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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

ふたりで……

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 ドアの音に驚いて振り返ると、すでに閉じられた扉のすぐそばに殿下の姿が。

 心なしか仄暗い雰囲気を感じるのは、気のせい?

 殿下の口元は優しげに微笑んでいるけれど。
 目は笑みを作ろうとしているだけで、笑っていないような。

「ミーネ……なぜ、フォトウェル商会まで往復させるための馬車を手配したのかな?」

 いつもより少し低い声。
 殿下は首元に結んだスカーフを片手で緩めながら、ゆっくりと近づいてきた。

「しかもベルマリーが一緒とはいえ、乗車予定者の名前にミーネとマーコットの名前が書かれていた。どういう事か説明できる?」

 解いたスカーフを歩きながら上着の外ポケットへ乱暴に入れた殿下。
 いつもと違う荒々しい様子に少し怖くなり、逃れるように後ろを向いて出窓のガラスを見つめる。

 すると私のすぐ背後に立った殿下が、壁と出窓の張り出し部分で作られた角に両手をついた。
 殿下の身体で背中を少し押されるような姿勢になり、自然と上半身が前のめりになってしまう。

「答えて、ミーネ」

 耳元で囁かれ、身体の奥がゾクリと震えた。
 答えるまでは逃がさない、という感じに私の身体は殿下に囚われている。
 腰から下は殿下と壁に挟まれて動けない。かろうじて動かせるのは出窓の張り出し部分にのり出した上半身だけ。
 
 思わず手をギュッと握りしめてしまった。
 クッキーを入れている袋の端で、ガサリと音が立つ。

「これは……?」

 音が気になったのかもしれない。
 小さく呟いた殿下が、私の手首を掴み目の高さまで持ち上げた。
 私の手には、プレゼント用に可愛らしいリボンのついた袋の端が握られたまま。

「これは何かな、ミーネ?」
「クッキー、です……」
「……マーコットへ渡すために用意していたのか?」

 いつもより低い殿下の声が、ほんの微かにだけど震えている。

 もしかしたら殿下は視察中の調査内容について私がマーコット様から聞き出そうとしているのを察して、余計な事をするなと怒っているのかもしれない。
 ここで嘘をついたりしたら、きっと殿下をさらに怒らせてしまう。

 殿下に背を向けたままコクリと頷く。

「マーコット様に渡そうと思って作りました」
「それでなぜ馬車の手配を? 俺に預ければいいのに。それともそれができない理由でも?」

 咎めるような殿下の声。
 やはり勝手に不正の件について調べようとしている私の事を怒っていらっしゃる。
 正直に全部話せと、苛立っている感じ。

「マーコット様とふたりで話がしたかったからです。でも約束はしていなくて」
「ふたりで、話を……」
「はい。ここで待って下を通るマーコット様を呼び止めるつもりでした。声をかけるきっかけにと思いマーコット様が好きなクッキーを作って……」
「……街へ出かけるような格好をしているのも、マーコットと会って馬車に乗るため?」

 再び首を縦に動かす。
 マーコット様を呼び止めたらすぐに下へおりていくことができるように。
 今日は普段着るような動きにくいドレスではなく、頭からスポッと被って着られる軽めのワンピースを着ている。

「今日は街で花祭りが開かれているからね。ミーネはそこへマーコットと行きたかったのかな?」

 花祭り?
 そんな事は全然頭に無かった。

「殿下、ちが」
「ぁ、ほらマーコットが来たよ。声をかけた方がいいんじゃないか?」

 出窓のガラス越しに下を眺めると、並んで歩くサフィニア様とマーコット様の姿が見えた。





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