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4 人は平等ですが社会は人に不平等です
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通常のベータの男女の一夫一妻制に比べると現在のこの国のアルファとオメガの婚姻形態はかなり歪だ。アルファとオメガという第二の性があきらかになった途端少子化にあえいでいたこの国は人権ナニソレオイシイノ?状態になった。
なんせ社会の仕組みを作る上部層を占めるのがアルファ達でしかもアルファとアルファ、アルファとベータでは驚くほど子供が出来にくい。どんどん進む少子化。原因不明の不妊症が多発しこのままでは優秀な人材ほど遺伝子が残せないのではと婦人科医達が頭を悩ませていた時オメガ男性体の妊娠事例が発覚した。
奇しくも世界中で同時多発したその現象はWHOを通して解明チームが組まれその後どの国でもアルファ・ベータ・オメガの第二の性を第二次性徴期に血液検査で確認することが義務付けられた。
品行方正な優等生やエリートが学校や職場である日突然性的暴行をしてしまうのだ、オメガを発見次第隔離することが重要視されたのだ。いじめっこよりいじめられっ子を保健室で授業を受けさせる学校の体質と変わりないと思うのは僕だけだろうか。
第二の性が発見されてしばらくはオメガと呼ばれる妊娠可能な男性は初期には望まないレイプを引き起こす原因として忌避されることとなった。
だがアルファとオメガで発情期に性交をするとほぼ100%の確率で妊娠するのだ。しかもオメガから生まれてくる子供は9割ほどがアルファだった。低い確率で妊娠したアルファ同士のカップルでアルファが生まれる確率が5割だというのに驚異の数字だ。
政治家や資産家に多い古くから続く旧家は跡取りに優秀なアルファを設けることは死活問題。第二夫人として迎える迎えないはともかくオメガ相手に子供を設けることは不貞行為とみなされず推奨される行為になった。
エリートたちの行き過ぎた跡継ぎ対策は裏社会のオメガの大規模な人身売買にまで発展しかなりの被害者が生まれたことが明らかになり裏社会に金を落とさないためにオメガによる依願代理母出産は国の制度として制定されることになった。かなりの額の報酬をもらって発情期に人工授精をして9ヶ月間お腹の中で命を育てる。
子供を望む依頼人男女の受精卵を使うベータの代理母出産と違ってオメガの依願代理母出産は自分の卵子を使ってるんだから代理母という言葉が的確とは言えないけれど。この制度を作ったおっさんたちには優秀なアルファの母がオメガというのが心情的に許せなかったんだろうなってことは制度名からプンプン臭ってくる。
この国はオメガに人権なんてないと心底思っているんだろう。
今では僕らオメガは国のために産めよ増やせよと代理母制度外でも婚外子をもうけることだって推奨されている。一人で産んで苦労して育てるなんてナンセンス。出産後子供は保護施設で引き取るのでどうぞ次の出会いを求めてください。という国の施策にのって番を決めずに出産を繰り返すオメガもいる。僕が育ったのもそんなオメガの子供用の保護施設のうちの一つだった。
だから保護施設育ちの子どもたちは世間から見れば性に奔放なオメガの産んだ子どもたちとして色眼鏡で見られることが多い。でもその子どもたちは大多数がアルファだ。発情期に入ったオメガに惹かれたアルファが性交に及んだ結果なんだから当然だ。
優秀な遺伝子をもつアルファ達は小さな頃から体も強く知能も高く幼稚園に入る前に養子として引き取られることがほとんどだった。第二の性が判明するまで待つ必要もないほどちびっこアルファたちはアルファっぽいのだ。美男美女のアルファが親なのだから外見だって可愛らしい子どもたちばかりで保護施設は溢れていた。
でも、中には僕みたいなのもいるわけで。子供の頃から極度の人見知りの引っ込みじあんだった僕は養子縁組の顔合わせでもろくに話もできずおどおどしどおしで誰からも選ばれることなくそのまま保護施設に居座り続け、第二次性徴期にオメガであることが判明しオメガ専用施設に移ることになった。
まわりの子供と比べて浮いていることを自覚していた僕は自分がオメガだとわかったときに『やっぱりな』と思ったがまわりのあからさまな『だと思った』という表情に傷つかなかったわけじゃない。第二の性に優劣はありませんと言い聞かされて育ったのに。人は皆平等です。そう施設の食堂の壁にもかかってたのに……
第二の性に優劣はないのかもしれないけれどオメガという性の中での運不運というものは確実にあった。それは体質による抑制剤の効き目。
僕は発情期を迎えると通常のオメガには100%効く薬でも5割程度しか抑制できないほどフェロモンを撒き散らすため在宅以外の仕事が出来ないし薬の効きが悪いときはサカリすぎて頭がいっちゃってることも多いから在宅仕事でもまともに出来ているとは言えなかった。
番を作って発情期を乗り切ることもすすめられたんだけど、人見知りをこじらせてたままの僕はまともな恋人を自力で見つける事もできず、じゃあ確実に稼げる代理母として登録したらどうかとすすめられたんだけど……
2年にわたって何度検査しても代理母としての能力を確認するための疑似受精卵の着床テストが合格にならないことで諦めた。
『機能的には問題は見られないんです。どうやら精神的なものが大きいようですね』
早口でそう言ったのは検査機関のお医者様だった。
『ほんとうは番以外とは子供が欲しくないのでは?そういった方がいらっしゃるんじゃないですか?』
キラリとメガネを光らせて自信満々にそう僕に尋ねた医者は『実は……』と僕が喋りだすとでも思ったのかいつまでも僕の返事を待っていた。診察室に置かれた加湿器が地味に吐き出す湯気の音が妙に大きく聞こえる中、僕は心の中で先生にヤブ医者スタンプを百万回押した。
医者の中では好きな人がいるのにその人とは子供を作ることが出来ず代理母登録に来た哀れなオメガというストーリーが出来ていて、ここで僕が『実は大好きな人がいて』と告白すれば疑似受精卵の着床テストがうまくいかない理由が説明できて一件落着ということなんだろう。
(そういった人どころか恋人も友達もいないスーパーぼっちオメガの僕にこの人何言ってんの?僕にはサクちゃん以外友達もいなかった)
無言だった僕に何を思ったか「あ」の口をしたあと、医者は大きく頷きながら言った。
『運命の番を信じてるのは恥ずかしいことではありませんよ』
医者はしたり顔でそう言うので今度は思い込みの激しいロマンチストとして中二病判定を食らわされたのだと僕は判断した。
『運命の番』それは出会ってしまえば離れては生きていけないくらい惹かれ合うというオメガとアルファの存在として世間に知れわたっている。ドラマや漫画のテーマとして扱われることも多い。離婚率3組に1組と言われる現在、ただでさえ一生添い遂げることは難しく、だからこそ昔からおしどり夫婦なんて一夫一妻制を美化することばがあるわけで。
『運命の番』もそうゴロゴロころがっているものじゃない。都市伝説だ。ツチノコなみの。『いたよ!』『見たよ!』って言ってる先輩が去年いたって隣のクラスの人が言ってたらしいの。
実際のところ仲睦まじい夫婦の象徴として名前を使われているおしどりは毎年繁殖期の番を変えるわけだし。
(僕はもう約束は破られるものだと知っている)
サクちゃんがいなくなったあの時から僕は愛だのだの恋だのどころか人とうまく付き合うことすら出来ない。で、それをなんて説明するんだ?親友の早逝によって受けた心の傷がもとで心因性の不妊症が起きているとかそういうことをこの先生に思われたいわけじゃない。
サクちゃんがいなくなったことで僕は一人になったけどそれはサクちゃんのせいじゃない。サクちゃんのことで僕が不幸になるわけがない。『運命の番』なんているわけないんだから。
(サクちゃんはもういないんだから)
『そういうのは信じてません』
やっとの事で僕はそう言うとその場から逃げ出したのだった。
後日届いた手紙には依願代理母出産制度登録不受理のお知らせとあった。
・代理母としての能力が基準に満たないおそれがあるため。
仕事をまともにできない僕が唯一自分でしっかり稼げるであろう職にも門を閉ざされた瞬間だった。
『ずっと一緒だよ』
ずいぶんと前に忘れたはずのサクちゃんの声が耳の奥に聞こえた気がした。
なんせ社会の仕組みを作る上部層を占めるのがアルファ達でしかもアルファとアルファ、アルファとベータでは驚くほど子供が出来にくい。どんどん進む少子化。原因不明の不妊症が多発しこのままでは優秀な人材ほど遺伝子が残せないのではと婦人科医達が頭を悩ませていた時オメガ男性体の妊娠事例が発覚した。
奇しくも世界中で同時多発したその現象はWHOを通して解明チームが組まれその後どの国でもアルファ・ベータ・オメガの第二の性を第二次性徴期に血液検査で確認することが義務付けられた。
品行方正な優等生やエリートが学校や職場である日突然性的暴行をしてしまうのだ、オメガを発見次第隔離することが重要視されたのだ。いじめっこよりいじめられっ子を保健室で授業を受けさせる学校の体質と変わりないと思うのは僕だけだろうか。
第二の性が発見されてしばらくはオメガと呼ばれる妊娠可能な男性は初期には望まないレイプを引き起こす原因として忌避されることとなった。
だがアルファとオメガで発情期に性交をするとほぼ100%の確率で妊娠するのだ。しかもオメガから生まれてくる子供は9割ほどがアルファだった。低い確率で妊娠したアルファ同士のカップルでアルファが生まれる確率が5割だというのに驚異の数字だ。
政治家や資産家に多い古くから続く旧家は跡取りに優秀なアルファを設けることは死活問題。第二夫人として迎える迎えないはともかくオメガ相手に子供を設けることは不貞行為とみなされず推奨される行為になった。
エリートたちの行き過ぎた跡継ぎ対策は裏社会のオメガの大規模な人身売買にまで発展しかなりの被害者が生まれたことが明らかになり裏社会に金を落とさないためにオメガによる依願代理母出産は国の制度として制定されることになった。かなりの額の報酬をもらって発情期に人工授精をして9ヶ月間お腹の中で命を育てる。
子供を望む依頼人男女の受精卵を使うベータの代理母出産と違ってオメガの依願代理母出産は自分の卵子を使ってるんだから代理母という言葉が的確とは言えないけれど。この制度を作ったおっさんたちには優秀なアルファの母がオメガというのが心情的に許せなかったんだろうなってことは制度名からプンプン臭ってくる。
この国はオメガに人権なんてないと心底思っているんだろう。
今では僕らオメガは国のために産めよ増やせよと代理母制度外でも婚外子をもうけることだって推奨されている。一人で産んで苦労して育てるなんてナンセンス。出産後子供は保護施設で引き取るのでどうぞ次の出会いを求めてください。という国の施策にのって番を決めずに出産を繰り返すオメガもいる。僕が育ったのもそんなオメガの子供用の保護施設のうちの一つだった。
だから保護施設育ちの子どもたちは世間から見れば性に奔放なオメガの産んだ子どもたちとして色眼鏡で見られることが多い。でもその子どもたちは大多数がアルファだ。発情期に入ったオメガに惹かれたアルファが性交に及んだ結果なんだから当然だ。
優秀な遺伝子をもつアルファ達は小さな頃から体も強く知能も高く幼稚園に入る前に養子として引き取られることがほとんどだった。第二の性が判明するまで待つ必要もないほどちびっこアルファたちはアルファっぽいのだ。美男美女のアルファが親なのだから外見だって可愛らしい子どもたちばかりで保護施設は溢れていた。
でも、中には僕みたいなのもいるわけで。子供の頃から極度の人見知りの引っ込みじあんだった僕は養子縁組の顔合わせでもろくに話もできずおどおどしどおしで誰からも選ばれることなくそのまま保護施設に居座り続け、第二次性徴期にオメガであることが判明しオメガ専用施設に移ることになった。
まわりの子供と比べて浮いていることを自覚していた僕は自分がオメガだとわかったときに『やっぱりな』と思ったがまわりのあからさまな『だと思った』という表情に傷つかなかったわけじゃない。第二の性に優劣はありませんと言い聞かされて育ったのに。人は皆平等です。そう施設の食堂の壁にもかかってたのに……
第二の性に優劣はないのかもしれないけれどオメガという性の中での運不運というものは確実にあった。それは体質による抑制剤の効き目。
僕は発情期を迎えると通常のオメガには100%効く薬でも5割程度しか抑制できないほどフェロモンを撒き散らすため在宅以外の仕事が出来ないし薬の効きが悪いときはサカリすぎて頭がいっちゃってることも多いから在宅仕事でもまともに出来ているとは言えなかった。
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(そういった人どころか恋人も友達もいないスーパーぼっちオメガの僕にこの人何言ってんの?僕にはサクちゃん以外友達もいなかった)
無言だった僕に何を思ったか「あ」の口をしたあと、医者は大きく頷きながら言った。
『運命の番を信じてるのは恥ずかしいことではありませんよ』
医者はしたり顔でそう言うので今度は思い込みの激しいロマンチストとして中二病判定を食らわされたのだと僕は判断した。
『運命の番』それは出会ってしまえば離れては生きていけないくらい惹かれ合うというオメガとアルファの存在として世間に知れわたっている。ドラマや漫画のテーマとして扱われることも多い。離婚率3組に1組と言われる現在、ただでさえ一生添い遂げることは難しく、だからこそ昔からおしどり夫婦なんて一夫一妻制を美化することばがあるわけで。
『運命の番』もそうゴロゴロころがっているものじゃない。都市伝説だ。ツチノコなみの。『いたよ!』『見たよ!』って言ってる先輩が去年いたって隣のクラスの人が言ってたらしいの。
実際のところ仲睦まじい夫婦の象徴として名前を使われているおしどりは毎年繁殖期の番を変えるわけだし。
(僕はもう約束は破られるものだと知っている)
サクちゃんがいなくなったあの時から僕は愛だのだの恋だのどころか人とうまく付き合うことすら出来ない。で、それをなんて説明するんだ?親友の早逝によって受けた心の傷がもとで心因性の不妊症が起きているとかそういうことをこの先生に思われたいわけじゃない。
サクちゃんがいなくなったことで僕は一人になったけどそれはサクちゃんのせいじゃない。サクちゃんのことで僕が不幸になるわけがない。『運命の番』なんているわけないんだから。
(サクちゃんはもういないんだから)
『そういうのは信じてません』
やっとの事で僕はそう言うとその場から逃げ出したのだった。
後日届いた手紙には依願代理母出産制度登録不受理のお知らせとあった。
・代理母としての能力が基準に満たないおそれがあるため。
仕事をまともにできない僕が唯一自分でしっかり稼げるであろう職にも門を閉ざされた瞬間だった。
『ずっと一緒だよ』
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