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第二十一話【王子への罰と執事への褒美】

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ヤードはペルシカをお姫様抱っこしたまま、瞬間移動の魔法を使ってハイドシュバルツ公爵家のペルシカの部屋へと移動した。部屋に到着すると、彼はペルシカをベッドの上に優しくおろし、ヤードは彼女の側にそっと座りました。

「お嬢様、今後はいかがなさいますか?」
「何かプランはある?」
「2つほど…。このまま私奴わたくしめと逃亡してしまうか、私奴わたくしめが設定したセーブ地点へ戻り、お嬢様の御御足おみあしを治して、ここ数か月の出来事をなかった事にしてしまうか…でしょうか。」
「そのセーブ地点とやらに戻った場合、記憶はどうなるの?」
私奴わたくしめは記憶が残ったままとなるでしょうね。もちろん、お嬢様もです。」
「そう。ちなみに私の足は治らないのね?」
「はい、時間が経ちすぎていて難しいかと思います。一度外へ出て試されますか?」
「ううん。じゃあセーブ地点に戻して。」
「畏まりました。」

ヤードがペルシカの手をギュッと握り、空いた方の手で指をパチンと鳴らした瞬間、部屋中が明るい光に包まれ、ペルシカは自然に目を閉じました。その光はまるでやわらかな夜明けのように、部屋を包み込んでいきました。

ペルシカが意識を取り戻すと、自分がヤードの膝の上に座っていることに気づきました。まるでセーブ地点に戻ったかのように、時間と場所が重なっているような感覚だった。

「ヤー‥‥ド、か…ぁ…ぁ…ぃ…ひぁ…。」

ペルシカは思わず喉を押さえた。声がかすれて、何も喋れない状態だった。口を開けても、どうにも声が出ず、焦っていた。

「はい、お嬢様は長い眠りから覚めた後でございますから。全ての筋肉が衰えた状態でございます。お嬢様、明日は卒業式でございますよ。」

(なるほどね。)

ペルシカは足をクイクイと動かして、足が治っているかどうかだけを確認した。どこも痛みはなく、筋肉さえつけば問題なく歩けそうだった。安心した彼女はヤードに微笑みかけた。

「良かったですね。セーブ地点を用意しておいて。」

(全くよ。)

「その御様子ですと、やはり卒業式に出席するのは今回も無理でございますね。」

ペルシカはヤードを睨みつけた。

(前の時も思ったけど、どうせ出席できないなら卒業式の話を出さなきゃ良いのに。)

「何か言いたげでございますね?お嬢様がご回復された後、ゆっくりとお聞きいたしますね。今は、さぁ、お食事に致しましょう。」

ヤードは静かにスプーンを手に取り、スープをすくってペルシカの口元へと運ぶ。彼の手つきは慎重で、優雅だ。ペルシカは口を開け、それを受け入れた。


それから数日後、ペルシカの喉のかすれは完全に治り、彼女は普通に喋ることができるまで回復した。日常生活に支障がない程度に回復した彼女は、再び自分の力で立ち上がり、今後の行動を考え始めまた。

ペルシカの部屋のドアが軽くノックされ、その後、ヤードが入ってきました。

「随分とお早い回復でございますね。私奴わたくしめに隠れて、トレーニングをなさっていたようですね。」
「えぇ。発声練習もね。」
「おや、随分と正直におっしゃいますね。」
「ヤードだって、私が逃げ出さないって分かってるから、何時間も姿を見せない日が増えたじゃない。」
「お嬢様の憂いの1つである公務を終わらせておりましたので。」

ペルシカとヤードはお互いにニコリと笑い合い、ペルシカはヤードの手を優しく取って一緒にベッドに座りました。

「随分と積極的でございますね。」
「ヤードって、ずっと執事なの?私の前のペルシカさんの時もハイドシュバルツ家の執事でいたの?」
「いえ、極めてまれなことですね。お嬢様の様子を伺いに、変装して執事として潜り込む程度で、このように幼少期からお仕えさせていただくのは初めての経験です。」
「じゃあ今回はどうして?」
「お嬢様、回帰の話はご存知ですね?1度目の人生で王子は従者としてお嬢様にお仕えしておりました。私奴わたくしめはそれに同調する形で執事となりました。つまり、私奴わたくしめのなりふりは王子の意思によって変わります。」
「じゃあ、前回はどうしてたの?」
「前回といいますと、残念ながら、ペルシカ様は王子殿下に夢中でしたので私奴わたくしめは出番がございませんでした。今回は回帰事件が発生しておりますので、とても異例な事態となっております。」
「げ…。そうなの。良いなぁ~まともな世界線。」
「申し訳ございません。元のベースが、あの王子ですので。」
「なるほどね。」

ペルシカはヤードの膝に頭を乗せ、静かにヤードを見つめました。

「ヤードは寂しくない?」

ペルシカは手を伸ばし、ヤードの頬を優しく触りました。その触れた手は、やわらかな愛情と深い信頼を伝えるかのようだった。

「そのようなことを尋ねられるのは初めてでございます。王子と結ばれても私奴わたくしめと結ばれても、結局は同じ事ですので、大丈夫でございます。」
「大丈夫なだけでしょ?寂しさは感じてるんじゃないの?」

ヤードはペルシカの言葉に驚き、一瞬目を見開いた。その後、彼はペルシカの手を優しく取り、自分の頬に触れる彼女の手を感じながら、ゆっくりと目を閉じた。

「少し…ほんの少しだけですが、寂しいと感じております。魂も体も同じだというのに変ですよね。」
「どこも変じゃないわ。私も変だから。今目の前にいるヤードの事も大好きだし、王子のプレイヤードも大好きなの。どっちも好き。だからね、今回はどっちともと結婚したいの。」

再び目を見開いたヤードは、深い感情を秘めた視線でペルシカを見つめた。

「どっちとも…でございますか?」

「えぇ、散々二人に好き勝手されてきたんだから、これくらい良いでしょ?」

「ですが、体は1つでございますよ?」

「分かってる。だからプレイヤードとはこのまま予定通りに結婚して子供も産む。その後でヤードと二人きりで結婚式をして、ヤードと子供を産むの。貴方達なら、それくらいの事やってのけれるでしょう?」

「…ははっ。滅茶苦茶な事をおっしゃいますね。」

「先に滅茶苦茶な事をしたのは二人でしょ?ヤード、これは命令よ。それからプレイヤード様、これは私を不幸にさせた罰よ。私はどっちも好きだし、どっちの子供も産みたいの。金髪の子と黒髪の子が欲しいわ。」

ヤードとペルシカの間に、何も言葉がないままの静寂が広がった。その間、二人の間には言葉以上の何かが漂っているようだった。

「承知致しました。王子も問題無いそうです。しかし…お嬢様の初めてを頂けないのは少し残念でございますね。」
「それくらい我慢なさい。時期王妃としての務めは、しっかり果たすつもりよ。あの部屋へはもう一生入る事のないように、しっかりと私を守っていなさいヤード。」
「かしこまりました。お嬢様。」
「それから二人とも、絶対に無理はしないで。じゃないと私がまた無理をするわよ。覚えておいて。」
「はい、肝に銘じます。」
「じゃあ、少しプレイヤードと変わって?」
「はい。」

ヤードの身体が徐々に変化し、その姿は金髪で碧い瞳を持つ王子のものに変わった。その変化は静かで穏やかであり、まるで魔法のように、一瞬であっという間だった。

王子の目に涙が浮かび、それは彼の深い感情の表れでした。その涙は喜びや悲しみ、そして何よりも深い愛情の証でした。

「ペルシカ…。」
「プレイヤード、貴方は間違えたの。貴方と過ごした日々、私は幸せそうな顔をしてた?」
「いいえ。」
「ワタクシは一生のあの部屋へは入らないわ。でも、覚えておいて、貴方の事も大好きなの。今思えば…ヤードって回帰前の貴方のあだ名だったのね。」
「ペルシカ…記憶があるのですか?」
「えぇ、貴方に足を壊されて眠ってる間にね。あの時の貴方はまともじゃなかったから黙ってたの。」
「すみませんでした。」
「ほんとにね。普通のプレイヤード様だったら、執事のヤードに浮気する事もなく、添い遂げられていたと思う。これからは気を付けてね。」
「はい。」

王子はペルシカの手を握りしめ、感情を抑えきれずにしばらく泣き続けた。彼の心には様々な思いが渦巻き、その感情が言葉にならないほど深く、切ないものであった。
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