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小学校ー幼馴染と親友ー
四話
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「さっちゃん、いる?」
「うん。……ねぇ、こーちゃん。ここどこ?」
「わからない……。あのおじさんは?」
電気すらついていない部屋の中、窓から差し込む、僅かな光だけが頼りだった。
心細さを埋めるように身を寄せ合っていると、ようやく薄暗さにも目が慣れてくる。
……といっても、虎徹と朔斗が寝かされていたベッド以外には何一つない、実に殺風景な部屋だ。
目の前には建て付けの悪い扉がぽつんとあって、その隙間からオレンジ色の明かりが漏れている。
(良かった、向こうに母さんたちがいるんだ)
まだ怖がっているさっちゃんの腕を引いて、眩しさに目を細めながら光の方へ進んでいく。
リビングのような少し広い空間に出ると、そこにはあのおじさんがいた。
背もたれのある椅子に座って、スマホを眺めていた男は、こちらに気づくと笑みを浮かべながら近寄ってくる。
「おや、ようやく起きたんだね」
「ねぇ…ここどこ? 母さんたちは?」
「ここはおじさんの秘密基地だよ」
「ひみつきち?」
「そう、君たちが可愛いから特別に招待してあげたんだよ」
「でも俺、家に帰りたいよ」
さっちゃんは、怯えたように背中に張り付いて離れない。震える手を握りしめながら、家に帰りたい、帰らせてほしいとお願いした。
おじさんがその言葉に頷いた時は、心底ほっとしてへたり込みそうになったくらいだ。
「帰りたいなら君だけ帰ればいい。でも、もう一人の子はダメだよ」
「え、なんで……? なんでさっちゃんは帰っちゃダメなの?」
「なんでって……はぁ、めんどくさい。だから最初からあの子だけを誘拐したかったのに。大体いっつも側に引っ付いて目障りなんだよ。残して騒がれても面倒だったから連れてきたけどやっぱりあの時……」
ぶつぶつと呟き始めた男が怖くなって一歩後ずさるが、男はそのまま隣にある別の扉に消えて行った。
中からはゴソゴソと何かを漁るような音が聞こえてきて、不安をより一層掻き立てる。
こんなところに置いていけない、さっちゃんは俺が守らなきゃ。
繋いだ左手をきつく握りしめ、小さな手を引いて走りだした。なるべく早く、男が気づかないうちに遠くに逃げないと。
ドクンドクンと破裂しそうなほど大きな音を鳴らす心臓がうるさい。
寝ていた部屋の前を通り過ぎ、この家の入り口であろう扉に手をかける。ドアノブなんてものはついておらず、不用心なことに、押せば簡単に開いてしまった。
広がる先は真っ暗な森の中。薄らとした月明かりはあるものの、酷く不気味な光景に足が竦む。
「おい待て!!!」
けれど、後ろから聞こえてきた声にハッとして、全力で走り出す。
靴を履いたままだったのは不幸中の幸いと言えるだろう。落ち葉に足を取られながらも、小枝や石で血を流すことはなかった。
「ハァッハッ…ッさっ…ちゃ、大丈夫か…ッ」
「ハァッ…う、ん…」
息が上がって、上手く呼吸ができない。全力で走り続けているから脇腹だって痛いし、恐怖で手も足も震えてる。
いくら普段から運動しているとはいえ、所詮は小学校低学年。大の大人と比べると、足の長さも走る速さも段違いだ。……だからこそ、ほんの少しでも止まるわけには行かなかった。
必死に走って走り続けて、既に体力は限界だ。
もうダメかもしれない。そう思った瞬間、パッと視界が開けて月明かりに照らされる。――森を抜けたのだ。
それと同時に足を滑らせ、俺たちは急斜面から転がり落ちた。
「……ッさっちゃん!」
離れないようにと、咄嗟に腕を伸ばして小さな体を抱きしめる。頭に強い痛みが走って、俺はそのまま闇へと意識を手放した。
「うん。……ねぇ、こーちゃん。ここどこ?」
「わからない……。あのおじさんは?」
電気すらついていない部屋の中、窓から差し込む、僅かな光だけが頼りだった。
心細さを埋めるように身を寄せ合っていると、ようやく薄暗さにも目が慣れてくる。
……といっても、虎徹と朔斗が寝かされていたベッド以外には何一つない、実に殺風景な部屋だ。
目の前には建て付けの悪い扉がぽつんとあって、その隙間からオレンジ色の明かりが漏れている。
(良かった、向こうに母さんたちがいるんだ)
まだ怖がっているさっちゃんの腕を引いて、眩しさに目を細めながら光の方へ進んでいく。
リビングのような少し広い空間に出ると、そこにはあのおじさんがいた。
背もたれのある椅子に座って、スマホを眺めていた男は、こちらに気づくと笑みを浮かべながら近寄ってくる。
「おや、ようやく起きたんだね」
「ねぇ…ここどこ? 母さんたちは?」
「ここはおじさんの秘密基地だよ」
「ひみつきち?」
「そう、君たちが可愛いから特別に招待してあげたんだよ」
「でも俺、家に帰りたいよ」
さっちゃんは、怯えたように背中に張り付いて離れない。震える手を握りしめながら、家に帰りたい、帰らせてほしいとお願いした。
おじさんがその言葉に頷いた時は、心底ほっとしてへたり込みそうになったくらいだ。
「帰りたいなら君だけ帰ればいい。でも、もう一人の子はダメだよ」
「え、なんで……? なんでさっちゃんは帰っちゃダメなの?」
「なんでって……はぁ、めんどくさい。だから最初からあの子だけを誘拐したかったのに。大体いっつも側に引っ付いて目障りなんだよ。残して騒がれても面倒だったから連れてきたけどやっぱりあの時……」
ぶつぶつと呟き始めた男が怖くなって一歩後ずさるが、男はそのまま隣にある別の扉に消えて行った。
中からはゴソゴソと何かを漁るような音が聞こえてきて、不安をより一層掻き立てる。
こんなところに置いていけない、さっちゃんは俺が守らなきゃ。
繋いだ左手をきつく握りしめ、小さな手を引いて走りだした。なるべく早く、男が気づかないうちに遠くに逃げないと。
ドクンドクンと破裂しそうなほど大きな音を鳴らす心臓がうるさい。
寝ていた部屋の前を通り過ぎ、この家の入り口であろう扉に手をかける。ドアノブなんてものはついておらず、不用心なことに、押せば簡単に開いてしまった。
広がる先は真っ暗な森の中。薄らとした月明かりはあるものの、酷く不気味な光景に足が竦む。
「おい待て!!!」
けれど、後ろから聞こえてきた声にハッとして、全力で走り出す。
靴を履いたままだったのは不幸中の幸いと言えるだろう。落ち葉に足を取られながらも、小枝や石で血を流すことはなかった。
「ハァッハッ…ッさっ…ちゃ、大丈夫か…ッ」
「ハァッ…う、ん…」
息が上がって、上手く呼吸ができない。全力で走り続けているから脇腹だって痛いし、恐怖で手も足も震えてる。
いくら普段から運動しているとはいえ、所詮は小学校低学年。大の大人と比べると、足の長さも走る速さも段違いだ。……だからこそ、ほんの少しでも止まるわけには行かなかった。
必死に走って走り続けて、既に体力は限界だ。
もうダメかもしれない。そう思った瞬間、パッと視界が開けて月明かりに照らされる。――森を抜けたのだ。
それと同時に足を滑らせ、俺たちは急斜面から転がり落ちた。
「……ッさっちゃん!」
離れないようにと、咄嗟に腕を伸ばして小さな体を抱きしめる。頭に強い痛みが走って、俺はそのまま闇へと意識を手放した。
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