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15 目覚めたいのに
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幽体離脱?というやつだろうか。
気がつけば僕は病室らしきところでいろんな管に繋がれた僕のことを上から見下ろしていた。
ピ、ピ、ピと電子音が僕の鼓動を告げる。ゆっくりゆっくりと落ちる点滴が時間の流れを可視化する。
ふわりふわりと漂ってするりと壁を抜けると思った通り病院の廊下に出た。どうやら体からあまり離れることは出来ないみたいで廊下の先にある自販機コーナーぐらいが精一杯。時折通り過ぎるナースやドクターの会話から僕が体の具合が治ったはずなのに2ヶ月も眠り続けている原因がわからないからみんな困っている、と知る。でもシオンがたびたび見舞いに来るから女性陣は喜んでいるらしい。
(困っていると言われても、僕のほうが困っているんだけんどなぁ)
何度体に戻ろうとしてもするりと通り抜けてしまうんだもの。
(ほーんと困っちゃうなぁ)
上から見下ろす目を閉じた僕は我ながら幼く見えた。
***
ある日いつものように眠り続ける自分の周りをふわふわと漂っていたらシオンがショーンと一緒にやってきた。ツンと尖った口元にショーンのご機嫌斜めの気配。
僕はショーンのそばに寄ってよしよしと撫でる。もちろんエア撫で撫でなわけだけど。抱っこして上げることも出来ないんだからせめてものお気持ち表明なわけだよ。シオンにはエアほっぺにチュー。
(おかえりなさい。なんちゃって……)
これで僕に実体があったら幸せ家族なのに……そんなことを思う僕のことを知らずショーンはぷりぷりと怒り出す。
「シオンは居なくて良いんだけど」
「俺だってケイに会いたい!」
「シオンはダメ!!」
「だからなんでそんなにいやがるんだ!俺はケイの……友達だって言ってるだろう」
「だめ!ママは僕のママだから!シオンはだめ!」
「お前ほんとその態度、ママが起きたらママに叱ってもらうからな」
「僕のママなの、シオンがママって呼ぶな!!」
だんだんと二人の声がヒートアップしていく、このままじゃ幼児と異能リーグのスターがケンカしてたって記事に書かれちゃうよ。
それに病院で大きな声を出したらダメだって。
ふわふわと漂いながら頑なにシオンを拒否するショーンを見つめる。しばらくするとシオンが諦めて廊下で待つと告げて病室を出ていった。
先生が話しかけて刺激を与えたら良いと言ったせいでショーンはここのところ絵本を持ってきては僕に読んでくれる毎日だ。4歳でひらがなはほとんど全部読めるという健気賢いショーンの姿はナースさんたちの心を打つらしく皆遠巻きに見守ってくれる。
よいしょとベッドの横の椅子に腰掛けてショーンがバックから取り出したのは、今日は「くろいうさぎとしろいうさぎ」だ。
ショーンのお気に入りで僕が何度も読んであげた本。読みすぎてショーンは全部そらで覚えているこれは読み聞かせというより暗唱だよねぇ。
かわいいうさぎの絵がお気に入りなのはもちろんのこと、仲良しのしろいうさぎとくろいうさぎが幸せな結婚式を上げてハッピーエンドに終わる最後にあわせてショーンも僕と手を繋いでダンスするのが寝る前のルーティーンになっていたこともある。
最後のページになった。
あ、ほらショーンが僕の手を繋いだよ。いつもしていたみたいに僕の手をゆらゆらする。重たい僕の手が小さい手から滑り落ちるのを一生懸命握りしめる。
「ママ、ママ、うさぎさんのダンスだよ。今日はおやすみなさいだよ」
そう言って僕がいつもしていたみたいにおでこにキスをおとす。
「ママのことは僕が守るからね」
寂しそうにつぶやくショーンを抱きしめたくても僕の手は素通りする。
(ごめんね)
どうすればいいのか。わからないよ。
僕にできるのはふわふわと漂うことだけ。
***
ふわふわ漂うことだけしか出来ない、そう思っていたのにどうやら転機が訪れたらしい。
シオンが病室に伴って来たのは異能学園で見たことのある同級生。
二人の会話をかいつまむと彼の異能を使って僕を起こしたいということらしい。
「上手く行ったら成功報酬。上手くいかなくても標準価格な」
「わかってる」
「じゃあはじめるか」
同級生くんがベッドの隣に腰掛けて僕の手を握る。上半身はベッドにより掛かるようにして目を閉じて動かなくなった。
ぐいっと腕を引かれる感覚の後、闇に包まれた。
気がつけば僕は病室らしきところでいろんな管に繋がれた僕のことを上から見下ろしていた。
ピ、ピ、ピと電子音が僕の鼓動を告げる。ゆっくりゆっくりと落ちる点滴が時間の流れを可視化する。
ふわりふわりと漂ってするりと壁を抜けると思った通り病院の廊下に出た。どうやら体からあまり離れることは出来ないみたいで廊下の先にある自販機コーナーぐらいが精一杯。時折通り過ぎるナースやドクターの会話から僕が体の具合が治ったはずなのに2ヶ月も眠り続けている原因がわからないからみんな困っている、と知る。でもシオンがたびたび見舞いに来るから女性陣は喜んでいるらしい。
(困っていると言われても、僕のほうが困っているんだけんどなぁ)
何度体に戻ろうとしてもするりと通り抜けてしまうんだもの。
(ほーんと困っちゃうなぁ)
上から見下ろす目を閉じた僕は我ながら幼く見えた。
***
ある日いつものように眠り続ける自分の周りをふわふわと漂っていたらシオンがショーンと一緒にやってきた。ツンと尖った口元にショーンのご機嫌斜めの気配。
僕はショーンのそばに寄ってよしよしと撫でる。もちろんエア撫で撫でなわけだけど。抱っこして上げることも出来ないんだからせめてものお気持ち表明なわけだよ。シオンにはエアほっぺにチュー。
(おかえりなさい。なんちゃって……)
これで僕に実体があったら幸せ家族なのに……そんなことを思う僕のことを知らずショーンはぷりぷりと怒り出す。
「シオンは居なくて良いんだけど」
「俺だってケイに会いたい!」
「シオンはダメ!!」
「だからなんでそんなにいやがるんだ!俺はケイの……友達だって言ってるだろう」
「だめ!ママは僕のママだから!シオンはだめ!」
「お前ほんとその態度、ママが起きたらママに叱ってもらうからな」
「僕のママなの、シオンがママって呼ぶな!!」
だんだんと二人の声がヒートアップしていく、このままじゃ幼児と異能リーグのスターがケンカしてたって記事に書かれちゃうよ。
それに病院で大きな声を出したらダメだって。
ふわふわと漂いながら頑なにシオンを拒否するショーンを見つめる。しばらくするとシオンが諦めて廊下で待つと告げて病室を出ていった。
先生が話しかけて刺激を与えたら良いと言ったせいでショーンはここのところ絵本を持ってきては僕に読んでくれる毎日だ。4歳でひらがなはほとんど全部読めるという健気賢いショーンの姿はナースさんたちの心を打つらしく皆遠巻きに見守ってくれる。
よいしょとベッドの横の椅子に腰掛けてショーンがバックから取り出したのは、今日は「くろいうさぎとしろいうさぎ」だ。
ショーンのお気に入りで僕が何度も読んであげた本。読みすぎてショーンは全部そらで覚えているこれは読み聞かせというより暗唱だよねぇ。
かわいいうさぎの絵がお気に入りなのはもちろんのこと、仲良しのしろいうさぎとくろいうさぎが幸せな結婚式を上げてハッピーエンドに終わる最後にあわせてショーンも僕と手を繋いでダンスするのが寝る前のルーティーンになっていたこともある。
最後のページになった。
あ、ほらショーンが僕の手を繋いだよ。いつもしていたみたいに僕の手をゆらゆらする。重たい僕の手が小さい手から滑り落ちるのを一生懸命握りしめる。
「ママ、ママ、うさぎさんのダンスだよ。今日はおやすみなさいだよ」
そう言って僕がいつもしていたみたいにおでこにキスをおとす。
「ママのことは僕が守るからね」
寂しそうにつぶやくショーンを抱きしめたくても僕の手は素通りする。
(ごめんね)
どうすればいいのか。わからないよ。
僕にできるのはふわふわと漂うことだけ。
***
ふわふわ漂うことだけしか出来ない、そう思っていたのにどうやら転機が訪れたらしい。
シオンが病室に伴って来たのは異能学園で見たことのある同級生。
二人の会話をかいつまむと彼の異能を使って僕を起こしたいということらしい。
「上手く行ったら成功報酬。上手くいかなくても標準価格な」
「わかってる」
「じゃあはじめるか」
同級生くんがベッドの隣に腰掛けて僕の手を握る。上半身はベッドにより掛かるようにして目を閉じて動かなくなった。
ぐいっと腕を引かれる感覚の後、闇に包まれた。
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