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13 どーんと襲われる

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「例えばこういう湖の底に植物の種が落ちているとしよう。その植物の発芽の条件が満たされるまで冬眠状態で条件が整うまでまっているんだ。百年年でも二百年でも」

シダーさんは植物学を専門にしているだけあって色んな事を教えてくれる。

「あ、条件?水と空気と温度が発芽の条件になっていることが多い。魔素の多い時代だったら魔素も要因だろう」

「食べたらどうなる?うーん、その時代の動物は普通に消化してたと思うなあ。ポーション作りの過程でいくつかの植物と合わせて煮たりして溶かすでしょう。結晶が出来るけど動物の身体ならそれがいわゆる排泄物」

そんな魔素の多い時代の植物談義をしていたら視界のはしにチラリと見えたピンク色。

(またぁ?)

シダーさんは気づいてないようなのでとりあえず採集を始めることにして分かれる。しばらく無視して採集をしていたら後ろからぶつぶつ呟き声が聞こえてきた。

「しょうがないわよモブが言うこと聞かないんだもの。世界を救うためには犠牲が必要なときもあるって皆分かってくれる。愛されるのは私なんだもの。モブじゃない。モブなんて居なくなってもストーリーに変わりはない。私がいるんだもんモブは一時的なバグよ。バグなんだわ居なくなれ。居なくなれ。いなくなって」

あれれれれれーおかしいなぁ?また失礼なことを言ってるよ。失礼なっていうかこれはかなり犯罪予告では?犠牲ってどういう意味でつかってるのかな?振り向いて確認しようとした僕の目の前息のかかる距離にピンク頭さんの顔。近くで見てもかわいい、かわいいけど目、瞳孔開いてるよ!

(ひぃぃぃ)

「ねえ、お願いしたのにどうして言うこと聞いてくれないの?」

かっくんと音がしそうなくらい不自然に首をかしげるピンク頭さん。

(怖い怖い怖い)

あれだよ前世の妖怪のろくろ首ってやつみたい、首だけ伸ばして追いかけて来そう。

「悪いけどアーノルト様と離れようとしてもあちらが逃がしてくれないんだよ!僕のせいじゃない!」

怖くてとりあえず勢いだけで返事すると今度は反対側にかっくんと首をかしげる。しばらく僕の顔を眺め動きが止まる。

「それは、のろけ?僕は愛されてるんですっていう?モブなのに?私知ってるのよ、貧乏貴族のグレンツ家。モブの中のモブ。モブは居ても、居なくてもいいんだよ」

そう言いはなつとピンク頭さんは僕に飛びかかってきた。慌ててよけるけどなにか熱いものが額を掠めた。

「何で?避けられるの?モブなのに?私が今すぐそこ代わってあげるから、ほら、ほら 」

いつの間にか彼女の手に握られていたのは短剣。振り回しながら僕を襲ってくる。自慢じゃないけど剣の授業はさぼってたんだよ。女の子とはいえ凶器をもつ彼女を取り押さえる技術は僕にはない。だから逃げ出した。

シダーさんがいるはずの方向に向かって無我夢中で走る。

「助けて!」

叫んだ瞬間ずるりと滑った足元。気づけば湖のそばのぬかるみに足をとられていた。

「ダメだよ。モブはモブらしく誰にも気づかれず消えてね。魔王を倒さないといけないから私忙しいんだ」

転んでしまった僕を見下ろすピンク頭。

「リセットボタン、どこかな?」

キラリと光った短剣の先。曇り空なのにやけに眩しく光った。

ひゅっと空気を鳴らして振り下ろされたそれはやけに簡単に僕のお腹に吸い込まれていったんだ。

「あ、あ」

「ここかな?それともここかな」

「あ゛ぁぁぁぁー」

さくりさくりと何度もお腹の中に差し込まれる切っ先が朱にまみれている。熱いの?痛いの?僕は何でこんなに赤いの?動けない。動けない。動けない。

「バイバイ、モブモブ」

ぼやけた視界の中、僕の血でピンク色が朱に染まった彼女はにっこりと笑った。

僕が発見された時、赤く染まった泥濘に残されていたのは僕を湖に運ぼうとした小さな靴あとだけだったそうだ。
















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