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65p【GMが用意した武器】

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僕はイチカさんとの練習試合の映像を見ていた。
練習試合、普通の試合、イベントでの戦闘、クエストでの戦闘は全て記録されていて、いつでも見る事が可能だ。
最後はハナビが馬鹿でかいマグマっぽい色をした球体を大きく膨らませて大ダメージを与えて終わっていた。
あの魔導書、シンカさんの言ってた通り相当強い。

「何見てるの?」と咲に聞かれて、さっきの試合の最後を見ていたと話した。
「言い忘れてたけど、春風のタクトの強さはゲームバランスをぶち壊すくらいの破壊力を持ってるの。だってGMが作ったチート武器なんだもん。魔力が無限にあるのならウォールがいれば基本的にダメージは受けないし。ハルにラストカントリーで手に入る【無限桜の木の枝】を持たせたら魔力は無限になるし。」

「え?どういう事?シンさんからはただの睡眠耐性と氷雪体制のついたただの盾だって聞いたんだけど。」
「確かに。初心者村で売ってる安い盾より防御力が少ないから誰も装備しないと思う。説明も「永久の時間を…」だけだし。だからそれをただの記念品の盾だと思い込んでる人とか、見た目用に使ったりしてる人が多いはず。それに、ラストカントリーは全MAPが解放されてないといけない場所だからね!」
「そんなに凄い盾なのか…。でもこんだけプレイヤーがいれば誰か一人くらいは使ってそうなのに。」
「発動条件が限られてるの。その盾も当時、春風のタクトを使っていたGMが楽をする為に用意したもので、ハルにしか使えないの。」
「………ズル……じゃん。」
僕はショックを受けた。何にショックを受けたのかさっぱりだったけど、心が重くなった気がした。
「ごめん。ちょっと。ログアウトして。」
「えっ!?待って!!今?」
「少しだけでいいから。」
僕と咲はログアウトをした。

この、ちょっと考え事をしてるこの瞬間も【リアル】では時間が進んでいる。だからログアウトはかなり慎重に行わないといけない。
ルナさんに毎日練習試合しろって言われてたのに、すっぽかしちゃう事になりそうか?
コンコンとドアをノックされた。
相手はわかっている。咲、じゃなくて陽子さんだ。
ガチャッと勝手にドアをあけられた。陽子さんの目は、すぐにでも泣いてしまいそうなくらいうるうるしていた。
「ごめんなさい!!」
「うわぁっ!?どうしたんだ?」
「話を聞いて!!色々思い出した事があるの。」
「何?」
「ムーンバミューダ社は、悪い会社なの!!私はその会社から逃げてきて、どうにかしないといけなくて!それをどうにかするには、リキの力が必要なの。最初は純粋にゲームを楽しんでもらって、ゆっくりやっていってもらえばいいって思ってた。でも!!私の目的は、きっとさっきみたいに不正させたりして、リキを絶対に傷つける。どう悪い会社なのかはまだ思い出せないし、リキには純粋にゲームを楽しんでほしいって思ってるけど。【リアル】で一番強くなってもらわないと私の目的は達成できなくって。どうしたらいいんだろう。」
陽子さんの目からはポロポロと涙がでていて。
僕は胸がざわついて、それを落ち着かせたくて陽子さんを抱きしめて頭を撫でた。
「ヒッ…ヒック…ごめんなさい。これから、いっぱい迷惑かけちゃうかもしれないっ。」
「ごめん、その、違うんだ。みんな色々頑張ってるのに、何もしないで僕は勝ってしまって、それがチート武器のせいだってわかって、ズルしてる罪悪感とかあって。ほら、最初は咲を手に入れる為だけに【リアル】に入ってたからさ。最近、何のためにゲームしてるんだろうって思う事が多くて。」
「世界を…助ける為に…力を貸してほしいの。」と声を震わせながら無理な願いを押し付けてくる陽子さん。
「世界を助けるって、ただの高校生の僕が?」
「リキしかいないの。…リキじゃないとダメなの。」
どうしてだろう。無理だって、そんな世界を救うみたいな事、絶対無理だって…わかってるのに…。
どうして、この人を助けたいと思ってしまうんだろう。

「救えなくても、文句言わないなら…。」と口を尖らせながらも言ってしまった。
「うん!うん!文句は言わない!!」
「…僕は何をすればいいの?」
「まずはGM時代の私が残した武器を使って、強くなって有名になってほしいの。今はまだそれしか言えなくて。言っちゃうと別の方向に進んじゃいそうで、ごめんね。せっかく楽しめるはずのゲームなのに、絶対リキ一人が損する事になっちゃう。」
「ううん、もともと辞めるつもりだったし、咲っていう存在がいたから戻っただけで。何か大事みたいだし、できる限りの事はやるよ。協力する。うん、みんなに申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど、話を聞いて今吹っ切れたし。」
「ありがとっ!!!ありがとう…!!!」
陽子さんはぎゅっと僕の服を掴む。声が咲だからかな、少しだけドキドキする。
「じゃあ、戻らないと、一ヶ月くらい過ぎてそう。」と僕は時計を見る。まだ5分もたってないけど。
「うん。隣にいてもいい?」と陽子さん。
「いたいけど多分何らかのセンサーに引っかかって強制ログアウトしそうだから、陽子さんはベッド使って、僕は椅子に座るから。」
「うん。」
僕は陽子さんから離れて椅子に座って、陽子さんはベッドに横になる。
僕は自分の使っているものがどれだけせこい武器かを知って凄い罪悪感を受けて色々な気持ちが溢れて、それが顔にでてしまった。しかも、陽子さんがそれを気にしてログアウトしてしまった。でも。それ以上に僕は…何かやらなきゃいけないって心のどっかで誰かが叫んでいる気がしてならないんだ…。

二人で再び【リアル】にログインした。
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