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50 聖女の力

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「いやぁぁぁぁぁぁ!!エミー!!」



 アストリアの叫び声がどんどん遠くなる。重力に逆らって突き刺されたまま持ち上げられる体が自重でエントの枝先から幹にむかってずり落ちる。



「っか、っく、ぁあ、あかきぃっ、ぐっごほっ・・・・」



 突き刺されたお腹のさらに奥にエントの枝が入りずるりと背中へぬけた。詠唱どころじゃなく血を吐きながらむせる。耐えられない痛みに手足が痙攣をはじめる。



 死んじゃう。死んじゃう!!

 痛い!



 震える足を伝わってぽたぽたと地上に真っ赤な雨が降る。私を見つめる拳ほどの真っ黒な目がどんどん大きくなりマーブル模様のように赤い筋が広がっていく。



 ぐんぐんと天へと伸びていくエントと一緒に空へ空へと連れて行かれる私。ガクリと首が垂れ地上の景色がぼやけて見える。ピンクの小さな頭が私を必死に見つめてる。その側に何人かの騎士達が見える。最初の一体目の赤目エントに負けないほど大きくなったエントは私を突き刺したまま大きく枝を振った。



 びゅうっと風を全身で感じだらりと垂れ下がった手足が遠心力に従って外へとしなる。



 ・・・・寒い。



 血だけじゃなく魔力もどんどん奪われたせいで意識がかすみだす。



「聖女!はやく光魔法を!!」



 誰かの叫び声としばらくして感じたあたたかい光の海。



 そうだよ。アストリアは聖女だった。パニックで私が燃やすこと考えてたけど最初から光魔法を使ってくれていたらこんな痛い思い・・・・



 そんな恨み言を思いながら闇にひきずりこまれていった。



 -----------------------------------------------



「ユリウス。どうしよう。エミーが・・・・私のせいで」



「静かに。傷口はふさがったんだ。今は安静にさせてあげよう。君も少し休んだほうがいい」



「私が、私が・・・・」



「泣かないで、さあ私達がいると彼女も落ち着かないよ」



 パタリとドアが閉じる音が聞こえて静けさが戻ってくる。



 アストリアと殿下の声が無いだけでこんなに静かになるんだ。暗いなぁ。夜になったのかしら。

 体が重いなぁ。

 ベッドの中に沈んでいってしまいそう。



 指先一つも動かせない。目も開けれない。そんな状態だけど耳だけは聞こえる。

 耳をすませば遠くに聞こえる人の気配。たまに誰かが入ってきては私の様子を伺って出ていく。



 起きてますって言いたいけど。目も開かない声も出せない。私の体が私を閉じ込める檻のよう。退屈で意識が途切れる。



「エミー、済まない」



 気づけばすぐ側に人の気配。誰かが私の手をとる。大きくて硬い剣だこのある手。手の甲に触れる柔らかな気配、唇を押し当てられてるみたい。軽く香る香りはスパイシーでセクシーで、側にいる人がランバート様だって確信する。



 会いに来てくれたんだ。って嬉しくなる。



「約束したのに。君を守れなかった。済まない」



 絞り出すように苦しげな言葉にただただ戸惑う。約束?約束って?なんだっけ。



「君を守れるように強くなったのに」



 はぁっと深くため息を付いて立ち上がる気配。



「また来るよ」



 ふわりと額に柔らかな感触がふってきてすぐに離れた。そのキスに動かせない体の奥がキュンとした。幸せな気持ちが体を温める。ポカポカと気持ちよくて暗闇の中たゆたう。



「ゆっくりお休み」



 パタリと閉じられたドアからランバート様の気配が消えてしばらくしてそろりと開かれたことに空気の流れで気づく。



 こんどは誰?



 その人は足音を立てないように静かにベッドの横にきて黙ってそこにいるみたい。



 その人の存在を疑いたくなるくらい時間が過ぎた頃



「・・・・ごめんなさい」



 ポツリとこぼされた声は私の良くしっている声で、でも聞いたことがないくらい暗くて冷たい声だった。



 ・・・・アストリア?





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