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9 うさぎさんとの共同生活

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一緒に暮らしはじめて既に三週間近くがたとうとしてる。体調も回復したしそろそろ自分の家に戻りたいんだけど、最近ではドキドキお風呂タイムに加えて一緒にお昼寝までしてる。幼稚園児みたいな生活。さくら君はすごい読書家でこの家には壁が一面本棚になってる書斎まである。絵本から外国語の本まで置いてあるそこで仕事をしつつ僕のお世話までしてくれるスーパールームメイトさくら君。30歳の僕は人生のなかでこんなにお世話されたことはないというくらい快適な毎日をすごさせてもらってる。



僕は今まで人見知りで他人が怖かったんだけどさくら君にはそういった気持ちが一切わかないのが不思議。仲良し具合がとまらなくてこのままでは一人暮らしに戻った時に寂しくて困るんじゃないかと僕は思っている。



(あんまりここに慣れすぎると良くないかも)



ある日の夕食後「そろそろ家に帰ろうと思う」と伝えるとビックリされた。「なにか僕がしてしまいましたか?」とおろおろするので「このままだと一人暮らしがさみしくなりそうで。僕のせいです。さくら君と一緒にいるのが心地よすぎて」と言ったらさくら君はきょとんとした後、優しく言ってくれた。



「寂しくなるのは僕の方ですよ。こう見えても僕さみしがり屋だからはじめさんが居なくなったら寂しくて死んでしまうかもしれない」



「うさぎさんだ」



「そうです。寂しいと死んじゃうやつ」



さくら君はうさぎの耳のように両手を頭の上につけてぴょこぴょこと動かした。自分のかわいさを分かっていてやるんだからあざとい。きゅるんとした目で僕を見る彼はオメガである僕ですら庇護欲をかきたてられる可愛らしさだ。



(きゅん死させられちゃう。僕もうおじさんなのに)



「で、で、でも。お世話になりっぱなしだし。お邪魔し続けたらさくら君の好きな人に誤解されちゃうかもしれないし」



「え?うーん。僕はすこしくらい誤解してもらえるくらい意識して欲しいんですけどね?」



そう言って眉根を寄せたさくら君。そんな顔もかわいい。どこから見てもかわいいさくら君に思われてるのはどんなアルファなんだろう。想像しただけでうらやましくて心がきゅっとした。



「さくら君に好かれて好きにならない人はいないと思うよ」



「でも僕のこと年下扱いして恋愛対象にしてくれてないとおもうんです」



「鈍感なのかなぁ」



僕がそういうとさくら君は困ったように笑った。



「たぶん?」



せつなげな瞳が揺れる睫毛に隠れる。さくら君にそんな顔をさせるアルファがうらやましくてしょうがなかった。



(いいなぁ。僕がアルファなら良かったのに)



今日もさくら君は甘くていい匂いがする。



ーーー



最近の僕はおかしい。男同士でオメガ同士なのに一緒にお風呂にはいると目のやり場に大変困っている。



それもこれもひょろひょろの僕のからだと違ってさくら君の身体が綺麗すぎるからだと思う。成長したらきっともっとたくましい筋肉になるんだろうなぁ、という腕や胸。今はしなやかな筋肉に覆われているその身体がオメガとしてどういう風に抱かれ変わっていくのか・・・・・・



(最低だ)



なんだかいけない妄想をたちきるように僕はジャグジーのスイッチを連打した。



「?」



不思議そうに首をかしげるさくら君。



「僕ジャグジー大好きなんだ」



(キモいおじさんでごめんなさい)



僕はぶくぶく勢い良くでる泡を触ってごまかした。



ーーー

なんだか今日のさくら君は元気がない。

外出から帰ってきたさくら君は晩御飯の後のお茶を飲みながら何か言いたげにしていたけど言わない。

ぼくもそれが何か聞けない。



お風呂にはいってリラックスしたら教えてくれるかと思って様子をうかがってるんだけど相変わらずだ。そろそろゆだるほど湯船につかっているのにぼうっとしたままの彼は近くて遠い。



僕とさくら君の共同生活も1ヶ月を越えた。さくら君は優しい。家事のお手伝いはさせてくれるけどやっぱりお世話を焼かれっぱなし感は否めない。さくら君が優しければ優しいほど僕の気持ちは焦った。



(僕はここでも役立たず)



あれから何度かさくら君と恋の話をしてるんだけどすればするほどさくら君はすごい一途ないい子だって思った。ずいぶんと長いことその相手に恋をしているらしくでも遠くはなれてたからやっとこの街にこれて会えて嬉しいんだって。



でも僕と一緒にいることが多いさくら君はデートしている様子もない。僕といることでさくら君の恋路を邪魔するのは申し訳ない。さくら君がお出掛けしやすいようにもっと家のことさせてもらえないかと思ったんだけど。



「何かもっとお手伝いさせて欲しいんだけど」



「!!」



さくら君はちょっとキョトンとした後うろたえた様子を見せた。



「ほんとうに?」



さくら君は僕のことをじっと見つめた。



「さくら君の役に立ちたいんだけどダメかな?」



「ぜんぜん、ダメじゃない!です」



ふんすふんすと急に元気になったさくら君。お鼻をピクピクさせるうさぎさんを思い起こさせる。



(かわいいな)



かわいいうさぎさんなんてどこにもいないことをこの時の僕はまだ知らなかったのだ。

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