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第三十二話【渦巻く陰謀】

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まず、アビスは側妃のメイドたちを一人ひとり注意深く観察した。 彼女たちの行動や言動から、ノエルとの接触があった可能性があるかを探るためである。 そして、ある日、アビスの注意は側妃の特定のメイドに向けられた。 彼女は他のメイドたちと比べて、何か特別な振る舞いや行動が目立っていた。 アビスは彼女の行動を更に詳しく観察し、彼女が側妃との間で何らかの秘密のやり取りをしていることを確信した。

次に、アビスはそのメイドを買収することを決意した。 彼女に金銭や特典を提供し、情報を引き出すための取引を持ちかけた。 最初は警戒心を見せる彼女だったが、アビスの説得により徐々に信頼を得ることができた。

そして、密かに彼女との会話を通じて情報を収集していく中で、ノエルとの関わりが浮かび上がってきた。 彼女はノエルと側妃の間で何度も会話があったことを告白し、その内容を詳細に伝えてくれた。 これにより、驚くべき事実が明らかになった。 ノエルがティアンナの暗殺やアメリアの誘拐を唆している可能性はゼロであり、むしろ彼は側妃の暴走には何の関与もなかったのだ。 アビスはその事実に衝撃を受けた。

なぜノエルが頻繁に側妃と接触していたのか、その理由はまだ解明されていない。 

アビスは深くため息をつき、次なる行動を考え始めた。 

アビスは手に入れた側妃の暴走の証拠を手に、重い腰を上げてティグルス王に相談することに決めた。

王宮の壮麗な大広間で、アビスは王の前に謙虚に立ち、深い頭を下げた。 ティグルス王は知恵に満ちた、厳格でありながら公正な王としてその座に君臨していた。 彼の側には、賢明なる宰相たちや重鎮たちが陣取っていた。

「お父上、お聞きいただけますでしょうか。」アビスの声は、静かでありながら堅固な決意に満ちていた。

ティグルス王は深い眉を寄せ、父上を呼ばれた事に顔を少し引きつらせながら、アビスの言葉を聞き入れた。 「アビスよ、何事があったのか。話してみよ。」

アビスは口を開き、側妃の独断専行や王宮内の混乱について詳細に語り始めた。 その証拠と共に、彼の言葉は真実を伝えるための重みを帯びていた。

アビスの告発に対する王の言葉に、会場の空気が一変した。 

「まことに… そんな事が。 ルティーやティアンナを愛するあまりに、危険に晒してしまったという事か。」 王の声は、広間に響き渡り、その深い憂いが伝わってきた。

アビスは王の言葉に黙って頷き、その意味深い言葉を受け止めた。 彼の目にも、自らの行動が及ぼす影響を深く反省する様子がうかがえた。

広間には、沈黙が広がった。 アビスと王、そしてその周囲の側近たちの間に、重い雰囲気が漂っていた。

ティグルス王の提案に、広間に立ち込めた沈黙が一瞬間、静まり返る。 その提案は予想外のものであり、会議室の空気は一気に緊張感に包まれた。

「急ぎ、ルティーの立太子式を執り行おう、そこで予定しておったアビスのお披露目も同時に行うほかない。」王の言葉は重々しく、しかし決断に満ちたものであった。 彼の目には、国家の安寧とルティーの安全を確保するための覚悟が込められていた。

広間にいる者たちは、王の言葉を受け止めた後、一様に頷き、その決断を支持する意思を示した。 彼らもまた、国の安定と王家の未来を守るために、一丸となって行動する覚悟を決めたのだ。

アビスは王の提案に深く感謝し、その意思を受け入れた。 彼は早速行動を開始し、ルティーの立太子式と自らのお披露目の準備を急ぐこととなった。

――――――――――
――――――――


王城内の東側にある側妃の部屋では、その情報を耳にした側妃が怒りに満ちた表情で小刻みに震えていた。 彼女の瞳には激しい怒りが宿り、顔面には薄い汗が滲んでいる。

「ノエルを呼べ!!早く!!」 側妃は金切り声をあげ、部屋にいる使用人たちに命令した。 その声は鋭く、激情に満ちていた。

使用人たちは側妃の命令を素早く受け、すぐにノエルを呼びに行くように部屋を出ていった。 彼らの足音が廊下を駆け抜ける中、側妃は怒りを抑えることができず、部屋の中を不安定な気配が支配した。


しばらくして、ノエル・クラリアスが姿を現した。 彼はメーベルを使って瞬間移動し、側妃の部屋に突然現れた。 白く美しい長髪に、金の刺繍が施された豪華な祭服を身にまとい、メーベルの解放によって輝く金のサークレットや、背中に広がる白い羽が、まるで天使のような姿を作り上げていた。

彼の姿はまるで幻想的で、側妃の部屋に華やかな光をもたらした。 その美しい容姿と威厳ある佇まいは、まるで王宮の中で一番輝く星のように映えていた。



ノエルが優雅な口調で「お呼びでしょうか。エマージュ様」と声をかけると、側妃エマージュは激怒して近くにあったコップをノエルに投げつけた。 「このペテン師が!!コレットを遠くの地へ追いやったのではなかったのか!!」 と怒鳴りつけました。 「はい、コレット王妃様は我らクラリアスの祖国、神の国にて、療養中でございます。」とノエルが答えると、エマージュは「嘘を付け!! 奴が帰ったからこのような事態になっているのではないのか!」 と激しく非難しました。



ノエルは冷静な口調で続けます。 「まさか、ありえません。今このような事態になっておりますのは、ケイロス帝国の王、グローリア・アビス・ケイロスが何故か第二王子の座についた事が原因かと思われます。」 と説明しました。 その言葉に、側妃エマージュの顔には驚きと憤りが交じり合っています。

エマージュは声を荒げて続けました。 「まさか、おとぎ話ではないか?初代王が生きているわけがないだろう、その子孫が生きていたという話であろう?」

ノエルは落ち着いた口調で反論します。 「いえ、あれは我が祖父から寿命を得ており、約800年の時を生き続けておりました。」と説明しました。 その言葉に、エマージュの顔には驚きと疑念が浮かんでいます。

ノエルは心の中で、エマージュの学識の乏しさに心底嫌気を感じていました。 彼女が知識を持たないことが、問題の本質を理解できない原因だと感じていたのです。 彼は深くため息をつきながら、冷静にその場を受け止めました。

ノエルは悩みながらも、エマージュの存在を利用して、王城内で混乱を引き起こし、アビスとアメリアを引き離し、さらに王妃コレットを失脚させるための策略を練らねばなりませんでした。

彼は知恵を絞り、慎重に計画を練りました。 エマージュの怒りを利用し、王城内に不協和音をもたらすことで、アビスとアメリアが城を離れる好機を見出すことができるかもしれないと考えました。 そして、王妃コレットに対する批判を煽り立て、彼女の地位を揺るがせることで、ノエル自身の望む結末を迎えることができると信じていました。

しかし、これらの計画が果たして成功するかどうかは、未知数であり、彼の心は不安に満ちていました。

ノエル・クラリアスは、祖父であるキルエルからアビスに手を出すなとくどく言われていました。 一方で、父であるエルキースからはアメリアを嫁に迎えるようにと指示されていました。 さらに、ノエル自身は王妃コレットを愛しており、その三者の間で板挟みになっていたのです。 彼はこの状況に困り果て、どうすることもできない自分を悔しく思いました。

ノエルは自らの苦悩に心を乱され、追い詰められた心境に耐えかねていた。 アビスの力と知恵に頼り、すべてを解決してもらいたいという思いが、彼の心を支配していた。

彼は自分の立場や家族の期待に縛られながらも、アビスに協力し、問題を解決していく道を選ぶべきかどうかで葛藤していた。 一方で、その決断が自らの信念や義務に反する可能性もあることを理解していた。

「何を考えているのでしょうか…私は…。」

絶え間ない戦いと矛盾する選択の中で、ノエルの心は揺れ動き、彼の運命がどのように展開するのか、未来の行く末が不透明なまま、深い闇に包まれていた。
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