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守ると決めたから

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「さぁ気持ちいいなら気持ちいいというんだ」



「あ、いぃ♡いぃぃん♡」



「イクときはちゃんと許しを請えと言ったのに。何回同じ間違いを繰り返す気だ」



「あぁっお許しください。殿下!でんかぁ!!」



 部屋の中から絶えず聞こえてくるのは淫靡な水音と喘ぎねだる男の声。



 それに圧倒的な支配者の声が冷たく響く。扉の外で中の様子を伺う貴族たちはあまりの嬌声にあるものは顔を赤くしあるものはその声の主を思って青ざめた。



 辺境伯は第三王子に屈したという噂話が王国全土に広まったのはその後すぐのこと。



 次の王位継承者について第一王子を推す第三王子が強力な辺境伯を味方につけたため、第二王子派閥だったものたちは次々に第一王子に恭順を示し王国内の権力争いは静まることになった。







 ******



 王国内で最年少の辺境伯となったゲオハルトであったが彼が辺境伯になってからというもの隣国との関係は落ち着いていた。



 それはつまり国内で権力争いをする時間と金の余裕ができたということにもなる。若くして辺境伯となったゲオハルトの辺境伯領が近年豊作で税収が上がっていたことも金の亡者たちに目をつけられる原因となった。



 王都でも辺境伯領の財を羨む小物が王の耳にくだらないことを吹き込みだした。

 ゲオハルトが独身で縛られるものがないということも疑心暗鬼を生じたもとだろう。



 元来王族というのは血で血を洗う歴史の上にのし上がってきた一族だ。



 ゲオハルトに親戚筋の娘たちを嫁がせ枷にしようとしても断り続けたその態度がリヒトの父王の心に一つの黒いしずくを落とした。



 最初は澄んだ水に薄められていた黒も落とされるそのしずくが増える度にだんだんと濃さをましてゆく。



 いつまでも独り身を貫く姿勢はいつでも国を裏切れるよう枷を増やさないためだと勘ぐる貴族の声がだんだんと王の心を揺さぶるようになっていた。





 即位二十年の式典に辺境伯を呼び寄せて意思を確認すべきだ。そして王家への叛意が認められ次第処刑すべき!



 その声に父王がうなずいた時リヒトは決意を固めた。



 薄汚いネズミ共がゲオハルトの黄金の食料庫に群がるために偽の証拠をでっち上げることなど簡単に予想がついた。



 いくら謀反を起こす気持ちなどないと王に説いてもやがて疑いの心は戻ってくる。王族として二回も生を受けたリヒトにはそんなことは当たり前のこととして見えていた。



 父王は再びゲオハルトを疑うようになり貴族たちはそれを煽り私腹を肥やそうとする。



 ではゲオハルトを生かすためにはどうすればよいのか。



(お前が誰かに操をたてていたのが悪いんだよ)



 ゲオハルトが誰とも結婚しないのは死んだ前第一王女を慕っているからだという噂はリヒトの耳にも入っていた。前世の自分を好きで居てくれるのは嬉しいがそのために命を落とされるのはたまらない。



 リヒトには答えが見えた。



 簡単なことだ、本来の計画のように王家に取り込めば良いのだ。もともと嫁を取らせて縁続きにするつもりだったならリヒトの愛人としてゲオハルトが王家に属することを示せれば良い。

 そう計画を思いついたリヒトはまたたくまに兄たちからの協力を取り付けた。



 兄たちにしてみれば王位継承権を放棄するという弟の申し出は渡りに船。しかも同性同士なら辺境へ行ってあらたな火種となる王位継承者の子をつくる心配もない。



 長兄は王になるつもりだったし、優しく気弱な次兄は権力争いにうんざりしていたのも幸運だった。



 長兄も次兄もリヒトの願いを叶えるために媚薬に閨の教師の手配にと協力を惜しまなかったのでリヒトの兄たちへの信頼も増し兄弟仲が深まったのも良かった。



 嬉々として計画をすすめる兄弟たち。そこには年下王子に性的に喰われるゲオハルトへの気遣いなどかけらもなかった。さすがは王族というかリヒトの血族というべきか国を治めるための犠牲が辺境伯の操一つで済むのならなんの問題もない、それが彼らの共通認識だった。



 国のために人質になれと言われればすぐに敵国へ送られても仕方がないのだと言い聞かせてきた父王の教育の賜物といえばそうかもしれない。



 だからわざと人耳につくよう晩餐会場から近い部屋でゲオハルトをグチャグチャに陵辱したのだ。誰も今後王家のためにゲオハルトを殺す必要がないように。



 その際扉の外にたまたま居合わせることになった貴族たちは噂好きを選んであった。



 また今回ゲオハルトを陥れようとした貴族たちの経済状況を調べあげ借金まみれの貴族たちは王家から官吏を送りこみ、綱紀粛正をすすめた。



 平和すぎる時代に貴族たちの息抜きのためのちょっとした話題提供と将来の不安の種を取り除くことができると王も喜んだ。



 王族側としては三方良しだったのだがゲオハルトとしてはどうだろう。気を失ってしまったゲオハルトを眺めちらりとよぎった考えをリヒトは切り捨てた。



(命あっての物種だ、というだろう)



 自分の付けた鬱血痕がしばらくは消えないほど濃く付いているのを確認して意識のないゲオハルトの額に口を寄せる。眉を寄せて難しい顔をしたまま眠るゲオハルトの額は汗で湿っている。



 ゲオハルトは昨日の喘ぎ声を聞いた貴族たちに「第三王子に身体で骨抜きにされた辺境伯」と呼ばれることになるだろうが死ぬよりはマシだろう。



「もう二度と離れないよ。ゲオハルト」



 額の汗が恐怖からか快感からかはわからないがそんなことはかまわない、目が覚めたらもっともっと可愛がってあげよう。



「守るって決めたからね」



 髭の伸びかけたゲオハルトの顎を撫でながら目が覚めたらもう一度声が枯れるまで啼かせたいと思うヤンデレ王子リヒトであった。
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