上 下
20 / 31

第二十話【とっても、おエモいですわぁ~~~~~~~~~!!!】

しおりを挟む
エルナザール魔法学校。そこは小・中・高の一貫校だ。つまり6歳~18歳まで通う事ができる。しかし、それは凡人の生き方だ。天才は飛び級を使って、僅かな年数で卒業する事ができる。
天才ヒスイは3年で卒業する事ができた。しかし、道徳を学びたいという理由から卒業を先延ばしにして学校に通っていた。

エルナザール魔法学校は全寮制。
ヒスイと最初に同室になったのは、凡人だった。夜になれば母を呼びながら泣き、寝小便をする。
あまりのウザさに「先生、世界を滅ぼしてしまいそうなので…相方のチェンジをお願いします。」と提案する6歳のヒスイ。「ヒスイ君、君は王族だから、一人部屋でも良いんですよ。」と先生に言われても「チェンジお願いします。」とだけ圧をかけるように懇願し、チェンジされる事になった。
チェンジされてヒスイと同室になったのは雷属性名門貴族エルメロイ・サルバトーレだった。
エルメロイは6歳で黙々と延々に本を読んでいるような堅物だった。誰とも関わりたくないかのようなオーラを発していた。
「あのー。そんなもの読んでて楽しいですか?」と問うヒスイ。
「……少なくとも、この本を読んだ事もなさそうな子供と話すよりかは楽しいな。」と不敵な笑みを浮かべる6歳児エルメロイ。
「…大体の本は読み終わってますので。自分はそれよりも楽しいって事ですね。」
「は?」と言ってボトっと分厚い本を床に落とすエルメロイ。
これが二人の出会いだった。

「うぉい!!なぁ!!答えはどうなんだ?火属性と雷属性が融合した場合なにが起こるんだ?」と、とても苦しそうな声でヒスイに質問するエルメロイ。
ヒスイはエルメロイの背中に乗り、エルメロイを四つん這いで歩かせていた。エルメロイはというと教科書にはないものが知りた過ぎて、知識を得るために手段を選ばず馬車馬のように扱き使われていた。そう…この時のエルメロイはヒスイによって超天才児並みに鍛えられている事など全く気付かずに過ごしていた。

エルメロイが9歳になった頃、エルナザール帝国の宰相として忙しく働く父、エルラダイが久しぶりにサルバトーレ城に帰ってきた。
「ん?今日は帰還日か?エルメロイ。」と息子を見つけて声をかける父エルラダイ。
「いえ、今日はお父様が帰ってこられるという知らせを聞いたので、急いで帰還致しました。」とエルメロイは嬉しそうに答えた。
「ん?子供にしては長旅だろうに、こんな家をほったらかしにする父の事など、気にするでない。だが…嬉しいものだな。」としゃがんでエルメロイと同じ目線になり、エルメロイの頭を撫でた。
エルメロイは首を傾げた。
「お前が私くらいになったら、雷属性の奥義とも言える瞬間移動技ワープを教えてやろう。」と言ってニコリと笑うエルラダイ。
「ワープ?これの事ですか?」とエルメロイは父の手を掴んで屋敷の中へワープで移動した。
「なっ!?Σ」エルラダイは大きく口を開いた。床まで顎がついてしまうんじゃないかというくらいにだ。開いた口が塞がらなくてどうしようかと思うくらいにだ。
「エヘヘ。」と嬉しそうに微笑むエルメロイ9歳。
「だ、誰に教わったんだ。ワープは難しい魔法だ。一人でもやっとだというのに私まで…体にかすり傷…いや、塵一つ着けずに…。」と驚いたままの父エルラダイ。
「友人に教わりました。第四王子のヒスイ殿下にです。」と笑って答えるエルメロイ。
「殿下に…だと?」
「ハイ!」

エルメロイが15歳になって自分の異常さに気付いた。
ワープは膨大な雷エネルギーを消費する為、1日に何度も使えたりしなかった。ヒスイによる鬼のようなイジメのようなスパルタメニューをこなして魔力が普通の人より4倍は多くなっているという事に気付いてしまった。それだけでない、剣術、馬術、芸術、魔術、呪術、解呪術、奴隷術(?)全てを完璧にこなせるようになっており、ヒスイが王になった場合、次期宰相確定だった。
卒業はヒスイと同時に飛び級を使って卒業した。卒業後はヒスイの秘書として常に隣についた。
父エルラダイからも宰相の仕事について教わる事が多く、エルメロイは全てが順調だった。

あの日までは。
ヒスイの秘書として動くエルメロイは公務の時間になっても姿を現さないヒスイを呼びにヒスイの自室にノック無しで入った。ソファーに横向きで寝転がっているヒスイ。
「どういう事だヒスイ。皆がお前を王にと待っている。急に公務を休むなんてお前らしくないぞ。」とエルメロイ。
「自分らしいからこそ、休みました。この先公務に出る事はないでしょう。…アンタもさっさと秘書なんてお遊び辞めてサルバトーレ家当主の仕事を覚えていったらどうです?」と此方を見ずに目をつむったまま話すヒスイ。
「勝手だ…なんて身勝手なんだ…俺は…お前に作られたってのに…。」と拳をぎゅっと握りしめて、悔しそうな顔をして静かに目を瞑るエルメロイ。
「早く帰れよ。もうここにもくんな。」と冷たく低い声で吐き捨てるかのように話すヒスイ。
「あぁ…そうするさ。誰が何と言おうと、お前は俺の王だ。例えアナスタリア第一王子が皇帝になったとしても…俺の王は…お前だけだヒスイ。それだけは胸に刻んでおけ。俺はもう帰る。気が変わったら…呼べ。いつでも頼れ。いつでも来い。わかったな。」とエルメロイも吐き捨てるように言ってワープを使ってサルバトーレ城へ帰ってきた。
そして泣いた。悔しくて泣いた。どうして一番近くにいた俺がアイツの変化に気付けなかったんだろうか。一番近くにいたからこそ分かってしまったんだ。…この世に絶望してしまってるという事に。
とエルメロイは悔やんでいた。
(俺だって…お前にほとんどの知識を詰め込まれたんだ…俺だってわかるんだよ…。この世界で生きるという事の…飽きを。でもなぁ…俺は出会ってしまったんだよ…お前に。お前に仕える事に喜びを感じ…お前が隣にいる毎日が楽しくて楽しくて…仕方が無かったんだ。お前そうじゃなかったのか?ヒスイ。俺の声は…お前の心に届かないのか?)

【昔を思い出していたエルメロイ。
それが今はどうだ。俺の王らしく突然きて突然命令しだしたじゃないか。
こんなに生きていて…心が躍ることはない。】
「とか思ってますよ、エルのお義兄様。」とエルメロイが本気で思っていた事を代弁するヒスイ。
仲良く3人でサルバトーレ城の庭園でお茶をしていた。
「お兄様って意外とヒスイの事大好きなのね!嬉しい!」と無邪気に喜ぶエルメラルダ。
「クッ…。お前なぁ!!!………。」といつも通り怒鳴ろうとしたエルメロイだったが、本気で嬉しくて仕方がなく…一筋の涙が…っという時に上から滝のような水がザーーっと降ってきてエルメロイはずぶ濡れになる。
「…お…お…お前なぁっ!!!!!!」と怒るエルメロイ。
「お、お兄様!!ダメですっ!怒ったら感電しちゃいます!!」と慌てるエルメラルダ。
「ほんとですよぉー。せっかくこんなに綺麗に咲いてる花たちが枯れちゃいますって!」と飄々としているヒスイ。
「黙れ!!!なら、濡らすな!!!」と切れるエルメロイ。
「エル、タオルを持ってきてあげてください。」とヒスイ。
「うん、わかった!」と言ってパタパタと走って城の中へ入って行くエルメラルダ。

「何勝手に泣こうとしてるんです?」とヒスイ。
「泣いて等…いない。」とエルメロイは顔をそらす。
「……自分の許可無く泣かないで下さい。……まだ自分の事を王だと思っているのなら…ですが。ロイ。」
今にも泣きそうな顔で嬉しそうに「……あぁ。お帰り。ヒスイ。」と言って笑うエルメロイであった。
「え…キモ。」
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約? ついでに国も救ってみます〜

松浦どれみ
恋愛
【読んで笑って! 詰め込みまくりのラブコメディ!】 (ああ、なんて素敵なのかしら! まさかリアム様があんなに逞しくなっているだなんて、反則だわ! そりゃ触るわよ。モロ好みなんだから!)『本編より抜粋』 ※カクヨムでも公開中ですが、若干お直しして移植しています! 【あらすじ】 架空の国、ジュエリトス王国。 人々は大なり小なり魔力を持つものが多く、魔法が身近な存在だった。 国内の辺境に領地を持つ伯爵家令嬢のオリビアはカフェの経営などで手腕を発揮していた。 そして、貴族の令息令嬢の大規模お見合い会場となっている「貴族学院」入学を二ヶ月後に控えていたある日、彼女の元に公爵家の次男リアムとの婚約話が舞い込む。 数年ぶりに再会したリアムは、王子様系イケメンとして令嬢たちに大人気だった頃とは別人で、オリビア好みの筋肉ムキムキのゴリマッチョになっていた! 仮の婚約者としてスタートしたオリビアとリアム。 さまざまなトラブルを乗り越えて、ふたりは正式な婚約を目指す! まさかの国にもトラブル発生!? だったらついでに救います! 恋愛偏差値底辺の変態令嬢と初恋拗らせマッチョ騎士のジョブ&ラブストーリー!(コメディありあり) 応援よろしくお願いします😊 2023.8.28 カテゴリー迷子になりファンタジーから恋愛に変更しました。 本作は恋愛をメインとした異世界ファンタジーです✨

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい

砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。 風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。 イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。 一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。 強欲悪役令嬢ストーリー(笑) 二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。 ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。 そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

処理中です...