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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
本命(ラッドレン視点)
しおりを挟むタジェロンも戻り、マーコットと三人で宰相会議に備えた最終の打ち合わせを行う。
最後の最後に、マーコットから確認された。
「手紙の件……どうしても送るの? 殿下は甘すぎると思うんだけど」
「私もその点は反対したんですけどね、殿下の考えは変わりませんでした」
「俺も甘いと分かっている……だが、変更は無しだ。自分の噂の調査がきっかけで、とミーネが心を痛める要素はなるべく減らしたい」
「そっか……それなら予定通りにするよ。宰相会議の始まる時間にあわせてキラエイ公爵邸へ届くようになってるからね」
「よろしく頼む」
打ち合わせを終え、ミーネの部屋へ行き扉をノックする。
返事は、無かった。
もしかしたら馬車の方へ行っているのかもしれない。
踵を返……そうとしたら寝室のドアが視界に入った。
こんな時間、夫婦の寝室には恐らくいないだろうと思ったが、念のため扉を開けてみる。
予想に反して、なぜかミーネは寝室にいた。
窓際に立ち、目を大きく見開いてこちらを見ている。
身体をこわばらせ、少し身構えているような感じで。
町娘が着るようなスッキリとした水色のワンピースを着ていた。
いつも着ているドレスとは違う。
普段とはまた違った可愛さが眩しい。
上から被って着るようになっているのか、胸元が大きく開いているのは心配だが。
可愛い、とても可愛い。
シンプルなデザインの服だから、ミーネの可愛さがひきたっている。
だが何故、このような格好を?
『サプライズでイベント当日デートに誘うのが流行っているらしいよ』
マーコットの言葉を思い出し、途端に胸が痛くなった。
「ミーネ……なぜ、フォトウェル商会まで往復させるための馬車を手配したのかな?」
平静を装ってミーネの方へ歩いていく。
だが動揺を隠しきれていないのが、自分でも分かった。
ミーネに関すること以外では、いつも冷静でいられるのに。
「しかもベルマリーが一緒とはいえ、乗車予定者の名前にミーネとマーコットの名前が書かれていた。どういう事か説明できる?」
慌てた様子で俺に背を向けたミーネの身体を、出窓と自分の身体で閉じ込めるようにして両手をついた。
「答えて、ミーネ」
出窓の方へ前のめりの姿勢になっているミーネの耳元で囁く。
するとガサリという音が、すぐ下の方から聞こえた。
「これは……?」
ミーネの手に、可愛らしいリボンのついた袋が握られている。
ちらりと見ただけでも、誰かへのプレゼントなのは明らか。
袋を握るミーネの手首を持って、目の高さまで持ち上げた。
「これは何かな、ミーネ?」
「クッキー、です……」
「……マーコットへ渡すために用意していたのか?」
俺に背を向けたまま、ミーネがコクリと頷く。
「マーコット様に渡そうと思って作りました」
「それでなぜ馬車の手配を? 俺に預ければいいのに。それともそれができない理由でも?」
そんな理由はありません、とミーネが言ってくれるのを期待してしまう。
殿下に渡せばよかったですね失念しておりました、と言いながら微笑んで欲しい。
「マーコット様とふたりで話がしたかったからです。でも約束はしていなくて」
「ふたりで、話を……」
「はい。ここで待って下を通るマーコット様を呼び止めるつもりでした。声をかけるきっかけにと思いマーコット様が好きなクッキーを作って……」
「……街へ出かけるような格好をしているのも、マーコットと会って馬車に乗るため?」
首を縦に動かしたミーネを見た途端、心臓を鷲掴みにされたかと思うくらいの痛みが走った。
この可愛らしい格好も、マーコットに見せるため。
わざわざクッキーまで焼いてデートに誘おうと。
ずっとここで胸をときめかせながら待っていたのか。
積極的な行動の数々で確信した……ミーネの本命はマーコットだと。
ネイブルに対して頬を染めたのかと思ったあの時も、思い返してみるとマーコットがすぐそばにいた。
タジェロンの前でミーネが艶めいて感じられたのは、本当に熱っぽかっただけなのかもしれない。
「今日は街で花祭りが開かれているからね。ミーネはそこへマーコットと行きたかったのかな?」
出窓の向こうに、サフィニア嬢と並んで歩くマーコットの姿が見えた。
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