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30.デートの後に見える本当の彼

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《やっちまったぜ……二回目。》

サクレティアはベッドの中でぼんやりと考えながら、昨夜の出来事を思い返していた。しかし、約束通り、クレノースを起こし、二人は一日を始めることにした。

そんなサクレティアの様子を、クレノースはしっかりと観察していた。そして、ついにサクレティアが本日7回目のため息をついたその時、クレノースは何も言わず彼女の手を引っ張り、馬車に向かって引きずっていった。

「ちょ、ちょっとクレノ?」サクレティアは驚いて声を上げたが、クレノースは振り返って優しく微笑んだ。

「たまにはデートに出かけませんか?サクレティア様を崇愛するあまり、僕ばかりが頂いていることに気づきました。ですから、今日はサクレティア様が望む形でデートをしましょう。」

「私が望む形?」サクレティアは少し驚きながら聞き返した。

「そうだよ、サク。」クレノースは優しい声で答え、再び彼女の手を引いた。「さぁ、行こう。」

その言葉に、サクレティアはドキリと胸を高鳴らせた。今までのクレノースの崇拝じみた態度とは違い、どこか新鮮で、少しドキドキするような感覚が彼女の胸に湧いてきた。

馬車はゆっくりと走り出した。

しばらく、馬車が止まり、サクレティアが外を見ると、そこはバレンティル領の市場だった。彼女は驚いた表情を浮かべ、その活気に圧倒されていた。数年前に彼女が最初に訪れたときの記憶とは、まるで別の場所のように栄えていたのだ。

「驚いたか?」クレノースが優しい声で話しかける。「君が最初に視察した頃に比べると、随分変わっただろ?」

サクレティアは頷きながら、市場の賑わいを見渡した。「うん……びっくりした。本当にここまで変わるなんて。」

「君が変えてくれたんだよ、サク。」クレノースは微笑みながら続けた。「俺は正直、最低限を保てればいいと思ってただけだった。道を整えて、貿易を促進し、人々が安心して暮らせる場所にするなんて、考えたこともなかったんだ。でも君が、こんなにバレンティルを豊かにしてくれたんだ。」

サクレティアはクレノースの言葉を聞きながら、ほんの少し誇らしさを感じた。彼女が公爵領の発展に貢献したことを、こうして実際に目にすることができたのだ。

「でも、私一人の力じゃないわ。」サクレティアは控えめに言った。「皆が協力してくれたおかげよ。」

クレノースは微笑みながら、「君のそういうところが好きだ。」と静かに言い、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。その微笑みに、サクレティアは思わず顔を赤らめ、胸が少し高鳴るのを感じた。

《ほんとに、同一人物!?》心の中でそう叫びながら、彼女は照れ隠しに視線をそらした。今目の前にいるのは、あの狂気じみた崇拝モードのクレノではなく、まるで別人のように優しく穏やかなクレノースだった。

二人は市場を歩きながらアクセサリーショップに立ち寄った。クレノースはサクレティアにジュエリーを選び、彼女にぴったりのネックレスをプレゼントした。その後、二人はマダムティーホップの店にも立ち寄り、サクレティアがドレスを何着か選び、クレノースも彼の服を何着かサクレティアに選ばせた。店内の試着では、彼の洗練された姿にサクレティアもつい見とれてしまう。

ディナータイムになると、二人は落ち着いたレストランでゆっくりと食事を楽しんだ。クレノースは食事中も崇拝の態度を見せることなく、穏やかで落ち着いた表情を見せていた。

その態度に、サクレティアはふと心がトキメいている自分に気づいた。クレノースが崇拝モードではないとき、彼の自然な優しさや温かさが際立つ。それが新鮮で、彼のことをもっと知りたいと思わせる。しかし、同時にサクレティアはある違和感を感じ始めた。

《このクレノース……確かに素敵だけど、どこか違う……?》

サクレティアは次第に気づいてしまう。この穏やかなクレノースには、彼の本当の姿が隠れているのではないか、と。もしかすると、彼の「崇拝モード」の中にこそ、彼の真の感情が隠されているのでは……?


帰りの馬車の中、サクレティアは窓の外を眺めながら、ふとクレノースに向かって言った。

「クレノ、もう元に戻っていいわよ。」

その言葉を聞いた瞬間、クレノースは一瞬ハッとした表情を見せたが、すぐに穏やかに微笑み、「はい、ありがとうございます。サクレティア様」と、いつもの崇拝モードに戻った。

しかし、サクレティアは何かが違うと感じた。これまでのような狂気じみた執着は、どこか薄れているように思えた。いつもの「崇拝モード」ではあるものの、そこにあるのは穏やかで落ち着いた感情に感じられた。

「クレノ?」サクレティアはもう一度彼の名前を呼んでみた。

「はい、サクレティア様。何でしょうか?」クレノースは丁寧に返事をしたが、その瞳には以前の狂気はほとんど見られなかった。

「ううん、なんでもないわ。今日はありがとう。楽しかった。」

サクレティアは微笑みながら言ったが、彼の変化が確かに存在していることを感じつつも、深くは追及しなかった。


馬車が公爵邸に到着し、サクレティアが一息ついた瞬間、クレノースが急に狂った執着心をあらわにしながら、彼女の手を優しく握りしめて言った。

「今日は……一緒にお風呂に入りましょう、サクレティア様。あなたのお疲れになったお体を、この僕が癒して差し上げます……!」

その瞬間、サクレティアは心の中で《ああ、やっぱり気のせいだったわね……》と軽く溜息をついた。

「いや、クレノ……大丈夫よ、自分で……」

「いいえ!そんなことはさせません!僕がサクレティア様を心からお世話させていただきます!お風呂も、髪も、すべて僕が……」とクレノースは微笑みながらも、その瞳には執着の色が再び浮かんでいた。

《無理ね……これは避けられない流れだわ……》

サクレティアは苦笑いしながら、仕方なくクレノースと共にお風呂に入ることを覚悟したのであった。
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