迷想画廊

マサキ エム

文字の大きさ
上 下
30 / 39

二十九 救出

しおりを挟む
 防火用水槽側の金網の中には入れたが、無流さんが声をかけても、反応はない。
 壁に行き着くまでの通路が狭いだけで、空き家側の壁の前は金網から三メートルほど離れていて、蔦や雑草が繁っている。
 奥まったところにいると音が聞こえないのかもしれない。
 捜査員は地道に工具で金網を切り、入口を作っているが、もし小出がいるならできるだけ早く救出しなければいけない。
 警官に細い通路を通れる適任者がおらず、懐中電灯を持って和美と八重さんが確かめに行くことになった。
 僕は病み上がりなので、とりあえず猫を布でくるんで抱いている。
 猫は落ち着いていて、賢そうだ。僕たちと一緒に、和美たちの動きを見守っている。
 和美が蔦を取り除くと、正面ではなく下方に穴が続いているのがわかる。
「階段がある。ねぇ兄貴これ、瀬戸さんが探してた秘密の地下室じゃない?当たってたって言ってあげなきゃ。変な虫とかいないといいなぁ」
「布袋充が入れないんなら、用途が違うな。気を付けろよ」
「坂上くん、なんか禍々しい気が出てたりしない?大丈夫?」
 金網越しに八重さんが振り返る。
「多分大丈夫だと思いますけど……違ったらごめんなさい」
「飯田和美、入りまーす」
 和美は全然怖がっていない。
 微かな金属音がして、判別はできないが、声らしき音が聞こえる。
「聴こえるところで中継するね」

 八重さんが入り、しばらくしてひょっこりと顔を出した。
「小出くん、奥にいたみたい!毛布か何かくれって言ってる!」
「用意してある」
 毛布を受け取り奥に入った八重さんが再び上がってきたのに続いて、和美に支えられながら、小出が出てきた。
 毛布にくるまれた小出は、唇が真っ青だ。
「監禁されたりはしてなかったみたいだけど、冷えきってるし、具合悪そう」
 ちょうど金網を切断し終え、捜査員たちは防空壕の鑑識作業に向かう。無流さんは和美から小出を託され、毛布ごと抱き上げた。
「車で高梨先生のところに運ぼう。坂上くんもそのまま、猫を頼む」
 無流さんは小出と僕を後部座席に乗せ、助手席に座った。
「小出、大丈夫か」
 付き添いながら、思わず声をかける。
「――来てくれると思ってた。ありがとう」
 小出はそう言って、力なく笑った。
「無流さん、本部からの連絡です。盗まれた猫は全て、昨夜の内に飼い主の元に返されたそうです」
 パトカーの警官から無流さんへの報告を聞き、小出は微かに、長いため息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

学ランを脱がさないで

ルルオカ
BL
学ランフェチで、憧れの秘密の花園、清美男子校にいくことを夢見ていた主人公。夢破れて、意気消沈しているところに、思いがけない奇跡的な出会いがあって・・・? 懐古趣味の父親の影響を受けて育った、学ランフェチの男子高生が、一線を越えそうになりつつ、学ランフェチ青春を謳歌する話。ややコメディチッなBL短編です。R15。 「『学ランを脱がせて』と恋ははじまらない」は不良の一人の視点になります。 おまけの小説「学ランを脱がないで」を追加しました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

処理中です...