人気のシャーペンと、シンプルなメモ帳。
誰の仕業かようやく分かって、けれど時間もなかったから、花だけ水に差し込むと、すぐさま家を飛び出した。
「へぇ、お前カキツバタっていうのか」
帰宅後、唯一の花瓶を引っ張り出し、紫の花をいれてみる。以前もらった図鑑によれば、この花は杜若というらしい。振り仮名がないとまず読めない。
花言葉は「幸運が訪れる」「高貴」「思慕」なんだとか。この三つの中でいえば、多分あいつは"幸運"という意味で選んだのだと思う。存外、乙女チックなやり方だ。
「まあそれはいいとして。この保冷バック、どうしよっかなァ……」
あいつのことだから、素直に受け取りはしないだろう。こうやって匿名で引っ掛けているのが何よりの証拠だ。
「俺は別に気にしねぇのに」
呟いてみても、何か変わるわけでもない。
数日かけて悩んだ末、あいつへの誕生日プレゼントと、花の代わりのスナック菓子をバックに詰めて、ドアに掛けておくことにした。本当は来月渡すつもりだったけど、そんなことで怒るような奴ではないし。
▽
それからは、保冷バックを使ったやり取りが、誕生日の恒例になっていった。
毎年入っている花は、カーネーションだったり、ガーベラだったり、スズランだったり。色も形も様々で、その度、花言葉を調べるのが宝探しみたいで何気に楽しい。
そういえば、枯れてしまうのが勿体なくて撮り始めた花の写真も、もうすぐ五枚目に差し掛かる。五年間もこんなやり取りをしているのなら、さぞ仲も深まっているだろうと思うのだが、俺たちは何ひとつ変わってない。
むしろ、別々の高校に進学した分、話すことさえ少なくなった。ようやく買ってもらったスマートフォンも、電話ひとつかかって来ず。メッセージカードの一番上に書いたのに、変なところで薄情なやつだ。
「ぅあー!」
大きな声を出しながら、ベッドの上で寝転がる。高校二年生を迎えた春。進路相談を兼ねた話し合いで、親と意見が割れていた。
昔は好きなことをやりなさいとあれだけ言っていた両親も、写真の道に進むとなれば、そう簡単には頷かない。曰く、小さなコンクールで二~三個賞を取ったくらいでは、プロになれるはずもないと。
「……そりゃあ、分かってるけどさぁ」
趣味で続ければいいじゃない。
母さんの言葉が何度も何度も甦って、思わず眉間に皺がよる。この感覚は、きっと言葉にできやしない。だからこんなにも苦しいのだ。
「…………外に行こう」
バックに帽子、それからカメラ。最低限のものだけを身につけ、逃げるように家を出た。
自分だけの鮮やかな景色を切り取って、その世界に溶けてしまえば、こんな気持ちも少しは薄れてくれるだろうと。
──カシャッ
レンズを絞り、ぼかした背景に花を添える。初夏に移り変わっていくこの季節は、穏やかな陽光も相まって、被写体探しに困らない。
今度はあの公園に行ってみようか。
ふと思い立って、子供の頃よく通っていた場所に足を運ぶ。
ライオンのマークが目印の、大きな大きな木の遊具。老朽化のせいで撤去されたとは聞いていたけど、実際目にしたその場所は、あまりに寂れて物悲しかった。
「やっぱり帰るか」
「ねぇ、」
「ひぇっ……!?」
誰にともなく呟いた途端、背後からそっと肩を叩かれる。いきなりすぎたものだから、カメラを抱いたまま跳び退り、犯罪者に声をかけられたような反応をしてしまった。
「何、その反応」
「お……っまえかよぉ~!! もう! びっくりさせんな!!」
「うるさっ」
自分から話しかけてきた癖に、なんたる言い草。不満に思いはしたものの、うるさいという部分は事実である。甘んじて受け入れてやろう。
「こんなとこで何してるの」
「写真撮ってた。……お前こそ何でここにいるんだよ。お袋さん、怒るんじゃねぇの」
「さあ、どうだろう。今頃はヒステリックに暴れてるんじゃない」
「あははっ! 流石に言うなぁ」
「自分の出来が悪いからって子供に責任を押し付けないで欲しいよね。本当に迷惑」
かろうじて残されたベンチに座り、ぽつりぽつりと話をする。久しぶりに会った幼馴染は、進学校の制服を身につけ、やけに大人びているようにも見えた。
「でも、医学部に行ければ安泰だもんな」
「は?」
つい、本当につい、喉から滑り落ちた言葉だった。親の経営する病院があって、医者になるだけの頭もあって、俺なんかとはまるで違う。将来の見えない仕事なんかに、憧れを抱いている俺なんかとは。
「……それ、本気で言ってるの」
ひときわ低いその声が、怒りを露わに伝えていた。けれど、今さら引き返すこともできなくて、ぐっと喉を詰まらせる。
「っ、だって、フォトグラファーなんて馬鹿みたいな夢見てる俺と比べたらさ……お前、立派じゃんか。羨ましいって思うだろ!」
「呆れた。高校生にもなって、まだそんなこと言ってるわけ」
やめてくれ、これ以上恥の上塗りをしたくない。心ではそう思っているはずなのに、どうにも口は止まらない。刺さる言葉は的確で、だからこそ、俺のプライドを刺激した。
「自分の人生なんだから好きなように生きればいいでしょ」
「じゃあお前は医者になりたくてなるのかよ!?」
「そうだよ」
これには流石に押し黙る。医者の家系に生まれたからと、重圧をかけられ、雁字搦めに縛られて、苦しそうな姿を見ていたのに。
「僕が医者になりたいのってさ。どっかの誰かが転んで大泣きした時に、絆創膏を貼っただけで『もう痛くなくなった。魔法みたい』って鼻水垂らして笑ったからだよ」
「え……」
「馬鹿なこと考えてる暇があったら努力しな。どうせ譲る気はないんでしょ。君って頑固なんだから」
それだけいうと、何も言えない俺を置いて、あいつはさっさと行ってしまった。体は呆けたように動けなくて、でも、意識だけは冴えている。
激励されたのだ、とじわじわ胸に込み上げる熱を、何と表現すればいいのだろう。
「………よっしゃ、」
頬を張って立ち上がり、寂れた風景をレンズに写す。さっきと同じ風景なのに、今度はどこか、輝いているようにも見えた。
▽
「あの、それで写真を撮り始めたきっかけですが……」
「ああ、すみません。さっき話した幼馴染の影響が、やっぱり自分の中では大きかったんだと思います。花を貰ってなかったら、今の俺はいませんから」
「素敵なお話ですね。そのご友人とは、まだ繋がっていらっしゃるんでしょうか」
「いやぁ、ははっ……あれは繋がってると言ってもいいのかな」
あの叱咤激励を受けた日から一ヶ月後、誕生日に届いたのは、青い薔薇の花束だった。花言葉は「不可能」……ではなく「夢叶う」ツンデレも、ここまでくると重症だ。
「一応、連絡先は知ってるんですが、ほとんど返信はありませんね。俺が一方的に喋ってます」
「プレゼントの交換はまだ続けられているんですか?」
「あははっ、そうなんですよ。あいつも案外律儀でね。毎年毎年、ドアに掛けられない代わりに、ちゃんと郵送で届きます」
目を輝かせながら、話を聞いてくれていた記者は、ぱたりとメモを閉じて頷いた。おおかた、聞きたいことを聞き終えたのだろう。
「あ、すみません。最後にひとつだけ、記事に載せてもらってもいいですか?」
「はいっ、なんでしょう」
「……これなんですけど」
雑誌の見開きいっぱいに、大きく載せられたステルンベルギア。その左下には小さな文字。「次の誕生日まで」
背景、幼馴染殿。
いい加減、面と向かって渡してこいよ。愛の花言葉はもう沢山だ。それが唯一の望みだと、胸を張って笑ってやるから。
特筆すべきは、その贈り主が両親ではなく、幼馴染であったこと。ひと口に幼馴染と言ってはみても、別段、仲が良かったわけではない。
あいつは窓際で本にばかり齧りつき、俺はボールばかりを追いかけて、稀にちょっかいをかけたり話したりする。そんな友達よりは近いけど、親友よりは遠い関係。いや、それよりもっと希薄かもしれない。
「……何これ」
「誕生日プレゼント」
「いや、それは分かるんだけどさ」
言い淀んだのは、渡された図鑑の題名に"花言葉"とあったから。
動物図鑑でも植物図鑑でもなく、ピンポイントで花の図鑑。女の子に渡すのならまだしも、男の俺に渡すようなものではない。
「好きでしょ、花。緑化委員に立候補してたじゃん」
「あー」
……なるほど、そこからきてたのか。
思い出して、少し遠くに視線をやる。人づてに楽だという噂を聞いたから、奪われる前にと、自ら手を挙げたのには違いない。
けれど、これが案外面倒で、朝と放課後の決まった時間、担当区域に水をやらなければならないのだ。
立候補した手前、枯らしてしまうのも忍びないし、真面目にやっていた自覚はある。それゆえに、花が好きだと勘違いされたのだろう。
「気に入らなかった?」
「……っえ!? や、嬉しいよ。俺こう見えて花好きだし!」
「そう、ならよかった」
折角の好意を無下にはできない。
努めて明るく嘘を吐けば、表情の乏しい幼馴染の口角が、ほんの少しだけ上がった気がした。
夏が終わり、秋が来て、季節はどんどん巡っていく。
あっという間に次の誕生日を迎えた日。いつも通り学校に行こうとドアノブを握れば、向こう側で何かが落ちた。
「………保冷バック?」
恐る恐る確かめてみれば、それは銀色の四角い袋──いわゆる保冷バックだった。もちろん不審に思いはしたものの、好奇心には抗えない。
中を覗くと、目についたのは紫の花。何かの紋章のような、そんな不思議な見た目をしていて、思わずまじまじと見つめてしまう。
次いで袋の底にあったのは、最近人気のシャーペンと、シンプルなメモ帳。
誰の仕業かようやく分かって、けれど時間もなかったから、花だけ水に差し込むと、すぐさま家を飛び出した。
「へぇ、お前カキツバタっていうのか」
帰宅後、唯一の花瓶を引っ張り出し、紫の花をいれてみる。以前もらった図鑑によれば、この花は杜若というらしい。振り仮名がないとまず読めない。
花言葉は「幸運が訪れる」「高貴」「思慕」なんだとか。この三つの中でいえば、多分あいつは"幸運"という意味で選んだのだと思う。存外、乙女チックなやり方だ。
「まあそれはいいとして。この保冷バック、どうしよっかなァ……」
あいつのことだから、素直に受け取りはしないだろう。こうやって匿名で引っ掛けているのが何よりの証拠だ。
「俺は別に気にしねぇのに」
呟いてみても、何か変わるわけでもない。
数日かけて悩んだ末、あいつへの誕生日プレゼントと、花の代わりのスナック菓子をバックに詰めて、ドアに掛けておくことにした。本当は来月渡すつもりだったけど、そんなことで怒るような奴ではないし。
▽
それからは、保冷バックを使ったやり取りが、誕生日の恒例になっていった。
毎年入っている花は、カーネーションだったり、ガーベラだったり、スズランだったり。色も形も様々で、その度、花言葉を調べるのが宝探しみたいで何気に楽しい。
そういえば、枯れてしまうのが勿体なくて撮り始めた花の写真も、もうすぐ五枚目に差し掛かる。五年間もこんなやり取りをしているのなら、さぞ仲も深まっているだろうと思うのだが、俺たちは何ひとつ変わってない。
むしろ、別々の高校に進学した分、話すことさえ少なくなった。ようやく買ってもらったスマートフォンも、電話ひとつかかって来ず。メッセージカードの一番上に書いたのに、変なところで薄情なやつだ。
「ぅあー!」
大きな声を出しながら、ベッドの上で寝転がる。高校二年生を迎えた春。進路相談を兼ねた話し合いで、親と意見が割れていた。
昔は好きなことをやりなさいとあれだけ言っていた両親も、写真の道に進むとなれば、そう簡単には頷かない。曰く、小さなコンクールで二~三個賞を取ったくらいでは、プロになれるはずもないと。
「……そりゃあ、分かってるけどさぁ」
趣味で続ければいいじゃない。
母さんの言葉が何度も何度も甦って、思わず眉間に皺がよる。この感覚は、きっと言葉にできやしない。だからこんなにも苦しいのだ。
「…………外に行こう」
バックに帽子、それからカメラ。最低限のものだけを身につけ、逃げるように家を出た。
自分だけの鮮やかな景色を切り取って、その世界に溶けてしまえば、こんな気持ちも少しは薄れてくれるだろうと。
──カシャッ
レンズを絞り、ぼかした背景に花を添える。初夏に移り変わっていくこの季節は、穏やかな陽光も相まって、被写体探しに困らない。
今度はあの公園に行ってみようか。
ふと思い立って、子供の頃よく通っていた場所に足を運ぶ。
ライオンのマークが目印の、大きな大きな木の遊具。老朽化のせいで撤去されたとは聞いていたけど、実際目にしたその場所は、あまりに寂れて物悲しかった。
「やっぱり帰るか」
「ねぇ、」
「ひぇっ……!?」
誰にともなく呟いた途端、背後からそっと肩を叩かれる。いきなりすぎたものだから、カメラを抱いたまま跳び退り、犯罪者に声をかけられたような反応をしてしまった。
「何、その反応」
「お……っまえかよぉ~!! もう! びっくりさせんな!!」
「うるさっ」
自分から話しかけてきた癖に、なんたる言い草。不満に思いはしたものの、うるさいという部分は事実である。甘んじて受け入れてやろう。
「こんなとこで何してるの」
「写真撮ってた。……お前こそ何でここにいるんだよ。お袋さん、怒るんじゃねぇの」
「さあ、どうだろう。今頃はヒステリックに暴れてるんじゃない」
「あははっ! 流石に言うなぁ」
「自分の出来が悪いからって子供に責任を押し付けないで欲しいよね。本当に迷惑」
かろうじて残されたベンチに座り、ぽつりぽつりと話をする。久しぶりに会った幼馴染は、進学校の制服を身につけ、やけに大人びているようにも見えた。
「でも、医学部に行ければ安泰だもんな」
「は?」
つい、本当につい、喉から滑り落ちた言葉だった。親の経営する病院があって、医者になるだけの頭もあって、俺なんかとはまるで違う。将来の見えない仕事なんかに、憧れを抱いている俺なんかとは。
「……それ、本気で言ってるの」
ひときわ低いその声が、怒りを露わに伝えていた。けれど、今さら引き返すこともできなくて、ぐっと喉を詰まらせる。
「っ、だって、フォトグラファーなんて馬鹿みたいな夢見てる俺と比べたらさ……お前、立派じゃんか。羨ましいって思うだろ!」
「呆れた。高校生にもなって、まだそんなこと言ってるわけ」
やめてくれ、これ以上恥の上塗りをしたくない。心ではそう思っているはずなのに、どうにも口は止まらない。刺さる言葉は的確で、だからこそ、俺のプライドを刺激した。
「自分の人生なんだから好きなように生きればいいでしょ」
「じゃあお前は医者になりたくてなるのかよ!?」
「そうだよ」
これには流石に押し黙る。医者の家系に生まれたからと、重圧をかけられ、雁字搦めに縛られて、苦しそうな姿を見ていたのに。
「僕が医者になりたいのってさ。どっかの誰かが転んで大泣きした時に、絆創膏を貼っただけで『もう痛くなくなった。魔法みたい』って鼻水垂らして笑ったからだよ」
「え……」
「馬鹿なこと考えてる暇があったら努力しな。どうせ譲る気はないんでしょ。君って頑固なんだから」
それだけいうと、何も言えない俺を置いて、あいつはさっさと行ってしまった。体は呆けたように動けなくて、でも、意識だけは冴えている。
激励されたのだ、とじわじわ胸に込み上げる熱を、何と表現すればいいのだろう。
「………よっしゃ、」
頬を張って立ち上がり、寂れた風景をレンズに写す。さっきと同じ風景なのに、今度はどこか、輝いているようにも見えた。
▽
「あの、それで写真を撮り始めたきっかけですが……」
「ああ、すみません。さっき話した幼馴染の影響が、やっぱり自分の中では大きかったんだと思います。花を貰ってなかったら、今の俺はいませんから」
「素敵なお話ですね。そのご友人とは、まだ繋がっていらっしゃるんでしょうか」
「いやぁ、ははっ……あれは繋がってると言ってもいいのかな」
あの叱咤激励を受けた日から一ヶ月後、誕生日に届いたのは、青い薔薇の花束だった。花言葉は「不可能」……ではなく「夢叶う」ツンデレも、ここまでくると重症だ。
「一応、連絡先は知ってるんですが、ほとんど返信はありませんね。俺が一方的に喋ってます」
「プレゼントの交換はまだ続けられているんですか?」
「あははっ、そうなんですよ。あいつも案外律儀でね。毎年毎年、ドアに掛けられない代わりに、ちゃんと郵送で届きます」
目を輝かせながら、話を聞いてくれていた記者は、ぱたりとメモを閉じて頷いた。おおかた、聞きたいことを聞き終えたのだろう。
「あ、すみません。最後にひとつだけ、記事に載せてもらってもいいですか?」
「はいっ、なんでしょう」
「……これなんですけど」
雑誌の見開きいっぱいに、大きく載せられたステルンベルギア。その左下には小さな文字。「次の誕生日まで」
背景、幼馴染殿。
いい加減、面と向かって渡してこいよ。愛の花言葉はもう沢山だ。それが唯一の望みだと、胸を張って笑ってやるから。
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