吸血鬼にとって俺はどうやら最高級に美味しいものらしい。

６ 諦めたらそこで終わりって、誰かが言ってた

「やっぱり１０月って神無月だから色んなものが来やすいし呼びやすい月なんだよ。土地神様がいないだけでよそ者との電波があわせやすいっていうか、だからこの時期敏感な人はちょっと大変なんじゃないかな。僕も結構敏感な方だから色々見えたりするんだけど。やっぱり１０月ってさぁ・・・・」



　休み時間に入りカワカミに続きを促すと自慢気にペラペラと話し出したので視線でだまらせる。



「だから出雲？」



「うん、日本中から神様たちが集まってるから。きっと山田くんのこと守ってくれてる土地神様もそこにいると思う。でも、ホント多分１１月には帰ってくれると思うからあんまり心配しないで。一応念の為呼び出し期間きっといたんだ。１０月３１日のハロウィンまでって。」



　カワカミの言葉に俺は僅かな希望をいだく。先月欲しかったゲームが立て続けて出たから無駄遣いしたのが今月の生活費を圧迫してる。正直無駄な出費を抑えたいという気持ちがわく。



　命と出雲への交通費どっちが大事だと言われるとそりゃ命だろうけど、ぶっちゃけ死ぬかもしれないって気持ちにあまりなってない。どっちかというと気持ちが良かった方が記憶に残ってしまっていて。なんというか危機感が薄いんだよな。やっぱり血を吸われたのに痛くなかったってことが大きい。痛みでいったら歯医者に行けと言われる方がよっぽどいやだ。



「じゃあ何もしなくても１１月には吸血鬼は消えるってことか？」



　またズキリと胸が痛む。なんだよ、これ。



「そうそう！やっぱり俺って天才だよね。もしものためのセーフティネット。万が一山田くんが吸血鬼に魅入られても大丈夫なように・・・・」



　自画自賛を始めたカワカミを横目に席にもどる。



　何一つ信用できないがカワカミの言葉以外に頼れるものもないのも真実だった。でも１１月になったらアイツは元いたところに帰るってことはそれまで少し位、血を吸われても平気ってことはないかな？だめかな？献血とかって間隔を最低４週間あけろとかいってたっけ？



　（じゃあもう・・・・１０月中に吸ってもらえないんじゃないかな？）



　はぁっと大きなため息を付き、もの凄くがっかりしている自分に気づく。



（え？なんで？おれ？あれ？）



　『吸血鬼に魅入られる』



　さっきのカワカミの言葉がリフレインされゾクリと背中の毛がたった。



　（すでに手遅れな気がする・・・・）



　結局放課後まで出雲に行くべきかどうか考え続けたけど答えはでなかった。血を吸われ続ければ確実に死に近づくというのに、俺の本能はここから離れたくないと思っている。夕焼けの光であかくなりはじめた教室の中には数人のクラスメイトが残っている。俺のホモ疑惑についてももう興味が薄れたのか視線を送ってくる奴らもいない。なんだか考えつかれて机に伏せているとツンツンと誰かが俺の頭を突ついた。



「んだよ、落ち込ませてくれよ」



　顔を上げると目の前には金の瞳。ふんわりと甘いバラの香りが俺の鼻腔に届く。超絶美貌が俺の事を心配げに見つめていた。



「ヤマダソラ、落ち込んでるのか？なぐさめるか？」

　

　また会えた！喜びが全身を駆け巡る。ふんわりと優しく微笑まれるとクラスメイトたちの前だというのにもっと近づきたくて俺の理性がぐらぐらくるんだが、どうしてくれる。

　

「精神面の不調も味に影響するんだ。悩みがあるなら相談しろ」



　顎をすくい上げてキスを落とされた俺の耳に女子の叫び声が聞こえた。



　あぁ、山田空ホモ疑惑、確定されちゃったな。



　ゆっくりと絡められる舌を自分の舌で追いかけながら色々諦めた。