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46 泣きっ面に蜂

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  アストリアのお世話をなんとかこなしてふらふらと天幕から離れて木立に向かう。魔の森なわけだから一人でうろつくなんて褒められたものじゃない。ましてや私達はここに討伐のお手伝いに来ているわけで。でもどうしても天幕の中で幸せオーラのアストリアから恋バナをされるのはつらかったから、一人天幕を出た。


 木立の少し先に影を認めたときには、それが食用として人気の豚形の魔物だとすぐに気づいた。出会い頭に巨体を瞬発力に乗せて一直線に襲いかかってくる好戦的な性格の魔物だ。その大きな瞳がぎょろりと私を見つめた時に私が叫ばなかったのは、エルフ先生のことしゃくりあげて泣き出しそうな声を殺しながら一人になれる場所を探していたからで、普通だったら私だってキャーって可愛い悲鳴の一つくらいあげられたんだと思うんだ。


 実際は「ぐぉぁっ!」ってなんか後ろから首しめられたみたいな変な声が出ちゃったんだけど、ホント人が周りにいなくてよかったよ。


 その乙女らしくない声に反応して野豚魔物はワタシにむかって勢いよく間をつめてきた。白目をむきながら興奮によだれを振りまき驚くほどの速さで巨体がせまる。


 ひぃっ!!


 とっさに身体強化魔法で手近なところに落ちていた石をぶん投げたら、魔物の眉間にめり込んで一瞬でやっつけちゃったのは、まぁ、ほら、傷心の乙女の火事場の馬鹿力っていうか、なんというか。カイル様のエロコンバーターで貯められた魔力のおかげなのかな。


 そんでもってその大人の男性ほどの背丈があった魔物の後ろから子供の背丈ほどの野豚の魔物たちが5匹程現れた時に、つい慌てて炎の魔法で攻撃してしまって。こんがり美味しい匂いを漂わせながら焼けた子豚魔物から周りの木々に火が燃え移って、びっくりして必死に詠唱して水魔法使ったらどうやら魔力が多すぎたみたいで、大雨が降り出して、私も全身びしょ濡れで、寝てないわエルフ先生のことで落ち込んでるわ、泣きっ面に蜂とはこのことかー!!って滴る雨の水滴とくもりでメガネがじゃま!前もろくに見えず走って、来た道をもどってアストリアがいる天幕に慌てて駆け込んだら、なんでか目の前に上半身裸の男性がびっくりしているんだけど、えっと、これはラッキースケベっていうやつ???


 って今ココ。


 超いらないんですけど?メガネのせいでよく見えないけどユリウス殿下と一緒にお供で来た人じゃないのは確か。エルフ先生のことで落ち込んでるんだからエロイベントなんて今ほんとうにいらない!


「し、失礼しました!!」


 踵を返して天幕を出ようとした私の腕が掴まれる。引き寄せられながらくるりと体の向きを変えられて太い腕に抱き込まれその裸の胸に強く押し付けられた。


「まぁそうあわてなくていいだろ?濡れたままだと風邪を引くぞ」


 ねっとりとした話し方に、今まで肌を合わせた男性の誰にも感じなかった嫌悪感で全身の毛が逆立つ。なんだこれ!


「ちょ、離してください」


「うわ、下着までぬれてるんじゃないか?」


「へ、ちょっと、何してるんですか!!」


「手伝いだよ。濡れたままだと風邪引くって早く脱いだほうがいい」


「だからって、なんでスカートの中に手をつっこんでるんですか?ちょっとやめて!!」


 硬い大きな手で触られた足からざわざわとした嫌悪感が更に広がる。


「あー女の子っていい匂いだなぁ。ちょっと地味だと思ってたけどなかなかいい体じゃないか」


 すんすんと首元に顔が寄せられて熱い舌が喉元に這う。べちょりとした舌が気持ち悪い~!ちょっとほんとにこの人やだ!!


「やだ、匂いかがないで!!なめないで!!」


 ぎゅうぎゅうと胸を押すけどびくともしない。やはりこの人騎士だ。


「ちょっとだけだから、静かにしよう。バレたら騎士を誘惑した悪い侍女だって怒られちゃうよ」


「やだやだやだ!!」


 なんで私が加害者みたいな言い方するんだ、この人。ムカつく。なんて手が早いの。騎士にあるまじき振る舞いじゃないか。この人絶対こういうことしなれてる。


 ・・・・ほかの侍女さんを同じように言いくるめて手を出して来た?弱い立場の女性を弄んできた?なんて卑怯な・・・・ゲス。


 頭の奥の血がしずかにコポリコポリと沸騰する。


「ひどくすることだってできるんだぞ。静かにしような」


 一段低い声が耳元で囁かれて耳の中にまでその舌が侵入する。スカートの下では足の付根に向かって手がうごめいている。


「静かに・・・・できるわけないでしょ!!」


 男の指が下着にかかった時に思い切り頭を男に向けてぶつけてやる。


 ガツリと嫌な音がして私の頭にも痛みが走ったけど、やっと男の腕が緩んだ。突き飛ばし距離をとる。


 鼻を押さえた手から赤いものが溢れて驚きにひらかれた男の目が怒りの色に染まる。


「優しくしてればつけあがりやがって!」


 次の瞬間、雄叫びを上げながら男が本気で飛びかかってきた。


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