2 / 39
一 眼帯
しおりを挟む
僕、坂上啓の朝の日課は、亡くなった祖母の古びた鏡台の前に座り、右目に白い眼帯を着けることだ。
今朝は色とりどりの魚の群れが、空中を浮遊していた。
「お祖父さま、おはようございます」
居間では、ほとんど白くなった髪を後ろに流し、書道家らしい着流しをまとった祖父、坂上標文が新聞を読んでいる。
昔から物静かで無表情だが、祖母が亡くなってからは心なしか寂しそうにも見える。祖父は身の回りのことは自分でもできるが、両親の勧めで住み込みのお手伝いさんを雇っているのは、正解だと思う。
一緒に暮らし始めてわかったが、祖父は両親の言うような、変わり者でもなく、頑固で融通がきかない人でもない。
必要な時は必ず手を差し伸べてくれる。
祖父には弟子が数人いる。僕はそう認識しているが、何人かは祖父を慕って通うだけの人たちらしい。
彼らと同じで、僕と祖父は、合うのだと思う。
僕の両親の方が、この居心地のいい集団の中ではきっと、異質なのだ。
そんなことに少しずつ気付かされる。
愛情とは別に、相性というものがあるのだと。
「おはよう、啓」
祖父の読む、『あかつき日報』の一面は今朝も、身体の一部を切り取るという連続傷害事件を報じていた。
今度は左腕
同一犯の可能性大
切り取り魔か
そんな文字が見える。
最初はただの通り魔だと思われていたが、体の一部を切り取られる共通点や、予想される凶器の形状から、同一犯による計画的な連続事件だと特定された。
死者は出ていないが、重傷者の一人が、生死の境を彷徨っているという話だ。
「今日も先生の所に寄るので、少し遅くなります」
祖父は新聞から目を離して、僕の方に少しだけ体を向けた。
「ああ。気を付けて。今度の被害者は、お前の通学路で襲われてる」
「はい。九時半頃には戻ると思います」
「そうか」
「行って来ます」
祖父は頷きながら、新聞に目を戻した。
今朝は色とりどりの魚の群れが、空中を浮遊していた。
「お祖父さま、おはようございます」
居間では、ほとんど白くなった髪を後ろに流し、書道家らしい着流しをまとった祖父、坂上標文が新聞を読んでいる。
昔から物静かで無表情だが、祖母が亡くなってからは心なしか寂しそうにも見える。祖父は身の回りのことは自分でもできるが、両親の勧めで住み込みのお手伝いさんを雇っているのは、正解だと思う。
一緒に暮らし始めてわかったが、祖父は両親の言うような、変わり者でもなく、頑固で融通がきかない人でもない。
必要な時は必ず手を差し伸べてくれる。
祖父には弟子が数人いる。僕はそう認識しているが、何人かは祖父を慕って通うだけの人たちらしい。
彼らと同じで、僕と祖父は、合うのだと思う。
僕の両親の方が、この居心地のいい集団の中ではきっと、異質なのだ。
そんなことに少しずつ気付かされる。
愛情とは別に、相性というものがあるのだと。
「おはよう、啓」
祖父の読む、『あかつき日報』の一面は今朝も、身体の一部を切り取るという連続傷害事件を報じていた。
今度は左腕
同一犯の可能性大
切り取り魔か
そんな文字が見える。
最初はただの通り魔だと思われていたが、体の一部を切り取られる共通点や、予想される凶器の形状から、同一犯による計画的な連続事件だと特定された。
死者は出ていないが、重傷者の一人が、生死の境を彷徨っているという話だ。
「今日も先生の所に寄るので、少し遅くなります」
祖父は新聞から目を離して、僕の方に少しだけ体を向けた。
「ああ。気を付けて。今度の被害者は、お前の通学路で襲われてる」
「はい。九時半頃には戻ると思います」
「そうか」
「行って来ます」
祖父は頷きながら、新聞に目を戻した。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
パパはアイドル
RU
BL
人気ロックシンガー ”東雲柊一” の息子である桃太郎こと桃ちゃんは、日々を勝手な親父に振り回されている。
親父の知り合いである中師氏の義息の敬一は、そんな桃太郎の心のオアシスであり、尊敬する兄のような存在だった。
敬一を羨望する桃太郎の、初恋の物語。
◎注意1◎
こちらの作品は'04〜'12まで運営していた、個人サイト「Teddy Boy」にて公開していたものです。
時代背景などが当時の物なので、内容が時代錯誤だったり、常識が昭和だったりします。
◎注意2◎
当方の作品は(登場人物の姓名を考えるのが面倒という雑な理由により)スターシステムを採用しています。
同姓同名の人物が他作品(無印に掲載中の「MAESTRO-K!」など)にも登場しますが、シリーズや特別な説明が無い限り全くの別人として扱っています。
上記、あしからずご了承の上で本文をお楽しみください。
◎備考◎
この物語は、複数のサイトに投稿しています。
小説家になろう
https://mypage.syosetu.com/1512762/
アルファポリス
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/382808740
エブリスタ
https://estar.jp/users/156299793
カクヨム
https://kakuyomu.jp/users/metalhamaguri
ノベルアップ+
https://novelup.plus/user/546228221/profile
NOVEL DAYS
https://novel.daysneo.com/author/RU_metalhamaguri/
Fujossy
https://fujossy.jp/users/b8bd046026b516/mine
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
0と1の告白
須藤正臣
BL
高校1年生の夏。
僕、高梨弘樹は生まれて初めてのラブレターらしきものを貰った。
これは本当にラブレターなんだろうか?
side K
誰が何と言おうと、あれはラブレターです。
小説内に表示されたQRコードを読むためには、スマホ等を利用する必要があります。
てがみを開くドキドキ感を主人公と共に体験頂ければ幸です。
※ QRコードを用いて閲覧する外部リンクに記載された内容は、投稿日当日もしくは翌日には内容を[QRの先]等のタイトルをつけて公開予定です。
QRコードを読むシーンではスマホを利用するか、http://qrcode.red/ といったQRコード読み取りサイトを利用してください。
デジタルツールを利用したじれじれドキドキな恋愛模様を描ければと思っています。
この話は小説家になろうにも投稿しています。
https://ncode.syosetu.com/n1957gk/
が、アルファポリス先行で。
表紙は以下のページより拝借加工しました
https://www.pixiv.net/artworks/67053150
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる