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3.僕たち男の子♪イェイイェイ♪

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「だ、だから放して、放してくれ、ください」



 首元から顔を上げた彼の金の瞳が不機嫌そうに細められる。きれいな顔をしているだけあって剣呑な顔が怖い。



「ヤマダソラ、私は食事は静かに取りたい男だ。わかるな」



「お、お腹が空いてるなら早く帰ったほうがいいでしょう?ちょ、ちょっと放してほしい、ください」



 親兄弟とだってハグしない文化の純日本人の俺にはこの距離が辛い。緊張で妙な汗がでる。それにさっきから香るバラの香り。男だって分かってるけど、ここまで美形だとなんか、こう妙な気分になりそうで。至近距離がいろいろやばい。新しい扉を開けるつもりは毛頭ないんだ、俺は。



「静かにしてほしいと言っているんだが。こうも意思疎通がむずかしいとこの先が思いやられるな」



 呆れたようにため息をつかれ子供を見る目で見つめられた。「やれやれ」とそこにかいてある。



 お前は何を言っているんだ?ネットで見かけた有名なコラ画像が脳裏に浮かぶ。俺が言うことをさっきから、全然、全く聞いてないのはお前のほうだろう?



 ほぼ初対面の男を抱き込んでいる非常識なやつはお前だろう!グイグイと胸を押しているはずなのにびくりともしないのはどういうことだ?



「この濃厚で芳醇、けれど若さのせいか軽さの感じられる香り。一口目はしずかに味わいたいんだ」



 金の瞳がすがめられ鼻にシワが少し寄る。その表情に俺は一瞬見惚れてしまいイケメンは何しても絵になるなと思った。



『ザイ ライゼ 山田空』



 囁きが不思議な響きで耳に届く。まるで二人分の声が聞こえたような。



 は?なんて?聞き返そうとして声が出ない事に気づいた。



「上等な食材はそれにふさわしい食卓で味わうべきなんだが、今は邪魔が入る前にいただくことにする」



ぺろりと舌なめずりをしたその口からのぞく牙を見た俺は出ない声で絶叫した。強い力でしっかりと頭をつかまれ喉元をひらかれる、恐怖に震える俺の喉元はあっという間に彼の口に咥えこまれた。



 プツリと牙の先が肉に食い込み、次につめたい唇がふれる。痛みを感じたのは一瞬、すぐに麻酔を打たれたように力がぬけてぐにゃりと体がまがり彼に支えられる。さっき感じた恐怖心も一瞬で消え、なぜか彼を喜ばせたい気持ちでいっぱいになる。鼻腔をみたす馥郁としたバラの香り。俺という意識が香りの中でぐらりとかしいでいく。



 そのかわりに俺の血が彼の中で消化吸収されることで彼の一部となる喜びが生まれ、この美しい生き物に喰われる歓喜が、クリスチャンでもないのにハレルヤと叫び出したい衝動を起こす。



 喜びに震える体から歓喜の波がひくと腰の奥に澱のように熱が溜まっていく。く、ふぅんふぅんと鼻から息がもれだした頃俺の体は解放された。



「すごいなヤマダソラ。思った以上だ。4分30秒以上吸えないのが残念だ」



 金の瞳を興奮に光らせて彼が幸せそうに俺に微笑みかける。



 顎に指をかけられてゆっくりとくちびるが重ねられる。しびれるような快感が彼に触れた箇所からひろがり体の奥の熱とシンクロしていく。とろとろと蕩けた思考で彼の優しく冷たい唇をおいかける。



「ヤマダソラはいい子だな」



 やさしい甘い声が俺の耳を満たす。頬を手で挟まれ彼の金の瞳が俺の瞳を覗き込む。



『おまえはわたしへの神の最後の慈悲ホーニヒタウ。山田空』



 彼に名前を呼ばれた喜びに震える胸が是と伝えようとした。



「・・・・久しぶりのホーニヒタウ。飽きるまで私だけのものだ」



 ホーニヒタウ?飽きるまで・・・何故かその言葉に胸がチクリといたんで答えようとしていた言葉が出てこなかった。



「?」



 金の瞳が探るように瞳の中を覗く。永遠にも思えた一瞬の後、静寂を破ったのは彼だった。



「しばらく世話になる。ヤマダソラ」



 唇に吹き込まれるように告げられてもう一度唇を重ねられた。唇から広がる快感に全身が震える。ゆっくりと俺を味わう舌使いをもっと感じたくて目を閉じた。



 そう言えば俺のファーストキス、男と!!・・・・一瞬だけ形どった驚愕はすぐに凶暴な歓喜に飲み込まれていった。
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