上 下
3 / 60

3.訓練所にて推しに出会う

しおりを挟む
私は動きやすい服装に着替えて騎士の訓練所へ向かった。途中、城内の風景が目に入るが、心の中は本当に動けるのかどうか不安でいっぱいだった。



訓練所に到着すると、そこでは数人の騎士たちが剣術の練習をしていた。彼らは私の姿を見て驚き、軽く敬礼をする。



「王女殿下、何かご用でしょうか?」訓練の指導官が近づいてきた。



「訓練に参加させていただきたいの。私の実力を確かめるために、少し剣術の訓練がしたいわ。」



指導官は少し驚いた表情を見せたが、すぐに頷いた。



「承知しました。では、お供いたします。」



私は指導官と共に訓練用の剣を取り、訓練場の中央に立った。周囲の騎士たちも訓練を中断し、興味津々に見守っている。



「では、始めましょう。」指導官が構えを取った。



私は深呼吸をし、ルナティアナの体の記憶を頼りに構えを取った。指導官が攻撃を仕掛けてくると、驚くほど自然に体が動き、彼の攻撃を防ぎ、反撃を加えることができた。



――すごい…。



私は心の中で驚きと喜びを感じた。ルナティアナの体の能力がしっかりと発揮できている。



訓練が進むにつれて、私の動きはますます冴え、指導官との激しいやり取りが続いた。剣が交わる音が響き渡り、汗が流れる。私の動きは滑らかで、的確に指導官の攻撃を受け流し、反撃の機会を逃さなかった。



最終的に、私は指導官を圧倒し、彼の剣をはじき飛ばした。訓練場にいる騎士たちも驚嘆の声を上げた。



「王女殿下、素晴らしい腕前です。」指導官が息を切らしながら言った。「このような剣技をお持ちとは、全く予想外でした。」



「ありがとうございます。」私は軽く微笑みながら答えた。「訓練は役に立ちました。皆さんも、日々の鍛錬を怠らずに続けてください。」



――ふっふっふっ。それっぽいこと言えてるわね。



周囲の騎士たちはまだ驚きを隠せない様子で私を見つめていた。彼らの中には、以前のルナティアナの傲慢で我儘な態度を知っている者もいた。そのため、私の礼儀正しい態度と剣技に対する真剣な姿勢に戸惑っているようだった。



「殿下、もし差し支えなければ、もう一度お手合わせ願えますか?」一人の若い騎士が勇気を出して声をかけてきた。



「もちろん、喜んで。」私は頷き、再び剣を構えた。



若い騎士は緊張しながらも真剣な表情で立ち向かってきた。彼の攻撃を受け流し、適切なタイミングで反撃を加えることで、私は彼の技術を高める手助けをした。



訓練が終わった後、若い騎士は息を切らしながらも満足げに微笑んだ。

「ありがとうございます、殿下。おかげで自分の弱点がよく分かりました。」



「よ、良かったわ。く、訓練を続ければ、もっと強くなれるはずよ。」私は励ましの言葉をかけた。



――本当はよくわかってないけれど…イメージアップの為よ!!



訓練場の騎士たちは私の態度に感動し、以前のルナティアナとの違いに戸惑いながらも、その変化を歓迎するかのように感じられた。彼らの視線からは、私に対する信頼と尊敬が少しずつ芽生えているのが分かった。



その日は夜になるまで騎士たちと訓練に励んだ。剣を交えるたびに体が馴染み、動きが滑らかになっていくのを感じた。騎士たちも次第に私に打ち解け、訓練は和やかな雰囲気で進んだ。



完全に夜になり、月明かりが訓練場を照らす頃、訓練場の扉が開き、銀髪の長い髪を美しく束ね、チェーンのついた眼鏡をかけた高身長の美しい男性が現れた。彼の存在感が場の空気を一変させた。そう、この人こそ最推しの悪役宰相バルサザール・クロウリーだ。



だが、彼の顔には怒りの色が浮かんでいた。



――本物のバルサザールだぁ!!!って、なんか怒ってない?怒ってる…よね?



彼は冷たい視線を私に向け、鋭い声で言った。



「ルナティアナ王女殿下。会議にも来ない、昼食の時間になっても現れない、晩餐の時間になっても現れない。いったいどこで何をしているのかと思えば…」



彼の言葉に訓練場の騎士たちも緊張の色を見せた。



――やっぱり怒ってるーーー!!そっか、私会議とか出てるんだ…。スケジュールとか思い出しておくべきだった…。



私も一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、バルサザールに向き直った。



「バルサザール、訓練に参加していたのです。王女としての責務を果たすために、自分自身の力を確かめることが必要でした。」



彼は目を細め、私を見下ろした。



「あなたのその急な行動が、どれほど多くの者を困惑させたか理解していますか?」



私は深呼吸をし、彼の視線を真っ直ぐに受け止めた。



「確かに、私の行動は突然だったかもしれません。しかし、これからの私にはこのような訓練が必要なのです。あなたも私が成長し、王国のために強くなることを望んでいるのでは?」



バルサザールはしばらく沈黙した後、冷静な声で言った。

「その意図は理解しました。しかし、次からは事前に知らせてください。王女の身の安全は最優先事項です。」



私は軽く頷いた。

「えぇ、わかったわ。心配かけて申し訳なかったわ。」



彼は少し表情を和らげたが、その眼光はまだ鋭い。

「いいでしょう。それでは、今後の予定について話し合うために、一緒に戻りましょう。」



「わかりました。」



私は彼の言葉に従い、訓練場を後にした。



バルサザールの背中を見つめながら、私の頭の中は彼に抱きつきたくて仕方がなかった。あぁ…日夜書類と格闘している彼だが、しっかりと鍛えられていそうな体つきが服の上から見てもわかった。ぬ、脱がしたい。なんてこと考えてるの私!!破廉恥だわ!



そんなアホなことを考えていると、突然バルサザールが足を止めたので、ぶつかってしまった。



「わぶっ!!」



「…。」



「あ、ごめんなさい。」



バルサザールは私を冷静に見下ろし、少しの間沈黙が流れた後、静かに口を開いた。



「王女殿下。全くお食事をとられていないようでしたが、何か用意させましょうか?」



私は彼の言葉に驚き、そしてすぐに頷いた。「そうね、確かに少しお腹が空いたわ。」



「では、執務室に用意させましょう。」彼は言って、再び歩き始めた。



バルサザールの後を追いながら、私は彼の気遣いに感謝しつつ、内心の動揺を抑えた。執務室に着くと、彼はすぐに召使いに指示を出し、食事の準備をさせた。



執務室の広い机には書類が山積みになっており、バルサザールの忙しさが一目で分かる。彼はその机の一角を片付け、私に座るよう促した。



「お待ちください。すぐに食事が届きます。」



「ありがとう、バルサザール。本当に助かるわ。」



彼は静かに頷き、再び書類に目を通し始めた。その姿を見つめながら、私は彼の背中に再び目を奪われた。頼もしく、強い意志を感じさせる彼の姿に、心がときめくのを感じた。



しかし、今は彼の信頼を得るための重要な時期だ。感情に流されず、冷静に行動しなければならない。



「バルサザール、私の明日のスケジュールはどうなってるかわかる?」



彼は一瞬驚いたような表情を見せ、「は?」と問い返した。



私は少し焦りながらも、言い訳を考えた。「あ、あの。寝てたらベッドから落ちてて、記憶が少し曖昧なの・・・。」



バルサザールは私をじっと見つめ、少しの間沈黙が流れた後、再び冷静な声で言った。



「なるほど。では、スケジュールを確認いたしましょう。」



彼は机の引き出しからスケジュール帳を取り出し、ページをめくり始めた。



「明日は午前中に王宮内の会議があり、午後は外部の視察が予定されています。また、夕方には晩餐会が予定されています。」



「ありがとう。確認してくれて助かるわ。」私は感謝の意を込めて微笑んだ。



その後、少し困った表情を浮かべながら続けた。



「実は、頭の調子があまり良くなくて…スケジュールを一旦白紙に戻してもらえないかしら?」



バルサザールは私の言葉を聞いて少し考え込んだが、すぐに頷いた。



「分かりました、殿下。今日の訓練やお食事を全くとられないといった数々の奇行を考えると、そのほうが良いかもしれません。明日の予定を全てキャンセルして、殿下の体調を整えることを優先しましょう。」



「助かるわ、バルサザール。本当にありがとう。」



「どういたしまして。ご自身の健康が最優先ですから。何か他にご要望があれば、いつでもお知らせください。」



バルサザールは手際よくスケジュールを整理し直し、全ての予定をキャンセルする手続きを進めた。その間、私は彼の冷静で効率的な対応に感謝しながら、彼の信頼を得るためにどのように接すれば良いかを考えていた。



「それでは、王女殿下。少しお休みになって、体調を整えてください。必要であれば、私が医師を手配します。」



「ありがとう。でも、今は少し休めば大丈夫だと思うわ。」



彼は頷き、私に優しい笑みを浮かべた。



「わかりました。どうぞごゆっくりお休みください。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。

甘寧
恋愛
断罪の最中に前世の記憶が蘇ったベルベット。 ここは乙女ゲームの世界で自分がまさに悪役令嬢の立場で、ヒロインは王子ルートを攻略し、無事に断罪まで来た所だと分かった。ベルベットは大人しく断罪を受け入れ国外追放に。 ──……だが、追放先で攻略対象者である教皇のロジェを拾い、更にはもう一人の対象者である騎士団長のジェフリーまでがことある事にベルベットの元を訪れてくるようになる。 ゲームからは完全に外れたはずなのに、悪役令嬢と言うフラグが今だに存在している気がして仕方がないベルベットは、平穏な第二の人生の為に何とかロジェとジェフリーと関わりを持たないように逃げまくるベルベット。 しかし、その行動が裏目に出てロジェとジェフリーの執着が増していく。 そんな折、何者かがヒロインである聖女を使いベルベットの命を狙っていることが分かる。そして、このゲームには隠された裏設定がある事も分かり…… 独占欲の強い二人に振り回されるベルベットの結末はいかに? ※完全に作者の趣味です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

ゲーム世界といえど、現実は厳しい

饕餮
恋愛
結婚間近に病を得て、その病気で亡くなった主人公。 家族が嘆くだろうなあ……と心配しながらも、好きだった人とも結ばれることもなく、この世を去った。 そして転生した先は、友人に勧められてはまったとあるゲーム。いわゆる〝乙女ゲーム〟の世界観を持つところだった。 ゲームの名前は憶えていないが、登場人物や世界観を覚えていたのが運の尽き。 主人公は悪役令嬢ポジションだったのだ。 「あら……?名前は悪役令嬢ですけれど、いろいろと違いますわね……」 ふとした拍子と高熱に魘されて見た夢で思い出した、自分の前世。それと当時に思い出した、乙女ゲームの内容。 だが、その内容は現実とはかなりゲームとかけ離れていて……。 悪役令嬢の名前を持つ主人公が悪役にならず、山も谷もオチもなく、幸せに暮らす話。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。 十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。 途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。 それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。 命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。 孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます! ※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。

処理中です...