上 下
11 / 18

11 5年経ってもやっぱり好きだ

しおりを挟む
一目惚れと言う言葉があるけれど。今日の僕は何度目惚れになるんだろう。

シオンがいる。ただそれだけで僕の細胞の一つ一つが歓喜に震えた。

(この同じ空間に君がいる)

異能バトル会場になるアリーナでリングの上に選手たちが姿を表したのを目にした瞬間、ただそのことだけで僕の心はいっぱいになってしまった。シオンの姿だけフォーカスしたようにクリアに見える。ショーンがなにか言っていたが上の空で聞き流していたら膝の上に広がる温かい体温。腕は自然といつものように抱き抱えるけれど目線はシオンから離せない。

僕が知っていた頃の彼よりも少し大人になった姿は街にあふれる広告物などで見かけていたけれど。

(実物はもっと、すごく……かっこいい……)

人を引き付ける天性の輝きに大人の男としての魅力が重ねられて女性人気が高いのも頷ける。リング衣装が肌を露出しているせいでセクシーさもある。そんなシオンが観客席に向けていくつか投げキッスを飛ばすとキッスの飛ばされた方角から大興奮の叫びが上がった。

(反則……でしょ、なにそれ)

女性ファンの黄色い声援もむべなるかなとしか言いようがない。僕とは違う世界で輝くシオン。彼が動くたびにキラキラと輝いているようなエフェクトが見える。僕が恋い焦がれても届かない場所で。同じ空間にいるのに届かない手、届かない想い。なのに惹きつけられて僕の全てが君を求める。

(ほんとにかっこよすぎるよ)

夢の中でシオンと結ばれた日のことやそれ以前のエッチなあれこれがシオンの色気に当てられて急に思い出される。同時にあれが夢だったんだって思い知らされる。

(遠いなぁ……)

鐘の音がなった。

試合開始の合図でリング上で動き始めた彼の姿に目が離せない。不敵な笑み。相手を挑発する仕草。素早い身のこなしで相手の攻撃を避け得意の突きを急所に叩き込む。肌の見える衣装のせいで胸の上を流れ落ちる汗がライトを返す。

それは夢の中僕がすがったシオンの胸よりもずっとたくましくて。

(あぁシオンに……)

むせ返るようなシオンの香りに包まれて結ばれた夢の中での出来事を思い起こす。もしも今のシオンとそんなことが起きたなら……そんなことを考えるだけで体の奥に封じ込められた願望が蠢き出す。熱い体の奥をこじ開けて砕いてもらえたなら。

(僕は……)

***

ざわざわと周囲が騒がしくなり気がつけば試合が終わっていた。ぼんやりと熱の引いていく会場を眺めていた僕は皆が席を立ち始めてやっと正気に戻った。
ふわふわとした気持ちがやっと薄れて隣にいるはずのショーンを見る。

「すごかったねぇ」

かけた言葉に返事はない。
姿もない。

(居ない!)

僕はあわてて立ち上がる。試合終了でまばらになりつつある客席のどこにもショーンの姿は見当たらない。

観客席から外へつながる通路へと転がるように駆けてトイレ、自販機のあるスペースまで来てもショーンの姿はない。でもあの子が一人で勝手に外に向かうとは思えない。だっていつも言いつけを守る子だ。僕が席にいると思ってトイレに行ったとしても勝手に外へ出て家に向かうことは絶対にない。

(まさか誘拐?)

背中にじっくりと嫌な汗をかく。

(異能持ちの子供をさらうグループが異能探知の能力者を使っていたら?そんな奴がショーンを見たら……)

嫌な想像に血の気が引いていく。

(僕はばかだ!)

吐き気に襲われ壁に手をつきよろけそうな身体を支える。

(誰に助けを求める?警察?でも前みたいに犯人と裏でつながってたら?足りない。僕だけじゃ。助けられない。あの子を探れる能力者が必要だ。居場所さえわかれば助けられる。遠くに連れて行かれる前に。考えろ考えろ!!人脈があって裏切らない……)

(シオンなら?そうだ、シオンなら!!まだここにいるはず!)

名前も知らない街角でポケットの中の家の鍵を確かめて安心するようにシオンの名をつぶやく。

(幼馴染だっていったらきっと助けてくれる!)

今すぐバックヤードの控室を訪ねなければと周りを見る僕の視界の端に黒い何かが映った。

『ママ!!』

「ショーン?ショーン!!」

暗い廊下の奥から僕を呼ぶその小さな影に泣きそうなほど安堵して僕は駆け寄った。

『ママ!こっちこっち!良いもの見つけちゃったの!』

「まって、どこ行くの!!」

小さな影が廊下の先をひょいと曲がり見えなくなる。僕の不安が戻って来て恐怖にも近い気持ちで駆ける。

『ママこっちだよ』

先に角を曲がったショーンが声を上げるけれど角にたった僕には、廊下の先が暗すぎてどこにいるか見えない。

『こっち』

「どこ?ショーン?」

声を頼りにほぼ暗闇になった廊下を進む。バックヤードに当たる部分だから省エネのために電気を消してあるんだろうけど非常灯さえ見えないなんて建築基準法違反では?

「ショーン、ふざけてないでお家に帰ろう。こういうところは関係者以外立ち入り禁止なんだよ」

『ここなの、早くママ!』

少し先でドアが開く音がし部屋の中から明かりが廊下へと伸びる。
その光にホッとしつつ僕は後を追った。

「見つかったら怒られちゃうよ」

そろりとドアの影から部屋を覗く。10畳ほどの部屋に台車や乱雑に積まれた箱がそこここにおいてあり、一部大人の背丈ほどの箱もあるがショーンの姿が見えない。

「かくれんぼしないで出ておいで」

子供にとっては隠れたくなる部屋ではあるなと僕は部屋に入る。

「遊びたいなら公園で遊んであげるから」

『じゃあいっぱいあそぶ?』

声の聞こえた箱の影を覗き込む。

『たくさん、あそびましょうね』

箱の影から僕を見てニタリと笑ったのは陰気な目をした中年男。

『久しぶり、ケイくん』

ショーンの声が僕をそう呼んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ネコ科男子は彼に孕まされたい!

白亜依炉
BL
「好きになっちゃったんだよ…っ、お前が!! だから本気で欲しかった! お前の精子が!」 獣人と人間が入り交じり生きる世界。 発情期をやり過ごす為にセフレになってくれた友人。 そんな彼を好きになってしまった猫の血を引く高校生は……―― 猫の日なので猫っぽい子のBLが書きたかったんですが、なぜかこんなことになっておりました。 今回、微量にだけ『♡喘ぎ』と『濁点喘ぎ』、『淫語』が含まれます。 苦手な方はご注意ください。お好きな方は物足りないだろう量で本当にすみません。 でも楽しかったです。また書きたいな。 ――【注意書き】―― ※この作品は以下の要素が含まれます※ 〇全体を通して〇 男性妊娠・セフレ・中出し 〇話によっては(※微量)〇 ♡喘ぎ・濁点喘ぎ・淫語 2023/03/01 追記: いつも閲覧、お気に入り登録をありがとうございます! 想定した以上の多くの方に気に入っていただけたようで、大変ありがたく拝み倒す日々です。 ありがとうございます!! つきましては、おまけのような立ち位置で続きもまた投稿したいなと考えております。 投稿先はこの作品に続けて載せますので、気になる方は気長にお待ちください~!!

【完結】魔王様は勇者激推し!

福の島
BL
魔国のいちばん高い城、その一番奥に鎮座するのは孤高の魔王…ではなく限りなく優しいホワイト社長だった。 日本から転生し、魔王になった社畜は天性のオタクで魔王の力というチート持ち。 この世界でも誰か推せないかなぁとか思っていると… …居た、勇者だ!!! 元虐められっ子イケメン勇者×少し抜けてるオタク魔王 男性妊娠はおまけ❶から またおまけ含めて1万字前後です。

転生者の僕は弟と王子の溺愛執着から逃げられない

grotta
BL
エリック・フォスターは高熱を出したのをきっかけに自分が姉から借りたBL小説『想い出のローズガーデン』の登場人物(脇役)だと思い出す。 そしてこのままだと弟のヴィンセントは悪役令息として断罪されると気づいたエリック。 なんとか弟が断罪されないように奮闘するが、その結果なぜか物語の流れ自体が変わり、王子と弟から溺愛執着されてしまい――? 【執着系美男弟×平凡兄】 ※弟×受と王子×受のベッドシーン有り(3Pはありません)

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

妻を寝取られた童貞が18禁ゲームの世界に転生する話

西楓
BL
妻の不倫現場を見た後足を滑らせ死んでしまった俺は、異世界に転生していた。この世界は前世持ちの巨根が、前世の知識を活かしてヒロインを攻略する18禁ゲームの世界だった。 でも、俺はゲームの設定と違って、エッチに自信なんかなくて… ※一部女性とのエッチがあります。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

転生したら親指王子?小さな僕を助けてくれたのは可愛いものが好きな強面騎士様だった。

音無野ウサギ
BL
目覚めたら親指姫サイズになっていた僕。親切なチョウチョさんに助けられたけど童話の世界みたいな展開についていけない。 親切なチョウチョを食べたヒキガエルに攫われてこのままヒキガエルのもとでシンデレラのようにこき使われるの?と思ったらヒキガエルの飼い主である悪い魔法使いを倒した強面騎士様に拾われて人形用のお家に住まわせてもらうことになった。夜の間に元のサイズに戻れるんだけど騎士様に幽霊と思われて…… 可愛いもの好きの強面騎士様と異世界転生して親指姫サイズになった僕のほのぼの日常BL

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

処理中です...