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42 他人の恋路

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 シャルルくんが去って一人天幕に残された。聖女専用天幕ということで私達の荷物がすでに運び込まれている。

 天幕の中を確認しながらもセクシー筋肉様のことをどうしても考えてしまう。ここは魔族討伐の最前線から少し離れているとは言え、当然危険な場所だ。だからこの前の朝のようなことはきっと無いとは思うんだけど、さっき一瞬見えたあの微かにあがった口の端がセクシーで・・・ポンコツボディがどうにも彼に触られたときのことをリフレインして・・・

 ひとりでに顔がゆであがっていく。

 だ、だめだわ。覚えている中ではセクシー筋肉様との朝が一番最初だからなのか、体が彼の指先を、くちづけを、体の最奥ではじけた肉杭を思って潤みだす。

『かわいいな』

 耳元でそう囁いた彼の声が聞こえた気がしてドキドキとして挙動不審になってしまう。

「だめ!だめ!早くお部屋を整えないとね!」

 ピンクな空気を振り払いたくてバサバサと寝具をひろげ振る。
 ところが急な来客とあって寝具は風通しがしてなかったらしくホコリの匂いが鼻腔に届いた。
 あ、しまったと思うまもなくホコリが舞いはじめ、ゲホゲホと咳をしながら慌てて天幕の入り口を開く。

 バサバサと引き続き天幕の外で寝具を揺すっていると後ろから声をかけられた。

「侍女殿、食事をお持ちしました。聖女様は殿下方と別の天幕で取られるとのことでしたので」

 お盆を持ったシャルルくんが再び現れた。ホコリまみれの私としては食事をとる前に天幕の空気を入れ替えておきたいんだけどな。

「ありがとうございます。よろしければそちらに置いておいていただけますか。今室内を整えますので」

 パタパタと軽く体についたホコリをはたき落とし寝具を天幕にいれる。大きく天幕の入り口をあけておけば後はなんとかなるかともう一度入り口の布をたかく跳ね上げる。

 シャルルくんは、食事を持って入ってくる。机にお盆に乗った食事を置いてくれたシャルルくんは何かを言いたそうに口を開きかけてまた閉じる。

 そんな彼に目で問うとやっと言葉を紡いだ。

「・・・・聖女様はおげんきですか?」

「お元気ですよ。今回の遠征も聖女として国を支えたいと言うお気持ちからご自分でご希望されました。ほんとうに頑張ってらっしゃいますよ」

 そう応えるとシャルルくんはホッとしたようにうすく唇をあけて軽く微笑んだ。

 そうだよね。好きだった女の子だもんね。幸せになってほしいよね。

「そうか、よかった」

 シャルルくんがアーティを好きだった気持ちが今どういう風に落ち着いてるかはわからないけど、今ここで頑張るきっかけをくれたアーティと会うという彼の気持ちを想像するだに甘酸っぱい気持ちになっちゃう。

「君も元気そうで何よりだ」

 そんな親戚のおばちゃんの気持ちでシャルルくんを見ていたら彼にニヤリと嘲笑われた。ちょっとこう、なんか意地悪な感じで。

「へ?」

「ヴィンセントを倒すほど強くなったらしいし。君がそばにいるなら聖女様の守護は大丈夫そうだな」

 そのからかう口調にまごついてしまう。攻略対象なだけに顔が良いシャルルくんが意地悪そうにそんなこというとえぇぇぇ!!なんで知ってるの?

「ヴィンセントは私の幼馴染なんだ。まさか君があいつをくだすとはね」

 くくくっと笑うシャルルくんの瞳にはまだからかいの色が濃い。

「その腰の魔道具、ヴィンセントが作ったやつだろう。使ってやってるんだな」

 シャルルくんに言われて思い出す。腰のリボンに通して彼の魔道具をつけていたことを。
 そしてこれをわたしてくれた時の彼の唇が触れた優しい感触も・・・・

 じょじょに頬が熱くなってくる。

 あの時のヴィンセントの言葉ってやっぱり告白?だったよね。そしてその彼が作った魔道具をつけているって、え?やっぱり思いを受け入れたって思われるの?シャルルくんはヴィンセントの気持ちを知ってるってことよね。

 シャルルくんを横目で見ると彼は小さく息を吸い込んで目を見張った。

「え、あの、その、せっかくいただいたので防御魔法の展開の補助にというだけで、深い意味は考えてませんでした。すみません!!」

 赤くなった顔が恥ずかしくてシャルルくんから視線を外すように下を向いて腰の魔道具を外そうとするとシャルルくんはあわてた。

「あいつの態度が問題だってことは私も学園で見て分かってる。でも友としてあいつは悪いやつじゃないし腕も確かだ、魔道具くらい使ってやってくれ。ここは戦場なんだから危険から身を守る術は一つでも多いほうがいい」

 そんなに焦る?ってくらい慌てる彼の言葉にすこし冷静になりシャルルくんの方を見る。

「あぁ、もう!さっきみたいな顔はやめてくれ!!」

 なんか、理不尽に怒られた、解せぬ。
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