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3.最強の名
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「おたく、これはどう言うことだ」
「何回言わせるんですか、私はおたくじゃありません。柊 沙耶です」
琴覇学園から数キロ離れた先にある大手チェーン店に白夜とキスリラはいた。
どこか不服そうな白夜。その雰囲気はどんよりしている。
設置されたテーブルの椅子に座る他の客は和気藹々と食事を楽しんでいる。
しかし二人の間には場違いともいえる険悪な雰囲気が漂っている。正確には一方的に、だが。
「わかった。じゃあ柊、これはどういうことか説明してくれや」
「お昼食べてなかったのでずっとお腹空いてたんですよ」
「そんなことを言っているんじゃねぇよ」
柊を睨む白夜。その視線を受けた柊はやり返しとばかり睨み返す。
「だから既に言ったじゃありませんか、私のあの現象について説明しますって」
「だったら早くしてくれ。それに何でここなんだよ。こういう場合、普通人がいないところでするもんだろ」
その現象が余りに特殊な事であったがために白夜は人気のないところで話し合うことを想定していた。
だが予想外に柊は飲食店を選び、白夜の脳裏にもしかしたら話し合うことなくただ食事して終わるのでは、という一抹の不安が過る。
「別に構わないじゃないですか。私たちの会話を盗み聞きしたところで理解されないと思いますし、何より怪しい者の気配がしません」
柊は全く気にする様子を見せる事なく事前に頼んだハンバーグを咀嚼する。
「もしお前の索敵能力を搔い潜って怪しい奴が俺らの会話を聞いている場合は?」
「私の索敵は世界最強ですよ?」
柊は、ただ……と言葉を重ねる。
「もし貴方の言う通りになったとしてもその時はその時です」
何故か自信満々に言い切る柊。白夜の不安は更に大きくなる。
「はぁ……」
柊の言葉は余程お腹が空いていたのか嬉々として所々跳ねており、場所を移動した趣旨と違い食べることに夢中になっている。
その様子に白夜はどうしたらいいんだと溜息を漏らす。
「あのさぁ、これから情報交換をするわけだろ?」
「そうですね」
「だったら食うのは後回しでもいいんじゃ────」
「あ?」
「っ!?」
ギロリ。
とてつもなく鋭い眼光が本題に移ろうとした白夜に刺さる。
一瞬で静寂に支配された二人の空間は、熱さが保った鉄板に置かれたハンバーグの焼き音で虚しく満たされた。
「な、何でもありません」
「なら初めから物申すようなことを言わないでください。時間の無駄ですから」
「(この女……)」
煮え湯を飲まされるごとく黒い感情を心の中で蠢かせる白夜。
対して柊は美味しそうにハンバーグの肉片を口の中で頬張る。
次第に自然とその頬はリスのように膨らんでいた。
「もう食べながらでいいから聞かせてくれ。なんであんたの顕現武器が自然消滅したんだ?」
「……」
「おーい!聞いてんのか?おーい!柊さーん?」
ごっくん。
柊は喉を鳴らし肉を嚥下すると、鉄板のそばに置いた水が入ったコップを持ち喉に引っかかった肉の脂を流した。
「すみません。食べるのに夢中でついあなたの存在を忘れてしまいました。
「おい。この数秒で俺の存在を忘れるとかどういう原理だ」
「でも安心してください。次からはこのようなことがないよう頑張りますので」
グサっと白夜の心に柊の素直な言葉が突き刺さる。
「なんだよそれ。俺ってそんなに存在感薄かったのか……」
白夜は力無くあはははと笑い、先程までの勢いを感じさせないほどに項垂れてしまう。
「私からすればの話ですが。まぁそんなことより────」
「そんなことより……ね」
どんどん姿勢が前傾姿勢に項垂れていく白夜。心なしか目が死んでいる。
その様子に柊は気にとめることなく言葉を重ねた。
「私の剣がなぜ消えたかを説明します」
☆
遡るのは講堂の中────
「すごいな……」
「どうですか?見惚れちゃいました?」
不敵な笑みを浮かべるキスリラ。
その姿は凛々しく美しい。幻想だと分かっていても背中から翼が生えているかのような錯覚がして、拭いきれない神々しさが真正面から如実に伝わってくる。
「ああ、正直な。つーか見惚れる以前におたくの剣からとんでもねぇ圧力を感じる。認めたくねぇが立っていていられるのが奇跡って思っちまったぜ」
「ふふふっ、そうでしょうそうでしょう」
キスリラは嬉しそうに相槌をうつ。
「流石世界最強様だな。気配から既に只者じゃねぇ。美少女だと思ってナンパした奴がいたら可哀想で仕方ねぇな」
「最後の言葉は少し気になりますが、その言い分は間違っていません。だって私の中には勝利のビジョンしかありませんから」
柊の言葉が嘘偽り一つないことを、ヒシヒシと身体に伝わる力が肯定している。
「どこにも隙はないし目線を外せばそこで俺の命が狩り取られそうだぜ……しかし、これはちとおかしいな」
「あら、つまらないですね。もう気づいちゃいましたか」
「ああ、だっておたく……」
白夜の言葉とともに突如、銀色に輝く二刀の剣が半透明になっていく。
それは常識的に考えて異常事態ともいえる現象。
しかしキスリラは戸惑うことなく、まるで何度も経験したといわんばかり冷静さを保っている。
突然の出来事に、白夜は二重の意味での驚きを覚える。
そしてついに可視化と不可視を往き来した二刀の剣が成仏したかのようにその姿を消した。
「やはりもって二分……これが今の私の限界ですね」
何が何だかわからない。体験したことのない出来事と驚愕の連続に、白夜は取り乱し混乱していた。
「これは、一体どういう事だ?顕現武器が所有者の意思関係なく現存を否定するって……」
「はぁ……。わざわざ貴重な魔力を使ったのに何もわからないなんて、落胆を通り越して軽蔑すら抱きますね」
「だってよ、こんなこと、見たことも聞いたこともねぇぞ!」
「だとしてもですよ」
白夜の言葉は事実。柊もそれを分かっているはず。
柊の身に起きた現象を知らないのが普通なのだが、柊の白夜を責めるような言いように白夜は不貞腐れたように声を荒げた。
「あのなぁ、だいたい顕現武器を持っているやつ自体少ねぇんだよ。情報も文献も少ない中でそんな例外みたいな現象見せつけられても答えなんてわかるはずがねぇだろ」
「はっ、アホ丸出しですね」
嘲笑うように鼻を高くしたキスリラに、白夜の額に一本の青筋がはいる。
「いちいち癪に触る奴だなおたくという奴は」
「おたくじゃありません。私のことは柊 沙耶と呼んでください」
「あ?」
「私は最強ですから」
「それはさっき聞いたよ」
白夜の受け答えに柊は呆れたように吐息を漏らす。
「はぁ、本当に話が見えない人ですね。ここ琴覇学園には千人近くの生徒教員がいます。つまりは────」
「バレたらめんどくさい、か?」
「分かっているじゃありませんか。こんな所にキスリラがいるなんて有り得ない。学園に関わる人たちは皆そう思うはずです。でも、キスリラという名前だけで目立っちゃいますから」
「あぁ、おたくが俺を馬鹿にしているのが分かったよ」
「馬鹿にはしてませんよ。ただ知能が鳥レベルだな、とは思ってますけど」
「それが馬鹿にしてるって言ってんだろが!」
白夜はどうにかこの憎たらしい顔にパンチ一発お見舞いしたい衝動に駆られるも、さっきの裏拳の件と正体を知って苦虫を噛むしかないということに怒りが更に膨れ上がる。
綺麗な女性は中身も純情。そんな女性を創り登場させたお伽話はやはり所詮お伽話。
そのような可憐で美人な女性を追い求め夢見たところで無駄。
何故なら目の前にいる見た目百点の女が、初対面の人間を何度も馬鹿にする最悪な女だから。
もう綺麗な女性に希望や夢を抱かない。
と、そんな意味のないことを考えていると自然と先程まで沸々と湧き上がっていた怒りが、すーっと収まっていくのを感じた。
「あーもうなんか柊と話しているうちにいろいろと諦めがついたぜ」
「ふふっ、成長しましたね」
またもカンに触る柊の言葉に一瞬気が立つも、ここで怒鳴ってもまた馬鹿にされるだけと自制し、柊の話の中で抱いた疑問を柊に投げかけた。
「でもよ、最強の剣士様だったら顔バレとかしてるんじゃないか?」
最強という肩書きは伊達ではない。
何億人といる人口の頂点に立つ人物。戦国時代の実力至上主義の意識が未だ根強く深層心理に潜むここ日本で目立たないわけがない。
一度外に出れば囲まれてしまいその集団に巻き込まれることでこれからの学園生活が台無しになるのでは、と危惧する白夜。
「確かに最高ランクであるランクSSの持ち主である私が出ればすぐさま握手会やサイン会の嵐、私はその瞬間人類の神になってしまいます」
「あーそぅ。半分何言っているわからんが、兎に角俺の言いたいことが伝わってよかったぜ」
安堵の気持ちが孕んだ白夜の言葉に、柊は小馬鹿にされていると感じたのか少しむすっとする。
「ですが、私の場合敵討伐に出るときはいうも仮面をしていました」
「なるほどな」
「私、世界最強かつ15歳なので、プライベートはゆっくり過ごしたいんですよ」
「へぇ、なんか意外だな……」
柊の左眉がピクリと跳ねる。
「意外……ですか?」
「ああ。だっておたく、ローデワイス・キスリラは世界でたった一人のランクSSだぞ?それほどまでに人外な人間ってことは血反吐吐くのが日常みたいな修行をしないと至れねぇよな。つまり必然的に年数がかかる。となるとランクSの称号を持つやつらは俺の中ではご年配な方のイメージがあるんだよ」
「そうですか?今存命の他のランクS保持者は結構若い人が多いですよ?」
「へぇ~やっぱり才能も桁違いってことか。っていうかそれ初耳だな」
初耳。
その言葉が柊センサーにビビッと反応した。
「まさか……その様子だと、神天五剣もしらないんじゃ……」
「ああ、知らねぇな」
「はぁ……」
分かりやすく頭を抱える柊。
白夜は自身の無知力を肯定するように首を傾げる。
「世間知らずにも程がありますよ。いいですか?神天五剣とは、私を含め五人のランクSを冠する者達の総称です」
「へぇ、確かにそんな大層な名前知らないとか言ったら世間知らずと言われても仕方ねぇな」
「えぇ、本当にそうですよ。私、神天五剣を知らないなんて言う人に初めて会いました」
「知らなくて悪かったな」
今日何度目か分からない呆れた物言いに、白夜は苦い顔をする。
「でもまぁ、俺はここ十年周りがどうなっているとか何にもしらねぇから、仕方ないっちゃ仕方ないけどな」
頭の後頭部をかき、懐かしそうに脳内で過去を振り返る白夜。それは無意識に顔にも出ていた。
「え、それはどういうこと……いや、まだ確証はありませんね」
「ん?どうした?」
柊は白夜に向けて身を乗り出し訊ねようとするも、何故か問いかけることを躊躇い途中で言動を止めた。
その不自然な動きと独り言のような柊の小さな言葉に白夜は疑問を浮かべる。
「何でもありません。それより場所を移しませんか?ここで私の顕現武器について説明するのもなんですから」
「分かった」
その時、白夜は柊の瞳が爛々と輝いていることに気づくことはなかった。
「何回言わせるんですか、私はおたくじゃありません。柊 沙耶です」
琴覇学園から数キロ離れた先にある大手チェーン店に白夜とキスリラはいた。
どこか不服そうな白夜。その雰囲気はどんよりしている。
設置されたテーブルの椅子に座る他の客は和気藹々と食事を楽しんでいる。
しかし二人の間には場違いともいえる険悪な雰囲気が漂っている。正確には一方的に、だが。
「わかった。じゃあ柊、これはどういうことか説明してくれや」
「お昼食べてなかったのでずっとお腹空いてたんですよ」
「そんなことを言っているんじゃねぇよ」
柊を睨む白夜。その視線を受けた柊はやり返しとばかり睨み返す。
「だから既に言ったじゃありませんか、私のあの現象について説明しますって」
「だったら早くしてくれ。それに何でここなんだよ。こういう場合、普通人がいないところでするもんだろ」
その現象が余りに特殊な事であったがために白夜は人気のないところで話し合うことを想定していた。
だが予想外に柊は飲食店を選び、白夜の脳裏にもしかしたら話し合うことなくただ食事して終わるのでは、という一抹の不安が過る。
「別に構わないじゃないですか。私たちの会話を盗み聞きしたところで理解されないと思いますし、何より怪しい者の気配がしません」
柊は全く気にする様子を見せる事なく事前に頼んだハンバーグを咀嚼する。
「もしお前の索敵能力を搔い潜って怪しい奴が俺らの会話を聞いている場合は?」
「私の索敵は世界最強ですよ?」
柊は、ただ……と言葉を重ねる。
「もし貴方の言う通りになったとしてもその時はその時です」
何故か自信満々に言い切る柊。白夜の不安は更に大きくなる。
「はぁ……」
柊の言葉は余程お腹が空いていたのか嬉々として所々跳ねており、場所を移動した趣旨と違い食べることに夢中になっている。
その様子に白夜はどうしたらいいんだと溜息を漏らす。
「あのさぁ、これから情報交換をするわけだろ?」
「そうですね」
「だったら食うのは後回しでもいいんじゃ────」
「あ?」
「っ!?」
ギロリ。
とてつもなく鋭い眼光が本題に移ろうとした白夜に刺さる。
一瞬で静寂に支配された二人の空間は、熱さが保った鉄板に置かれたハンバーグの焼き音で虚しく満たされた。
「な、何でもありません」
「なら初めから物申すようなことを言わないでください。時間の無駄ですから」
「(この女……)」
煮え湯を飲まされるごとく黒い感情を心の中で蠢かせる白夜。
対して柊は美味しそうにハンバーグの肉片を口の中で頬張る。
次第に自然とその頬はリスのように膨らんでいた。
「もう食べながらでいいから聞かせてくれ。なんであんたの顕現武器が自然消滅したんだ?」
「……」
「おーい!聞いてんのか?おーい!柊さーん?」
ごっくん。
柊は喉を鳴らし肉を嚥下すると、鉄板のそばに置いた水が入ったコップを持ち喉に引っかかった肉の脂を流した。
「すみません。食べるのに夢中でついあなたの存在を忘れてしまいました。
「おい。この数秒で俺の存在を忘れるとかどういう原理だ」
「でも安心してください。次からはこのようなことがないよう頑張りますので」
グサっと白夜の心に柊の素直な言葉が突き刺さる。
「なんだよそれ。俺ってそんなに存在感薄かったのか……」
白夜は力無くあはははと笑い、先程までの勢いを感じさせないほどに項垂れてしまう。
「私からすればの話ですが。まぁそんなことより────」
「そんなことより……ね」
どんどん姿勢が前傾姿勢に項垂れていく白夜。心なしか目が死んでいる。
その様子に柊は気にとめることなく言葉を重ねた。
「私の剣がなぜ消えたかを説明します」
☆
遡るのは講堂の中────
「すごいな……」
「どうですか?見惚れちゃいました?」
不敵な笑みを浮かべるキスリラ。
その姿は凛々しく美しい。幻想だと分かっていても背中から翼が生えているかのような錯覚がして、拭いきれない神々しさが真正面から如実に伝わってくる。
「ああ、正直な。つーか見惚れる以前におたくの剣からとんでもねぇ圧力を感じる。認めたくねぇが立っていていられるのが奇跡って思っちまったぜ」
「ふふふっ、そうでしょうそうでしょう」
キスリラは嬉しそうに相槌をうつ。
「流石世界最強様だな。気配から既に只者じゃねぇ。美少女だと思ってナンパした奴がいたら可哀想で仕方ねぇな」
「最後の言葉は少し気になりますが、その言い分は間違っていません。だって私の中には勝利のビジョンしかありませんから」
柊の言葉が嘘偽り一つないことを、ヒシヒシと身体に伝わる力が肯定している。
「どこにも隙はないし目線を外せばそこで俺の命が狩り取られそうだぜ……しかし、これはちとおかしいな」
「あら、つまらないですね。もう気づいちゃいましたか」
「ああ、だっておたく……」
白夜の言葉とともに突如、銀色に輝く二刀の剣が半透明になっていく。
それは常識的に考えて異常事態ともいえる現象。
しかしキスリラは戸惑うことなく、まるで何度も経験したといわんばかり冷静さを保っている。
突然の出来事に、白夜は二重の意味での驚きを覚える。
そしてついに可視化と不可視を往き来した二刀の剣が成仏したかのようにその姿を消した。
「やはりもって二分……これが今の私の限界ですね」
何が何だかわからない。体験したことのない出来事と驚愕の連続に、白夜は取り乱し混乱していた。
「これは、一体どういう事だ?顕現武器が所有者の意思関係なく現存を否定するって……」
「はぁ……。わざわざ貴重な魔力を使ったのに何もわからないなんて、落胆を通り越して軽蔑すら抱きますね」
「だってよ、こんなこと、見たことも聞いたこともねぇぞ!」
「だとしてもですよ」
白夜の言葉は事実。柊もそれを分かっているはず。
柊の身に起きた現象を知らないのが普通なのだが、柊の白夜を責めるような言いように白夜は不貞腐れたように声を荒げた。
「あのなぁ、だいたい顕現武器を持っているやつ自体少ねぇんだよ。情報も文献も少ない中でそんな例外みたいな現象見せつけられても答えなんてわかるはずがねぇだろ」
「はっ、アホ丸出しですね」
嘲笑うように鼻を高くしたキスリラに、白夜の額に一本の青筋がはいる。
「いちいち癪に触る奴だなおたくという奴は」
「おたくじゃありません。私のことは柊 沙耶と呼んでください」
「あ?」
「私は最強ですから」
「それはさっき聞いたよ」
白夜の受け答えに柊は呆れたように吐息を漏らす。
「はぁ、本当に話が見えない人ですね。ここ琴覇学園には千人近くの生徒教員がいます。つまりは────」
「バレたらめんどくさい、か?」
「分かっているじゃありませんか。こんな所にキスリラがいるなんて有り得ない。学園に関わる人たちは皆そう思うはずです。でも、キスリラという名前だけで目立っちゃいますから」
「あぁ、おたくが俺を馬鹿にしているのが分かったよ」
「馬鹿にはしてませんよ。ただ知能が鳥レベルだな、とは思ってますけど」
「それが馬鹿にしてるって言ってんだろが!」
白夜はどうにかこの憎たらしい顔にパンチ一発お見舞いしたい衝動に駆られるも、さっきの裏拳の件と正体を知って苦虫を噛むしかないということに怒りが更に膨れ上がる。
綺麗な女性は中身も純情。そんな女性を創り登場させたお伽話はやはり所詮お伽話。
そのような可憐で美人な女性を追い求め夢見たところで無駄。
何故なら目の前にいる見た目百点の女が、初対面の人間を何度も馬鹿にする最悪な女だから。
もう綺麗な女性に希望や夢を抱かない。
と、そんな意味のないことを考えていると自然と先程まで沸々と湧き上がっていた怒りが、すーっと収まっていくのを感じた。
「あーもうなんか柊と話しているうちにいろいろと諦めがついたぜ」
「ふふっ、成長しましたね」
またもカンに触る柊の言葉に一瞬気が立つも、ここで怒鳴ってもまた馬鹿にされるだけと自制し、柊の話の中で抱いた疑問を柊に投げかけた。
「でもよ、最強の剣士様だったら顔バレとかしてるんじゃないか?」
最強という肩書きは伊達ではない。
何億人といる人口の頂点に立つ人物。戦国時代の実力至上主義の意識が未だ根強く深層心理に潜むここ日本で目立たないわけがない。
一度外に出れば囲まれてしまいその集団に巻き込まれることでこれからの学園生活が台無しになるのでは、と危惧する白夜。
「確かに最高ランクであるランクSSの持ち主である私が出ればすぐさま握手会やサイン会の嵐、私はその瞬間人類の神になってしまいます」
「あーそぅ。半分何言っているわからんが、兎に角俺の言いたいことが伝わってよかったぜ」
安堵の気持ちが孕んだ白夜の言葉に、柊は小馬鹿にされていると感じたのか少しむすっとする。
「ですが、私の場合敵討伐に出るときはいうも仮面をしていました」
「なるほどな」
「私、世界最強かつ15歳なので、プライベートはゆっくり過ごしたいんですよ」
「へぇ、なんか意外だな……」
柊の左眉がピクリと跳ねる。
「意外……ですか?」
「ああ。だっておたく、ローデワイス・キスリラは世界でたった一人のランクSSだぞ?それほどまでに人外な人間ってことは血反吐吐くのが日常みたいな修行をしないと至れねぇよな。つまり必然的に年数がかかる。となるとランクSの称号を持つやつらは俺の中ではご年配な方のイメージがあるんだよ」
「そうですか?今存命の他のランクS保持者は結構若い人が多いですよ?」
「へぇ~やっぱり才能も桁違いってことか。っていうかそれ初耳だな」
初耳。
その言葉が柊センサーにビビッと反応した。
「まさか……その様子だと、神天五剣もしらないんじゃ……」
「ああ、知らねぇな」
「はぁ……」
分かりやすく頭を抱える柊。
白夜は自身の無知力を肯定するように首を傾げる。
「世間知らずにも程がありますよ。いいですか?神天五剣とは、私を含め五人のランクSを冠する者達の総称です」
「へぇ、確かにそんな大層な名前知らないとか言ったら世間知らずと言われても仕方ねぇな」
「えぇ、本当にそうですよ。私、神天五剣を知らないなんて言う人に初めて会いました」
「知らなくて悪かったな」
今日何度目か分からない呆れた物言いに、白夜は苦い顔をする。
「でもまぁ、俺はここ十年周りがどうなっているとか何にもしらねぇから、仕方ないっちゃ仕方ないけどな」
頭の後頭部をかき、懐かしそうに脳内で過去を振り返る白夜。それは無意識に顔にも出ていた。
「え、それはどういうこと……いや、まだ確証はありませんね」
「ん?どうした?」
柊は白夜に向けて身を乗り出し訊ねようとするも、何故か問いかけることを躊躇い途中で言動を止めた。
その不自然な動きと独り言のような柊の小さな言葉に白夜は疑問を浮かべる。
「何でもありません。それより場所を移しませんか?ここで私の顕現武器について説明するのもなんですから」
「分かった」
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