上 下
7 / 12

番外編 2-1 ポメ王子は男姫様のことだけ考えている

しおりを挟む
 育ちが育ちなだけに俺のルーディアは我慢強い。
 やりたいことも本当の気持ちも押し殺して偽の次期女王として振る舞っている。
 立派な心がけだし、誰にでもできることじゃない。
 国民のため、王族として本当に立派だと思う。

 でも俺には本当の気持ちを教えて欲しい。
 俺といる時だけは我慢しないで欲しい、と思うのは俺のわがままなのか?

 どうか良い夢を、そう願った俺は腕の中で眠るルーディアの額に口づけた。

 ☆☆☆

「姫様…ルーディア様」

 トントントントンと小刻みに扉を叩く音がする。
 重たいまぶたをなんとかこじ開けてみると俺の目の前には黒い絹糸のような艶やかな髪。
 寝ぼけたままその一房を手に取りキスを落とす。

 ずっと触れたかった彼に触れられる喜びに胸が震える。髪の一筋すら愛おしい。先日までこの美しい人のそばにいられなくなる日が来るのだと暗澹と日々を過ごしていたのが嘘のようだ。

(もう、朝か)

 トントントンと扉を叩く音はやまない。ルーディアの侍女のカリンは諦める気はないらしい。

 窓にかかった幕の端からさす光が予想外に強くてまばたきをくりかえす。どうやら思っていたより寝過ごしたのか。
 俺の腕の中で可愛らしく寝息を立てるのは愛しの婚約者。未来の我が妻、いや夫?まぁ定義はいい。彼は最愛の存在だ。
 昨晩無理をさせすぎたらしく、ルーディアは健やかな寝息をたてたままピクリとも動かない。カリンの声など届いていないらしい。

 昨晩の可愛らしい彼の様子を思い出して俺の頬が緩む。また最後は気を失うように眠りに落ちさせてしまったな、そう思い出しただけでまた体の奥に熱が集まってしまう。

(だめだ、だめだ)

「ルーディア様!!…ローウェル様!!いらっしゃいますね!!」

 声の調子が強くなってきた。
 これはまたお怒りのようだ。ルーディアの筆頭侍女カリンは俺たちの事情を知っているから遠慮も何もない。俺の犬化の秘密を知った最近は俺のことを躾のできない駄犬だと思っている節がある。

「しょうがない。愛しい姫のためならお叱りは俺が受けよう」

 そっと髪をかき分け額にキスを落とすとルーディアの目蓋がかすかに震えた。
 長いまつげが眼窩に落とす影までも愛おしい。
 幼子のようにいとけない顔で眠るルーディア。

(…かわいい)

 透き通りそうな白い肌に散らされた薔薇の花弁を増やしたくなって俺は己を制した。

(カリンの奴め。俺の自制心は最大限にがんばってるんだが)

 そっと寝台を出て扉に近づく。とりあえず床に落ちていた寝巻きを拾い身に付け人目についても問題ない格好をつける。鎌首をもたげかけている俺の分身には落ち着くように言い聞かせる。

「姫様、お願いします。今日の神事は欠席できないんですよ!!お支度に時間がかかるんですから開けてください」

 少しだけ扉を開けると寝室の扉の外にはカリン。部屋の中が見えないように俺はカリンの視線を遮る位置に立つ。

「あーカリン。すぐに起こすからもう少しだけ待ってくれ」

 申し訳無さそうに顔を出した俺に筆頭侍女は目を剥いた。俺が王子でなければ何をされていたかわかなないほどの殺気が飛ばされた。

「ローウェル様!やっぱり!!神事の前は縁起が悪いからやめてくださいとおねがいしましたのに!!」

「すまんすまん」

「絶対悪いと思ってませんよね?先週も同じことなさいましたし!!」

「先週も同じことをして神罰が下ってないんだから俺の行為は問題ない、とは思わないか?」

 真面目な顔をして言ったら更に氷の視線を飛ばされた。この国の人間は信心深くて手に負えない。

「浴室に湯を張りますのですぐに姫様を起こしてくださいませ!!お願いしますよ!!今日のお支度はいつもより時間がかかるんですから!!」

 できる侍女はここで駄犬をしつけるよりも効率を優先させることにしたらしくすぐに引き下がった。

 さて、俺は愛しの婚約者を優しく起こすことにするかな。
 湯が張られるまで少々時間があるわけだし。ルーディアの唇を味わうくらいの時間はあるよなぁ。
 そう思って寝台に戻った俺は異変に気づいた。

「う、だ、めぇ」

 布団から頭を出して苦しそうに眉を寄せて顎を突き出したルーディアはいやいやというように首を動かした。

「どうした?ルー?苦しいのか?」

 そっと布団をずらし息をしやすいように空間を確保する。暑いのかルーディアの頬が赤く染まっている。

「もっ、ローウ…」

 俺の名を呼びかけて途切れた言葉に夢の中でも俺のことを思ってくれているのかと俺の頬が緩む。
 わずかに目蓋が動いた。すぐに愛らしい眼で俺にほほえんでくれるだろうと思って俺はルーディアを見つめた。

 ピクピクとまつげが動き…

(おはようの後は恥じらうかな?それともキスをねだるかな?)

 幸せな数秒後を予想した俺はまた頬が緩んだのを感じた。

 ルーディアはパチリと目を開け俺のことを見るとすぐさま枕をつかんで投げつけてきた。至近距離すぎて顔面でまともに受ける。痛くはないが驚いた。

「いじわる!嫌い!!」

 驚きに固まる俺をおいて寝起きの悪いルーディアとも思えない素早さで寝台を出て支度部屋へと行ってしまった。

 部屋へ一人残された俺。

(…解せぬ。夢の中の俺は何をしたのか)

 俺は己の準備のために自分の部屋へと向かう。

(ルーディアがいじわるとなじるほどのこと…悪くない。今日の夜はそっちでいくか)

 爽やかな朝の空気の中、清々しい気分で淫靡な計画をたてる俺はすれ違う者たちと貴公子然とした笑みをかわした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

君が好き過ぎてレイプした

眠りん
BL
 ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。  放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。  これはチャンスです。  目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。  どうせ恋人同士になんてなれません。  この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。  それで君への恋心は忘れます。  でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?  不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。 「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」  ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。  その時、湊也君が衝撃発言をしました。 「柚月の事……本当はずっと好きだったから」  なんと告白されたのです。  ぼくと湊也君は両思いだったのです。  このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。 ※誤字脱字があったらすみません

俺、ポメった

三冬月マヨ
BL
なんちゃってポメガバース。 初恋は実らないって言うけれど…? ソナーズに投稿した物と同じです。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

後輩に本命の相手が居るらしいから、セフレをやめようと思う

ななな
BL
「佐野って付き合ってるやつ居るらしいよ。知ってた?」 ある日、椎名は後輩の佐野に付き合ってる相手が居ることを聞いた。 佐野は一番仲が良い後輩で、セフレ関係でもある。 ただ、恋人が出来たなんて聞いてない…。 ワンコ気質な二人のベタ?なすれ違い話です。 あまり悲壮感はないです。 椎名(受)面倒見が良い。人見知りしない。逃げ足が早い。 佐野(攻)年下ワンコ。美形。ヤンデレ気味。 ※途中でR-18シーンが入ります。「※」マークをつけます。

童顔商人は聖騎士に見初められる

彩月野生
BL
美形騎士に捕まったお調子者の商人は誤って媚薬を飲んでしまい、騎士の巨根に翻弄される。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...