上 下
13 / 19

13 恋の兆し?

しおりを挟む
レオさんは誕生日の次の朝にご機嫌で帰ってきた。

ドールハウスを覗き込むレオさんの気配にいつものように狸寝入りを決める僕。レオさんは勤務開けに祝い酒でもひっかけてきたのか微かなアルコールの匂いをまとっていた。

「昨日は誕生日だったから多めに持っていけるものをお願いしていたんだがそれを皆に誉められてな。いつもおいしいものを作ってくれるテレザだから甘えてしまった」

嬉しそうな声に僕もあの無茶振りに答えてがんばって良かったなぁと思う。まぁレオさんが甘えてるのは家政婦のテレザさんではないんだけど。言えないけれど僕だよ!と主張したくなっちゃうよね。でも素敵な誕生日になって良かったね。その一端を僕のパンがになったんだから素直に嬉しい。

「この前は日替わりで色々作れないって怒っていたかと思うんだが最近はわざわざ暖かいままになるようにオーブンに保温しておいてくれるし何か心境の変化があったのかと思うんだが」

心境ってか作る人が変わってるんだよ、と思いながら僕は眠った振りを続けていたら話が変わってきた。

「やはり同僚達がいうように俺のことを好いているんだろうか?」

(は?)

「だが彼女は夫もいるし年頃の娘もいる年だし。流石にそんなことはないと思うんだ」

(そうだよ。なに言ってんの)

「でもこう毎日暖かい食事とデザートを用意してくれるのは普通のことではないし、やはり家政婦と雇い主以上の関係を求めているのかもしれない。しっかりとお断りしたほうがいいのか」

(うわー!ちょっとまってよ、非モテ男子みたいなこと言い出したよ。女子が普通に親切にしているのに惚れてんのか?って勘違いするやつ。家政婦さんにとって料理は仕事でしょう?ってか家政婦さんにそんなこと言ったらそんな料理作ってないって言われちゃうよ。僕が作ってるってばれちゃうかも、やめてー!!)

「そういえばあの黒猫が持っていったパンを一個横取りしてあっという間に食べてたんだが身体を壊さないといいんだが」

(フロー?え?あ!玉ねぎはいってたよね?ダメだよ!あ、でも使い魔だから大丈夫なのかな?)

普通の猫じゃないんだからきっと大丈夫なはず。僕はそう願いながらレオさんの話を聞いていた。


※※※

その日の夜レオさんが仕事に出かけた後、大きな身体になって台所に行って見たらありがとうのメッセージとピンクの小さな花束が花瓶に活けてあった。

『大変美味しかった。ありがとう』

(うーん、このくらいなら怪しまれない?)

メッセージを読みながら何の気なしに触ったバラに似たピンクの花は触れた拍子に花粉を散らし僕の指先を黄色にそめた。指先からふわりと甘い上品な薫りがたった。

(見た目は薔薇に似てるのに香りは百合みたい)

くん、と鼻をならして優雅な薫りを胸の奥まで吸い込む。前世はともかく今の見た目美少女な僕には花の香りは良く似合う。

(百合……そういえば百合は猫には毒だったっけ?)

フローのことを考えながらじゃがいもの皮を剥き刻む。フライパンにバターを落として刻んだじゃがいもを半分広げた上にチーズを撒くそれから残りのじゃがいもを広げて。蓋をして下がカリッとしたらじゃがいもガレットの出来上がり。

(油と炭水化物の組み合わせに間違いなし!)

葉もの野菜を千切りにしてベーコンとスープに仕立てる。胡椒をきかせて、はい、美味しい。

「お腹ぽかぽか元気になーれ」

今日も恩返しを済ませた僕は満足してドールハウスへ戻るのだった。


※※※

そして翌日の朝、帰ってきたレオさんなんかおかしなこと言い出したよ。口調がうきうきしてるんだけど、どうしたの?

「料理のことだがテレザが知らないうちにテレザの娘が作っていたらしい」

(は?)

「こっそり母を助けたかったなんて、健気な良い子だな」

(いや!それをいうなら健気なよいこは僕!!)

「会ったことはないはずだが…やはり私を好き?」

(いやいやいや、なんて?またそんな非モテ思考する?てゆうか僕の料理を自作発言とか何がしたいんだよその子はちょっと腹がたつんですけど)

「まぁ、女性も色々だからな。親孝行がしたかっただけかもしれない」

(そうだよねぇ。僕の妹みたいに兄にはめちゃくちゃわがまま放題なのに内弁慶とか、会ったことない子の考えなんて分からないよ)

「私みたいに人の機微がわからない男には難しいな」

(あれあれあれ?レオさんも前世の僕と同じ非モテ?)

いやいやいや。前世の僕はごくごくごく普通の大学生だったし、思い出せる限りでは青春はまだまだこれからだったんだから。非モテとかって自分をカテゴリーにいれて逃げをうつのはカッコ悪いよね。でもレオさん生活水準的に平民以上の階級だと思うのに婚約者とかいないのかな?

「だが……お礼をしなくてはと思うんだ」

薄目を開けて見たレオさんは髪をいじったり視線がキョロキョロしたりして落ちつきがない。そのそわそわした感じ、やっぱりちょっと好きになってない?

(レオさん、ちょろい!!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが

ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク 王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。 余談だが趣味で小説を書いている。 そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが? 全8話完結

視線の先

茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。 「セーラー服着た写真撮らせて?」 ……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い

たけむら
BL
「いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い」 真面目な幼馴染・三輪 遥と『そそっかしすぎる鉄砲玉』という何とも不名誉な称号を持つ倉田 湊は、保育園の頃からの友達だった。高校生になっても変わらず、ずっと友達として付き合い続けていたが、最近遥が『友達』と言い聞かせるように呟くことがなぜか心に引っ掛かる。そんなときに、高校でできたふたりの悪友・戸田と新見がとんでもないことを言い始めて…? *本編:7話、番外編:4話でお届けします。 *別タイトルでpixivにも掲載しております。

処理中です...