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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
助けないと
しおりを挟む気のせい……?
キラッ、と窓の外で何かが光ったような気がした。
でも今は他の事に気を取られている場合じゃない。
ジョハン様を見上げて睨み、言葉を発する。
声が、微かに震えてしまう。
「貴方は私に、どんな願いを聞いて欲しいと思っているの……っ」
「色々ありますが、まずは……ラッドレン殿下を説得していただく事ですね。私の留学先での成績は正当なもので、ギフティラ学院特例無試験においても不正は無かったと。ミーネ妃殿下の言う事ならラッドレン殿下は疑わずに信じてくださるでしょうから」
「そんな事は……」
そんな事は無い、と否定しようとして口をつぐんだ。
私に薬を飲ませて言う事をきかせても、それは無駄な結果に終わるに違いない。
ラッドレン殿下なら、私が何を言ったとしてもきちんと調べてくださるはずだから。
でも今その事をここでジョハン様に説明するよりは、私に薬を飲ませれば望みが叶うと思い込ませておいた方がいいのかもしれない。
「そんな事はできない、ですか? でもしていただかなくては。何度も薬を飲めば、薬欲しさにしたくなりますよ。最初は無理やり飲んでもらわなければならないかもしれませんが。ふふ、ではミーネ妃殿下、そろそろ飲んでいただきましょうか」
「飲むわ。無理やりになんてされなくても。……そうすれば貴方の願いは叶うのでしょう? だからサフィニア様は解放してさしあげて」
「それはできませんよ」
「なぜ」
ジョハン様の顔をキッと睨み続ける。
するとジョハン様が、仄暗い笑みを深めた。
「サフィニア嬢は謙虚で私との婚約を遠慮しているようだから、既成事実を作って結婚してさしあげようと思って」
「……なんですって」
「まぁ一度快楽を覚えれば遠慮も無くなり、次からは喜んで夫に抱かれたいと望むようになるでしょう」
ひっ、と怯えたような小さな声がサフィニア様の方から聞こえてきた。
その声に反応したのか、ジョハン様が視線をサフィニア様の方へ向ける。
「ふふ、先に相手をして欲しいですか。いいですよ、サフィニア」
「ぃ、ぃゃ……、こないで……」
ジョハン様がサフィニア様の方へ歩いていく。
サフィニア様はラッドレン殿下にとって大切な方。
ジョハン様に穢されるわけにはいかない。
『サフィニア様を助けないと』
背中合わせで座っているマーコット様に小声で囁く。
今は私と手をつないで縛られているフリをしているマーコット様、おそらく最初は拘束されていたに違いない。
どんな方法を使って拘束を解いたのか分からないけれど……。
そんな事ができるくらいだから、私が時間を稼げばマーコット様ならサフィニア様を連れて逃げる事ができるかもしれない。
『ダメだよ、おとなしくしてて』
マーコット様の囁きが聞こえてきたけれど、私がおとなしくしていたらサフィニア様が……。
すぅ……と息を吸って、ハッキリとした声でジョハン様へ話しかける。
「ジョハン様、私に薬を使うなら効くまでに時間がかかるでしょう? 先に飲ませておかなくていいのかしら。私が戻らない事を心配して侍女は必ず行動を起こすわ。この場所が見つかるまでの時間はどんどん減っていくのよ」
サフィニア様に触れようとしていたジョハン様が、私の方へ顔の向きを変えた。
「ミーネ妃殿下の侍女……、ベルマリー嬢ですかね。男爵令嬢のくせにギフティラ学院へ入学した、目障りな女だった。あんな風に身分をわきまえない者がいるから、私の進学が妨げられたんだ」
ジョハン様は手にしていたカップへ、液体を注いでいく。
そしてそれを持ったまま、私の方へ近付いてきた。
手にしているカップの中身はおそらく媚薬の入った飲み物。
アレを何度も飲んだら自分はどうなってしまうのか。
恐ろしいけれど、時間を少しでも稼がなければ。
そうすればその間に誰かが助けに来てくれるかもしれない。
私は正気を失っても、ラッドレン殿下のためにサフィニア様が助かってくれれば……
再びキラッ、と窓の外で何かが光ったような気がした。
すると次の瞬間、シュッと窓へ向かって何かを投げたマーコット様。
ベチョッ、と何かが破裂するような音がして、窓についた青いインク。
そしてすぐにマーコット様は、窓と反対の壁に向かって何かを投げた。
壁に当たった何かから、凄い勢いでモクモクと出てきた白い煙。
煙はあっという間に室内へ充満し、視界が遮られていく。
今度は突然、ガジャン、と窓の方で響いた破壊音。
その直後、びゅぅッ、と風を感じて。
風に戸惑っていると誰かに、ぎゅッと抱きしめられた。
私を抱きしめる、この人の感触……、私、知ってる。
「ミーネ」
優しく私の名を呼ぶ声に安心して、我慢していた涙がポロポロ零れてしまう。
私の名を呼んだ人は私を担ぐようにして抱き上げると、ジョハン様らしき人を蹴り飛ばしているマーコット様へ声をかけてから扉の方へ向かって走り出した。
「マーコット、サフィニア嬢を頼む!」
「了解!」
外から風が入ってきたおかげで煙はだいぶ薄くなっている。
でも私の視界は、涙で滲みぼやけたまま。
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