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第二章 お出かけ

5話

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 一緒に暮らし始めてしばらく経った頃、色々と足りないものが出始めた。

 もともとは一人暮らしだったから、二人になれば、その分足りないものが出る。その最たるものが"食糧"だった。

 セラシェル自身はそんなに食べる方ではないけれど、ヴィラは成長期ということもあって、鍋の半分くらいはぺろりと食べる。
 料理を気に入ってくれたのは嬉しいけれど、そろそろ食糧が底をつきそうなのだ。……まぁ、怪我もほとんど完治したことだし、そろそろ良い頃合いなのかもしれない。

 朝食のサンドイッチを半分食べ終わったところで、さもこの瞬間に思い出したかのように口を開く。

「そういえば、今日は村に行こうと思うんだ」
「この辺りに村なんてあるのか」
「あるよ! 歩いて半刻とちょっとくらいかな。ヴィラも来る? 家でお留守番しててもいいけど」
「行く」
「わかった。じゃあこれ食べ終わったら、準備して早めに出ようか」

 即答したことを少し意外に思いつつ、残ったサンドイッチを水で流し込んだ。

 多めに作っておいた石鹸、飲み薬、塗り薬、薬草、あとはお金。うん、これで忘れ物はないかな。コートに袖を通し、履き慣れたブーツの紐をしっかりと結ぶ。
 荷物が詰まった鞄が想像以上に重くて思わずよろめきかけたけど、ヴィラが咄嗟に腕を掴んで支えてくれたので事なきを得た。

 大きく息を吸い込むと、少し冷たい爽やかな空気が胸いっぱいに広がる。今日は雲ひとつない快晴だ。ヴィラはコートの上からさらにフード付きのマントを羽織っていた。これは彼が元々身につけていたものなのだが、着ているところを見るのはあの日以来だ。



 村まで歩く間、ヴィラと色んなことを話した。といっても大半は僕が一方的に話しかけてるだけなんだけどね。

 僕のことを拾ってくれたお爺さんが亡くなってからは、ずっと一人で暮らしてきた。誰にも縛られない自由気ままな生活は好きだったけど、ヴィラと一緒にいると結構楽しい。
 捻くれてるし無愛想だけど、意外と素直で可愛いところもあるんだと最近わかってきた。もし弟がいたらこんな感じなのだろうか。


 ーーそうこうしているうちに、森を抜けて一本の道に出る。あとは簡単、道なりに進めば良いだけだ。僕にとっては歩き慣れたものだけど、ヴィラがバテいたら、先輩風を吹かせつつ休憩を挟んでもいいかもしれない。

 そう思ってチラリと横目で確認してみたところ、涼しい顔で息一つ乱していないようだった。くそぅ、綺麗な顔してるくせに。自分でも訳の分からない悪態を心で吐いて、しょんぼり前に向き直る。いつの間にか、村はもう眼前に迫っていた。

「いらっしゃーい! 安くしとくよー!」
「さぁ買った買った! 新鮮な魚はどうだい」
「奥さん、ちょっと寄っていきなよ! この果物中々入らないレアものだよ」

 足を踏み入れた途端あちらこちらから聞こえてくる声に、思わず笑みを漏らす。随分久しぶりだけど、ここは相変わらず賑やかだ。

 ひとまず買い物は後でするとして、とりあえず薬と石鹸を売りにいきたい。村の南西にある雑貨屋と、南東にある診療所が目標であると、地図を指し示しながら説明する。ヴィラはいつの間にか、フードを深く被っていた。綺麗な髪が見れなくて少し残念だ。

「こんにちは~」
「あら、セラシェル君じゃない! 珍しい」
「お久しぶりです、マクナさん」

 重い木の扉を押すと、チリンチリンと鈴の音が鳴った。カウンターの奥に座っていた人物が顔を上げてニコリと笑う。彼女はマクナ、この村で一番大きな雑貨屋の店主であり、昔からの顔馴染みの1人だ。

「本当に久しぶりね、元気そうで良かった。……あら、もしかして今日は石鹸を持ってきてくれたの?」
「あ、はい。そんなに数はないんですけど」
「セラシェル君の石鹸は大人気だから嬉しいわぁ! おいくつ?」
「えーと、三十四個です」
「オーケー。……これでどうかしら?」

 マクナさんは近くにあった算盤を引っ掴むと、素早い指使いで叩き始めた。提示された金額に頷けば、早速取引成立だ。

 受け取ったお金を皮袋に入れて鞄の奥に仕舞うと、店内を物珍しそうに眺めているヴィラに近づいた。どうやら今はガラス細工のアクセサリーを見ていたらしい。黒地の布の上には色とりどりの商品が並べられており、どれも見事なものだった。

「あ、これ……なんか君に似てる」

 深い紺色のガラスの中に白い粒が散らばって、まるで星屑みたいだった。イヤリングだと思うけど、片側だけしかないのだろうか。きょろきょろと対となるアクセサリーを探していると、後ろから声をかけられる。

「あ~それねぇ。偶然出来たものだから同じ模様が作れなかったみたい。でも一点ものだし、綺麗でしょう? 片方だけしかないからその分安くしとくわよ」
「──買います」
「はい、まいど~」

 気づいたら口が勝手に動いていた。決して懐に余裕があるわけではないけれど、普段散財しない分多少の貯蓄はあるから問題ないだろう。代金を支払っていると、耳元でこっそり囁かれる。

「これ、あの子へのプレゼント?」
「へ……。あ、う、はい。一応、そのつもりで……」
「任せて! 綺麗にラッピングしとくから」

 華麗にウインクを決めたマクナさんに、小さな包みを手渡される。それを鞄の一番奥に仕舞い込み、最後にもう一度お礼を言って、ヴィラと一緒に店を出た。
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